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緊急事態宣言は東京五輪と関係あるー開催可否の条件と説明を

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
IOCのバッハ会長の発言を報じたメディア

 東京都に新型コロナ対応の緊急事態宣言が発出される見通しとなるなか、国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長の発言が波紋を広げている。「緊急事態宣言はオリンピック大会とは関係ない」。言葉の解釈の問題だろうが、東京五輪・パラリンピックと、ホスト国の人々の命と安全に関わる緊急事態宣言とが関係ないわけがなかろう。

 21日のIOC理事会後のオンライン会見だった。バッハ会長は日本政府が東京都など4都府県で緊急事態宣言を出す方向で調整していることに触れ、英字新聞『ジャパンタイムズ』(電子版)によると、こう口にした。

 「It is a preventative measure and for this limited time. This is absolutely in line with the overall policy of the government, but it is not related to the Olympic Games」<それ(緊急事態宣言)は限定的な期間の予防措置だ。これは日本政府の全体的な政策と完全に一致しているが、オリンピック大会とは関係ない>

 前後の文脈をみれば、確かにバッハ会長の発言としては、緊急事態宣言は日本政府が政策にのっとってやっていることだから、東京五輪に直接的に影響を与えるものではないとの趣旨にもとれる。だが、問題はバッハ会長が開催可否の科学的な条件には触れず、「必ず開催する」と根拠なしの強気の発言に終始していることであろう。

 IOCと大会組織委員会は、新型コロナ対策を施したうえ、許される環境の中で、東京五輪・パラリンピックを何とか開催しようとしている。だから、海外からの観客は受け入れないことを決めた。IOC関係者によると、中止を含め、いくつかの具体的なプランを検討しているはずだ、という。当然だろう。

 でも、バッハ会長も、大会組織委員会の橋本聖子会長も、無理を押してでも開催するの一辺倒である。どんな条件下でなら実施する、あるいは中止するとは決して言わない。もしも弱気な発言をすると、中止の責任を負わされることを恐れているからなのか。

 東京五輪・パラリンピックを目指している選手たちや大会組織委員会スタッフのふだんの頑張りを見ていると、どんな形でもいいから大会を開催してほしいとは思う。この状況で東京五輪を開催するとしたら、もう無観客で、選手や関係者の外部との接触を遮断する「バブル」方式での開催しかあるまい。

 でも、IOCも大会組織委員会も科学的なデータを出して、具体的な選択肢を示してはくれない。だから、ホスト国の人々はIOCなどへの不信感を募らせているのである。緊急事態宣言が出されようとしているのに、諸外国から1万数千人の競技者を日本に受け入れて、果たしてコロナ対策を徹底できるのか。これで開催すると新型コロナの変異株による世界再拡大が起こるのではないか、国内の医療体制が崩壊するのではないか、と。

 IOCは、東京都民の大半が「開催すべきではない」と考えている世論調査の結果を気にしていることだろう。

 何度も書いてきたけれど、オリンピック運動とはひと言でいえば、「世界平和の建設に寄与すること」である。オリンピックを開催するから平穏な社会が生まれるわけではない。紛争や疫病のパンデミック(世界的大流行)がない平穏な社会だからこそ、オリンピックを開くことができるのである。

 IOCも大会組織委員会も、ホスト国の人々の疑問や不安に真摯に向き合うべきである。断じて、緊急事態宣言は東京五輪と関係ある。東京五輪の開催の可否と見通しを科学的なデータとともに条件付きで説明する必要がある。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2024年パリ大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。酒と平和をこよなく愛する人道主義者。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『まっちゃん部長ワクワク日記』(論創社)ほか『荒ぶるタックルマンの青春ノート』『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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