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世の中には魔法はないのかもしれないけど、「魔法使い」はいる

遠藤司皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー

 1月30日、一般社団法人未来の大人応援プロジェクトの決起会が行われた。

 プロジェクトの発起人は、岸川政之さん。わが皇學館大学現代日本社会学部の教授として、筆者と同じ3年前に着任した人だ。決起会に参加したのは、19名。筆者と、新田均学部長と、それから特別招聘教授の津田栄さんも参加した。

 もともと岸川さんは、三重県の多気町役場の職員だった。その頃に、テレビドラマにもなった「高校生レストラン」、まごの店を立ち上げた。高校生らが輝ける場所があれば、もっと成長するに違いない。そう思い、彼らにレストランを運営してもらうことにしたのである。

 自分たちのつくった美味いものを食べて、お客さんたちが喜ぶ。最高の経験だ。人は誰かの喜ぶ顔を見たときに、頑張ってよかったと思えるようになる。これからも喜んでもらいたいと思い、努力を重ねることができるようになる。仕事とは、ただ金を儲けることではない。お客さんにありがとうと言ってもらうために、自分のできること、やるべきことを行うことにほかならない。自分の仕事に従事しているとき、人は輝くことができるようになる。生きがいをもつことができるようになる。

 岸川さんの仕事は、高校生を輝かせることだ。未来への希望、大人になってからよりよい社会をつくるであろう希望を、支援することだ。岸川さんはいつも率直に言う。頑張っている高校生が好きだ。たとえ大きな成功を収めていなくても、前を向いて、今日という日を精いっぱい生きている高校生らが好きだ。だから自分もまた、頑張ることができる。自分の仕事はこれだと決めて、忙しいけれど充実した人生を送ることができている。

 岸川さんは日本中を飛び回って、講演活動や、高校生の活動支援を行っている。その中で、様々な地域ビジネスの立ち上げを支援しながら、子供たちの喜ぶ顔を見てきた。例えばレストランは、手段である。あるいは、自分が輝くための、場所である。重要なのは、目の前の子供が、かれ自身として輝くことだ。そのための手段は何でもよい。かれに適した手段を選んでもらえればよい。だから岸川さんは、SBP(ソーシャルビジネスプロジェクト)を立ち上げた。いまだ輝いていない日本中の子供たち、例えば地方にいて、輝く機会を得られていない子供たちが成長する機会を設けられればと思ったのである。

岸川さんの魔法の言葉

 魔法使いは、呪文を唱えることで、魔法をかける。岸川さんもまた、高校生に声をかけて励ますことで、魔法をかける。

 岸川さんの声かけは、自然な言葉のように聞こえるのだが、実は人が自ら動くために必要な様々な要素が含まれている。おそらく過去の経験によって、それらの言葉を使うと、彼らの成長に効果があることを理解していったのだろう。例えば岸川さんは、子供たちが考えてきた企画やアイディアを否定しない。足りないものがあるとも言わないし、かといって手放しに称賛もしない。どうやったら実現できるかを、一緒に考えようと言うのである。

 だから子供たちは、すぐさま一歩めを踏み出すことができる。目の前に、自分を認めてくれる人がいて、自分の隣で同じ未来を描いてくれる。自分にもできるかもしれない。変われるかもしれない。そうやって、前向きな気持ちになりながら、到達地点を思い描くのである。

 岸川さんの魔法は、シンデレラの魔法使いのように見た目を変えることはない。しかし、心を変えることはできる。様々に投げかけられる言葉の魔法のおかげで、たったの数時間で、子供たちは見違えたように変わってしまうのである。人の価値は、能力があるとか、何かを身に着けていることではない。よい心もちで、よい影響を周囲に与えていこうとしている人が、価値のある人である。そういう人になるように、岸川さんは言葉の魔法をかけるのである。

岸川さんの目指すもの

 岸川さんの目指すものは、人間味のある人があふれる日本社会である。それを、できれば地域とのかかわりのなかで実現したいと考えている。なぜなら地域は、都市とは違い、コミュニティのなかでよき人間性を育むことができるからである。だから岸川さんは、地域ビジネスにこだわる。子供たちが育まれることで、彼らの愛する地域もまた活性化することを目指すのである。個と公の一体となる社会こそが、岸川さんの理想とする社会といえよう。

 そういう、世の中にとっていい影響を与えるのが、SBPであり、未来の大人応援プロジェクトだ。岸川さんによる、これまでの地道な活動が功を奏し、ついにSBPは、文部科学省の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」に採用された。その決起会が、本日30日、行われたというわけである。

 日本中どこにいたって、幸せになることを放棄するいわれはない。自分の人生は、自分の手で持ち上げることができるはずだ。これが岸川さんの思いである。だからSBPは高校生の活動であり、未来の大人応援プロジェクトは、高校生を支援する団体となる。彼らがよりよい人生を送るということは、これから希望にあふれる日本が到来することを意味する。

 どうか未来の大人のために、皆さんも岸川さんを応援してほしい。よりよい未来をつくるために、ここに集まった人たちを応援してほしい。この人たちは、いい人だ。すなわち、イノベーションを担う人たちだ。日本はまだまだ捨てたものじゃないと、今日は心から思うことができた。

 ●岸川政之さんの著書:『高校生レストランの奇跡』

皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー

1981年、山梨県生まれ。MITテクノロジーレビューのアンバサダー歴任。富士ゼロックス、ガートナー、皇學館大学准教授、経営コンサル会社の執行役員を経て、現在。複数の団体の理事や役員等を務めつつ、実践的な経営手法の開発に勤しむ。また、複数回に渡り政府機関等に政策提言を実施。主な専門は事業創造、経営思想。著書に『正統のドラッカー イノベーションと保守主義』『正統のドラッカー 古来の自由とマネジメント』『創造力はこうやって鍛える』『ビビリ改善ハンドブック』『「日本的経営」の誤解』など。同志社大学大学院法学研究科博士前期課程修了。

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