やはり小泉"セクシー"大臣?「萌えキャラ」炎上、環境省PRの何が問題か
環境省の「萌えキャラ」を使ったPRがツイッター上で批判を浴び、「炎上」状態だ。これはより環境に優しいライフスタイルや消費活動を促す「COOL CHOICE」の一環で、電気の無駄使い等をしがちな女子高生・君野イマに対し、君野ミライが省エネ等を諭すというストーリーでアニメ動画などのコンテンツが、環境省のウェブサイト上に公開されている。君野イマ・ミライによる環境省のPR自体は2017年から行っているものの、先日、環境省のツイッターでの投稿で君野イマ・ミライを紹介したことから、ツイッター上で物議をかもすこととなった。「税金の無駄」「なぜ女子高生のキャラをわざわざ使うのか」等の批判が大半なのだが、そもそも君野イマ・ミライのコンセプト自体が完全に間違っているのである。
◯「ぐうたらでエコに興味がない」のは中高年男性ではないか?
君野イマ・ミライについては、税金の無駄という声の他、主にジェンダー(男らしさ、女らしさといった、社会的・文化的につくられた性差)の視点から批判する声が相次いだ。
筆者も、これらの指摘に同意する。環境省としては、若者層に受けるキャンペーンをやりたかったのかも知れないが、やり方はもっと考えるべきであったし、2017年にPRを始めたものの全く注目されることなく、今頃ツイッターで炎上している時点で、君野イマ・ミライによるPRは失敗だったのではないか。
◯「個人の努力」に頼るな
公共機関のキャンペーンで「萌え絵」等、女性をアニメ表現することの是非は、この間、幾度も論議となっているが、本件の問題点はそれだけにとどまらない。温暖化対策について取材・執筆し続けてきた筆者から言わせてもらえば、君野イマ・ミライによるPRは、そのコンセプト自体がそもそも間違っている。それは、人々がちまちまと省エネするのではなく、石油や石炭等の化石燃料に依存した経済・社会システムごと変えないと温暖化は止められないからだ。
そのことは、新型コロナ禍で、よりはっきりしたといえるだろう。感染拡大を防止するため、各国がロックダウンや営業自粛を行ったことにより、今年前半の温室効果ガスであるCO2の排出量は減少、今年4月は、世界全体で前年度比で17%減となった。あれだけ、経済活動が停滞しても、たったの17%減である。しかも、温暖化をくい止めるためには、2050年までに先進国はCO2など温室効果ガス排出を実質ゼロにしなくてはならないのだ。つまり、化石燃料の使用をやめ、太陽光や風力などの自然エネルギーに切り替えていかない限り、人々が多少、省エネに気を使ったとしても、温暖化を食い止めるには全く不十分なのだ。
実は、個人の省エネ努力に頼るという「COOL CHOICE」のあり方は、エアコンの温度調整や節水などを呼びかけた「チーム・マイナス6%」(2005年~2009年)の焼き直しに過ぎない。温暖化の影響の深刻さがいよいよ顕在化し、国際社会が取り組むべき目標も京都議定書からパリ協定へとより大きなものへと変わった中で、日本の環境省も過去のキャンペーンの焼き直しではなく、より大胆かつ意欲的な取り組みを行うべきではないのか。そのような意味では、自然エネルギー100%を誓う企業の連合であり、日本企業もいくつも参加している「RE100」のような取り組みの方が、環境省のそれより、よほど先駆的だ。
個人の省エネ努力も、それはそれで必要なのではあるが、むしろ今必要なのは、例えば石炭火力発電等の化石燃料使用への規制や自然エネルギーの普及、ガソリン車から電気自動車への移行及びそのためのインフラ整備など、国側が温暖化防止に本気を出すことなのである。「COOL CHOICE」は2015年からのキャンペーンであり、本稿タイトルで名指しした小泉進次郎環境大臣の責任というより、むしろ安倍晋三首相が呼びかけ推進してきたものではあるのだが(関連情報)、小泉環境大臣としても、国連気候行動サミットでの「セクシー」発言などの失態を挽回すべく、安倍政権の温暖化対策を変えるくらいの気概を持ってほしいところだ。
なお、あえて、個人が賢く選択(COOL CHOICE)することをキャンペーンとして行うというならば、筆者は「パワーシフト」をおすすめしたい。これは、家庭やオフィスで使う電力の購入先を、化石燃料や原発に頼る電力会社から、自然エネルギー中心の電力会社へ切り替えることだ。簡単に行え、大きな負担もなく、CO2排出の少ない電気を使えるようになるし、自然エネルギーに積極的な電力会社を支えることになる。
◯環境省は日本政府を変えられるか
環境省の「COOL CHOICE」は、そのウェブサイトで省エネ住宅やエコカー、省エネ家電への買い替え等はアピールしているものの、パワーシフトについては言及しておらず、石炭火力発電や原発に依存する電力大手やそのバックにいる経産省、安倍政権への忖度ではないか、と勘ぐりたくなる。「COOL CHOICE」での「君野イマ・ミライ」の特設ページには、
「果たしてミライは、イマを変えることができるのか。イマは、変わることができるのか」
というキャッチコピーがあるが、問われているのは、
「果たして環境省は、日本政府を変えることができるのか。日本政府は、変わることができるのか」
ということなのであろう。
(了)
*本稿は志葉公式ブログ「志葉玲タイムス」の投稿に加筆したものである。 https://www.reishiva.net/