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「中絶・生理」のリアル、結婚・キャリア・産後うつ…女性の課題と成長を描く映画「セイント・フランシス」

なかのかおりジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員
8月19日に公開される「セイント・フランシス」

 映画『セイント・フランシス』は、生理や中絶、男性関係、キャリアなど、30代の女性がリアルに直面するあれこれが、主人公を通してまっすぐに描かれている。さらに、主人公が出会う同性カップルとの交流で、世間の目、産後うつや子育ての大変さを学ぶ。

 レストランの給仕として働く主人公のブリジットは、34歳の独身女性。結婚した親友は、子どもができて幸せそう。自分は大学を中退、ぱっとしない人生に鬱々している。夏の間だけ、ナニーとして世話することになった6歳の少女フランシスや、彼女の両親である同性カップルと出会い、少しずつ人生が変わってくる。

・仕事?子育て?揺れる30代女性

 34歳というのは、女性にとって微妙なお年頃だ。仕事のキャリアは10年以上、バリバリ働いて自信のある女性もいる。結婚して、母親になっている女性も多い。だが、今の日本では、仕事と子育ての両方を、うまくこなすのは、まだ難しさがある。

 キャリアを取れば、妊娠・出産の適齢期が遠のく。子どもが育ってから仕事しようと思うと、筆者のような高齢出産組は、60歳近くなってしまう。仕事派、子育て派とそれぞれの生き方に分断され、「これでよかったのかな」と迷い続ける女性も少なくない。

 物語の主人公・ブリジットは、自身の学歴も仕事のキャリアもぱっとしないと思っている女性だ。SNSで「リア充」の友達を見ると、うらやましい。男性との出会いを求めても、34歳という年齢にドン引きされる。それでいてなんとなく、男性と体の関係を持ってしまう。

・生理・中絶を隠さず描いた

 そうしたモヤモヤ感に、共感する女性は多いと思う。お年頃のモヤモヤを描いた物語は少なくないが、この作品は、生理や中絶といった生々しい部分を描いているのが特徴だ。

 ブリジットは年下の男性の子を妊娠して、考えた末に中絶する。中絶は女性の体にも心にも、負担がかかる。男性もそばにいて、考えてはくれた。それでも、傷を負うのは、やはり女性なのだ。

 中絶をきっかけに、出血が止まらなくなり、別の男性との交際や、ナニーの仕事中にも困ったことに。これらのエピソードは大げさでなく、女性にとって、日常的に起こりえる悩みだ。仕事中、ズボンに経血がもれた、妊娠初期に自然な流産をしたため手術が必要になった、というケースもよくある。

 望まない妊娠をして、ブリジットのように対処できる人ばかりでなく、産んで遺棄してしまう事件も後を絶たない。そうした悲しい事件を防ぐために、男性も女性も、生理や中絶の仕組み、その心身の痛みを正面から描いたこの作品を見て、勉強することができると思う。

・同性カップルの子育てから学ぶ

 ブリジットがナニーをする少女の両親は、同性カップルだ。この両親を通して、ブリジットは、子育ての過酷さを学ぶ。同性カップルに世間から向けられる目。男女のカップルと同じように、すれ違いも、もめごとも起きる。産後うつにもなるし、仕事のキャリアのためにナニーの助けを借りる。

 印象的だったのは、初めは自分を肯定できず、自信のない表情だったブリジットが、変わっていったこと。生命力あふれる少女・フランシスと向き合い、家族をサポートするうちに、愛情がにじむ、やわらかな顔つきになった。

 自己肯定感が持てない上に、温かい人間関係がなかったら、孤独で仕方ないと思う。きっかけは、ひと夏のナニーとして雇われたことだったけれど、そこから新しい人間関係が生まれ、少女の成長を見守っていくお姉さんになれた。

・コロナ禍のつながり作り

 筆者はアラフィフで、更年期の真っただ中。昨年、父を亡くし、人生の後半戦を意識するようになった。自分は閉じていく年齢だが、娘やその友達は、これから心身が成熟し、自分を大事にすることを覚えていく。

 そんな状況で、フランシスの成長は身近に感じたし、ブリジットのエピソードは、30代の自分が体験した悩みを思い出させてくれた。フランシスの両親の、子育てと仕事の悩みに共感する親も多いだろう。

 そして何より、孤独だったブリジットが新しいつながりを得られたことが、救いになる。コロナ禍は、これでもかと人と人のつながりに、ゆさぶりをかけてくる。交流が戻って来たところ、この夏の第7波の急拡大でまた、緊張感が増した。

 子ども食堂や、親子の居場所も頑張っているが、地域格差が激しい。地域の中で、つかず離れず、見守り合う関係の可能性をブリジットたちは示してくれた。コミュニティのつながり作りという観点からも、考えさせられる物語だ。

『セイント・フランシス』

8月19日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町 新宿武蔵野館 シネクイントほか全国ロードショー

監督:アレックス・トンプソン 脚本:ケリー・オサリヴァン

出演:ケリー・オサリヴァン、ラモーナ・エディス・ウィリアムズ、チャーリン・アルヴァレス、マックス・リプシッツ、リリー・モジェク 2019年/アメリカ映画/英語/101分/ビスタサイズ/5.1chデジタル/カラー 字幕翻訳:山田龍  

配給:ハーク 配給協力:FLICKK  (C) 2019 SAINT FRANCES LLC ALL RIGHTS RESERVED  

ジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員

早大参加のデザイン研究所招聘研究員/新聞社に20年余り勤め、主に生活・医療・労働の取材を担当/ノンフィクション「ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦」ラグーナ出版/新刊「ルポ 子どもの居場所と学びの変化『コロナ休校ショック2020』で見えた私たちに必要なこと」/報告書「3.11から10年の福島に学ぶレジリエンス」「社会貢献活動における新しいメディアの役割」/家庭訪問子育て支援・ホームスタートの10年『いっしょにいるよ』/論文「障害者の持続可能な就労に関する研究 ドイツ・日本の現場から」早大社会科学研究科/講談社現代ビジネス・ハフポスト等寄稿

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