Yahoo!ニュース

「山手線運休」で臨時新宿~品川間の列車はどこを走ったのか? 貨物線のミステリー

小林拓矢フリーライター
新宿~品川間の臨時列車に使用された車両と同型のE231系。(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

 10月23日から24日にかけて、山手線内回りの池袋~大崎間が運休となった。渋谷駅のホーム拡幅工事のためである。埼京線や湘南新宿ラインは増発し、内回りの代替手段としていた。

 そんな中、新宿から品川へ向かう列車が設定された。埼京線はりんかい線へ、湘南新宿ラインは武蔵小杉方面へとなるものなので、どこを走るのか、ということが興味深いものではないかと思う。

品川へ向かう山手貨物線を経由

 埼京線や湘南新宿ラインの列車が走向している路線は、もともとは「山手貨物線」と呼ばれる、貨物列車のための路線だった。だが現在は旅客列車が多く走り、貨物列車はたまにしか見ることができない。この路線を利用する人は、埼京線のイメージ、もしくは湘南新宿ラインのイメージを持っている人が多いと思われるが、実は品川方面への路線も存在している。その路線は、ふだんは成田空港へ向かう「成田エクスプレス」が走っていると知ると、「なるほど!」と思わないだろうか。

 今回の臨時列車も、「成田エクスプレス」も、基本的には走る路線は同じである。新宿駅を出ると、大崎駅手前までは埼京線などと同じ線路を走る。大崎駅のところではホームのない箇所(4番線山手線ホームと5番線湘南新宿ラインホームの間)を走る。湘南新宿ラインへ向かうのは「大崎支線」と呼ばれ、こちらの中線のほうが山手貨物線の本線である。この路線は先の目黒川信号所で横須賀線(品鶴線)と合流する。臨時列車は品川駅では14番線に入ったという。成田空港方面へ向かう「成田エクスプレス」は13番線を使用する。

 この山手貨物線の本来のルートは、現在は貨物列車では使用されていないが、国鉄時代には広大な貨物ターミナルが品川駅近くにあり、多く貨物列車が運行されていた。また、東北方面へ向かう臨時列車の一部は、上野発ではなく品川から山手貨物線を使用し、そこから東北本線へと入っていった。

 そんな路線があったために、新宿~品川間の臨時列車を走らせることができたのだ。

貨物線を走る旅客列車

 東京圏では、貨物線を利用して意外なルートを走る列車が、しょっちゅう見られる。そのうちのいくつかを紹介しよう。

 代表的なのは、東北本線の貨物線を走る湘南新宿ラインである。この路線に乗っていると、駒込駅あたりまでは山手線に並走し、そこからぐいっと向きを変えて東北本線に並走するようになる。この路線が東北本線の別線であると気づかされるのは、赤羽駅や浦和駅で東北本線とは別にホームがあり、しかも浦和駅は後からつけたような感じのホームになっているのを見るときである。

 ここほど多くの列車が走るわけではないけれど、気になるルートを走行しているものもある。たとえば八王子駅から大宮駅を結ぶ「むさしの号」だ(一部府中本町発着)。八王子駅から国立駅までは中央本線、西国分寺駅の手前で分岐する線路に入り、武蔵野線へ。この線路は、もともとは中央本線と武蔵野線で貨物列車が行き来するために設けられたものだ。北朝霞駅までは各駅に停車し、西浦和駅の手前で分岐、東北貨物線に入り大宮駅へ。貨物のための連絡線を2つも通り、湘南新宿ラインの使用する貨物線で大宮駅へ向かう。

 似たようなのが「しもうさ号」だ。大宮から西船橋・新習志野・海浜幕張の各駅を結ぶこの列車は、大宮駅からだと東北貨物線から分岐し、さらに西浦和駅方面と武蔵浦和駅方面の二股に分かれる分岐を武蔵浦和駅方面に向かう。そこからは武蔵野線で西船橋駅、列車によっては京葉線へと向かう。

 特急列車では特急「湘南」の新宿発着列車が貨物線を走る。新宿駅を出た列車は、武蔵小杉駅まで湘南新宿ラインと線路を共有するも、その先は新鶴見信号場から東海道貨物線に入り、貨物駅の横浜羽沢駅を通る。実は、相模鉄道の新宿直通列車と一部区間を共有しているのである。その後は小田原駅まで貨物線。途中駅にはこの列車のためにホームが設けられている。

 興味深いのが臨時で運行される特急「あたみ」。青梅駅と熱海駅を結ぶこの列車は、「武蔵野線経由」と時刻表には書いてある。『JTB時刻表』(JTBパブリッシング)だと、旅客列車が走る貨物線が路線図に掲載されている。正確には、立川から南武線に入り、府中本町から「武蔵野南線」に入るということである。ここは本来、貨物列車がメインの路線である。東海道貨物線と合流する新鶴見信号場までは貨物駅が梶ヶ谷貨物ターミナル駅だけで、東海道貨物線に入ってから最初に停車するのは小田原である。青梅駅から熱海駅に向かう列車は、立川を9時20分に発車したのち、10時50分着の小田原まで停車しない。およそ1時間30分ドアが開かない。

 貨物線を利用しているからこそ、こういう面白い列車が運行されることがわかる。そのことを再認識できたのが、今回の渋谷駅山手線内回りホーム拡幅による臨時列車の運行ではないだろうか。意外なところで意外な列車が運行される背景には、こういったものが存在するのだ。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

小林拓矢の最近の記事