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アフリカの「成長モデル」はなぜ凋落したか――エチオピア内戦と中国の影

六辻彰二国際政治学者
政府によるTPLF掃討作戦を支持するデモ(2021.8.8)(写真:ロイター/アフロ)
  • アフリカにおける「成長モデル」とみなされてきたエチオピアでは、内戦の激化で経済に急ブレーキがかかっている。
  • 内戦の激化によって、政府側、反政府側のどちらにも民間人の虐殺といった行為がみられ、国連は「極度の野蛮行為」を警告している。
  • この内戦の激化に神経を尖らせているのが中国で、そこには評判の悪化への懸念がある。

 約20年間、「地球上最後のフロンティア」と呼ばれたアフリカの経済成長は曲がり角を迎えている。

成長のモデル国の惨状

 北東アフリカのエチオピアで11月3日、アビー首相が全土に緊急事態宣言を発令した。これは北部ティグレ州での戦闘の激化を受けてのもので、アビー首相は市民に自衛を求めた。

 ティグレ州では昨年11月からティグレ人の民兵組織ティグレ人民解放戦線(TPLF)と政府軍の衝突が続いてきた。その影響は市民生活にも大きな影響を及ぼしており、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、すでに4万6000人以上が北西に隣接するスーダンに逃れただけでなく、国内避難民も170万人にのぼる

 民間人に対する虐殺やレイプも増加しており、国連は3日に発表した報告書で「極度の野蛮行為」が確認されたと述べている。

 エチオピア内戦の本格化は、これまで経済成長にわいてきたアフリカの今を象徴する。

 日本では「アフリカ=資源」のイメージが強いが、エチオピアはほとんど資源を産出しない。しかし、それでも政府主導で農産物の多様化などを推し進めた結果、2000年代初頭から2010年代末に至るまで、平均8%前後の成長率を維持し、そのパフォーマンスはアフリカ屈指のものとして海外の注目を集めてきた。

エチオピアの経済状況(出所)IMF, World Economic Overview.
エチオピアの経済状況(出所)IMF, World Economic Overview.

 ところが、コロナのダメージとティグレ州での内戦の影響から、IMFによると、エチオピアの2021年のGDP成長率は2%程度に落ち込む見込みである一方、物資の不足によってインフレ率は25%を上回る

 アフリカ経済全体が2014年の資源価格下落、そして昨年からのコロナで深刻な停滞に見舞われるなか、資源に頼らない経済成長のモデルケースとみなされてきたエチオピアのイメージも、今や音を立てて崩れ始めているのだ。

エチオピア内戦はなぜ起こったか

 この20年間、政治的な安定と経済成長で「アフリカの星」とみなされてきたエチオピアで、なぜ内戦が激化したのか。そこには多民族国家エチオピアで、誰が権力を握るかの争いがある。

 政府と争うティグレ人組織TPLFは、かつてエチオピア政府の主流だった。これを締め出した新興勢力との間で激化したのが今回の内戦である。

 多民族国家エチオピアでは1991年、それぞれの民族の武装組織が参加して連合体エチオピア人民革命民主戦線(EPRDF)を結成し、当時の社会主義政権を倒した。その後、EPRDFが与党として事実上の一党制を形成し、エチオピアを統治してきた。

 しかし、その中心の座に居座ったTPLFがティグレ出身者で要職を固めたりしたため、他の組織・民族の不満は徐々に大きくなった。なかでもティグレ人と激しく対立してきたのが、エチオピアで最大の人口を抱えるオロモ人だ。

 ティグレ人が中枢を握る政府でオロモ人は風下に立たされやすく、なかにはオロミア州の分離独立を目指す過激な一派も現れた。ティグレ中心の政府はこれを「テロリスト」とみなして苛烈な取り締まりを行なったが、それはオロモ人の不満をさらに強めただけでなく、それ以外の民族からも不信感を招いた。

 そのため2018年、それまでティグレ出身者に握られてきた首相ポストにオロモ出身のアビー首相が就任することで民族の融和が図られた。民族間の緊張緩和が進められたことで、アビー首相は2019年にノーベル平和賞を受賞した。

 しかし、その後のエチオピア政府ではティグレとオロモの力関係が逆転し、それまで権力の中心にいたティグレは相次いで要職を追われた。対立がエスカレートするなかで昨年11月、かつて「テロリスト」として弾圧され、今や政府を握るオロモが、かつての主流派TPLFを逆に「テロリスト」と断定して衝突するに至った。戦闘が激化し、内戦が全土に広がったことで、「アフリカの星」は輝きを失ったのである。

エチオピア内戦に頭を悩ます中国

 ところで、エチオピア内戦に強い関心を持たざるを得ないのが中国だ。

 エチオピアは中国にとって重要な進出拠点の一つだ。2018年に開通した、エチオピアの首都アディスアベバと隣国ジブチと結ぶ、約760kmに及ぶ高速鉄道は、その象徴である。その中国にとって、エチオピア内戦は頭の痛い問題でもある。

 「極度の野蛮行為」の横行を受け、アメリカは貿易上の優遇措置を停止するなど、エチオピアへの制裁を徐々に進めている。これに対して、エチオピア政府は欧米が根拠のない「虐殺」を宣伝しているだけでなく、TPLFを支援していると非難しており、9月にはアビー首相がバイデン大統領に公開書簡を送って抗議した。

 エチオピア政府を支持する中国も、「内政干渉」に当たると制裁に反対している。しかし、その建前とは裏腹に、中国はエチオピアの内政に誰より深くかかわってきた

 中国とエチオピア政府の付き合いは深く、現在の与党EPRDFが1991年、それまで続いた内戦に勝利して権力を握った時にも中国から軍事援助を受けていた。それ以降、エチオピア政府は欧米や日本とも良好な関係を築きながら、その一方で中国と深い関係を保ち続けた。

 ただし、中国は常に「政府」との関係を優先させてきたため、エチオピア政府内の力関係に応じてパートナーが変わることになった。ティグレ系TPLFが政府を握っていた間は、オロモを迫害するTPLFに協力的だった。ところが、権力闘争に敗れたティグレが「都落ち」すると、今度はオロモ中心の政府との関係強化に努めた。

 こうした「乗り換え」は、外交の冷たい現実や内政不干渉の原則からすれば当然ともいえるが、少なくとも結果的には積年のパートナー、ティグレを見捨てるものでもある。ティグレ州でTPLFを攻撃するエチオピア軍は中国から軍事援助を受けているが、軍用ドローン「飛龍」まで調達しているともいわれる。

 つまり、中国はエチオピア政府を擁護せざるを得ないが、それは欧米との対立を招くだけではない。状況によってかつてのパートナーを見限るその姿勢が浮き彫りになれば、アフリカにおける評判にもかかわる。

 その意味では、エチオピア政府への批判を強める欧米とは立場が異なるものの、エチオピア内戦の早期解決を願っている点では中国も変わらないといえるだろう。

国際政治学者

博士(国際関係)。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学などで教鞭をとる。アフリカをメインフィールドに、国際情勢を幅広く調査・研究中。最新刊に『終わりなき戦争紛争の100年史』(さくら舎)。その他、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、『世界の独裁者』(幻冬社)、『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『日本の「水」が危ない』(ベストセラーズ)など。

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