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iPhoneでPASMO利用可能へ スマホと交通系ICカードの未来はどうなる?

小林拓矢フリーライター
PASMO利用者の多い自動改札(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

 首都圏で、iPhoneを利用している人なら思うだろう。Apple PayでPASMOが使えたら……、と。

 iPhoneには、すでにSuicaが搭載されている。このSuicaで、定期券を発行することも可能だ。JR東日本の駅から乗車する場合なら、iPhoneにSuicaを入れるのが効率的だ。

 私鉄などの利用者だとそういうシステムは不便であった。乗車駅が私鉄の場合や、乗降ともにJR東日本がからまないと、iPhoneでのSuicaは利用できない。その場合、別途PASMOのカードを使用して、定期券を使用するほかなかった。

 ふだんから定期券を使用していない私の場合は、私鉄沿線に暮らしていながらiPhoneのSuicaでも何の問題もないのだが、定期券を使用する人だと、やはり私鉄沿線ぐらしではPASMOを使用するしかない。

AndroidのPASMO導入で未来は予見

 ことしの3月に、AndroidのスマートフォンにはPASMOを搭載することが可能になった。もちろん、AndroidでもSuicaは使えたものの、こちらも私鉄沿線利用者の要望に応えた、といった形だ。

 PASMOはおよそ4,000万枚が発行されていると言われており、Suicaの発行枚数がおよそ8,300万枚、うちモバイルSuicaがおよそ940万枚という状況のもとで、スマートフォンのPASMOはそれなりに需要があると見込まれる。モバイルSuicaは、iPhoneでSuicaが利用できるようになってから、急激に利用者が増えた。

 場合によっては、モバイルSuicaとカード型PASMOを使い分けているという人もいるだろう。

 このあたりの状況も踏まえると、すでにAndroidではPASMOが導入され、さらにはモバイルSuicaがiPhoneに導入されて利用者が増えたということもあり、PASMOがiPhoneに導入されるというのはありえることだと考えられていた。

iPhoneでPASMOが使えるメリットは首都圏の人には大きい(PASMO協議会プレスリリースより)
iPhoneでPASMOが使えるメリットは首都圏の人には大きい(PASMO協議会プレスリリースより)

 首都圏ではJR東日本利用者だけではなく、かなり多くの私鉄などの利用者がいることもあってか、PASMOの需要は高い。近年、キャッシュレス化の流れが進む中で、スマートフォンとキャッシュレスが結びつく傾向が強まっている。現在この国で優位に立っているのはSuicaであり、とくにiPhoneがSuicaを導入したことで加速度的に進んだ。

 しかし、交通系ICカードは地域性の強いものであり、かんたんに電子決済の雄としてSuicaとモバイルSuicaがトップに立っていい、ということは公共性の観点から困難である。

PASMOがSuicaと同等に

 PASMOとSuicaは、一部の機能を除けば、ほぼ同等の役割を果たしている。一方で、両者がなぜ併存しているかといえば、もともとはPASMOには「パスネット」の枠組みをもとにして始まったという歴史がある一方、SuicaはJR東日本の未来を見据えたプロジェクトとして開始されたという経緯があり、どちらか一方に寄せるということは困難だったからだ。

 一方、SuicaとPASMOは双方で同じようにオートチャージできるといった機能もあれば、相互乗り入れの路線で双方を意識せず乗車も可能ということもあり、上手に併存していた。基本となる技術も、同じソニーの「FeliCa」というものがもととなっている。

 ゆえに、近年までモバイルのPASMOがなかった状況は「なぜ」と問いたくなるものであり、iPhoneのPASMOがなかったのも「なぜ」ということになる。

 技術的な観点からいえば、SuicaとPASMOを2枚同時に使用できないのと同じように、モバイルでも同じ端末に両方入れると改札で不具合が生じる、というのは目に見えている。だがこれもカード型のPASMO導入の際に周知徹底がなされたのと同様にすればいいだけのことだ。

 今回、iPhoneでPASMOが使用可能になったことで、PASMOはSuicaと同等の存在となっていく。利用者のことを考えると、最適な状況になったといえるだろう。

地方の交通系ICカードは?

 SuicaやPASMOよりも利用者の少ない地方の交通系ICカードはどうするのか、ということもいえるだろう。一般的な利用についてはモバイルSuicaを他地域で利用しても問題はないものの、定期券がからむとどうしようもないということはある。

 SuicaやPASMOには「規格」があり、その規格が共通化されていることで、交通系ICカードの相互利用は可能になっている。

 そこで、Androidを提供するGoogleや、iPhone(iOS)を提供するAppleなどが中心となり、各交通系ICカードを行っている事業者にスマートフォンでの交通系ICカードの規格を共同で提供するというのが、妥当なところではないだろうか。

 Appleが日本でだけApple Payの導入時にJR東日本と協力し、率先してSuicaを導入したということがある。AppleはJR東日本のSuicaが日本の電子決済の世界でもっとも優位に立っているという事実を把握していただけではなく、Suicaと同等の規格をもった交通系ICカードが各地に広がっているということも把握していたとは考えられる。Androidはもっと前から、いやスマートフォンがなかった時代にもすでに「おサイフケータイ」があった。その中でJR東日本は優位に立っていた。

 AppleやGoogle、JR東日本やPASMO協議会などを中心に、各地の交通系ICカードの利便性を高めるように方向づけることが求められている。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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