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ロイターがタコ殴り、小泉環境相「セクシー」発言-問われる日本の「気候正義」

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
小泉環境相の「セクシー」発言を報じるロイター通信 同社ツイッターより

 今月17日から米国ニューヨーク市で開催されている国連総会、最大のテーマの一つが気候危機(=地球温暖化、気候変動)だ。日本からは小泉進次郎環境大臣が参加しているが、今月22日、国連気候行動サミットの前日の会見での「気候変動のような大きな問題への取り組みは、楽しく、かっこ良く、セクシーであるべきだ」との発言が物議を醸している。ロイター通信はこの発言を取り上げ、日本がむしろ温暖化を促進させるような政策を取っていることを手厳しく追求した。

○ロイター通信が痛烈に批判

 英語で「Sexy(セクシー)」という言葉には、性的な意味の他、「魅力的」「かっこいい」という意味もある。恐らく、小泉環境大臣は後者の意味合いで「セクシー」という言葉を使ったのだろう。だが、日本政府の温暖化対策に後ろ向きな姿勢も相まって、通信社大手ロイターは厳しく小泉環境大臣を批判。多くの海外メディアがこれを引用した。

 ロイター通信は、アントニオ・グテーレス国連事務総長が、温暖化進行の最大の原因である石炭火力発電を止めるよう呼びかけていることに言及。日本がG7諸国の中で、唯一、石炭火力発電を国内外で増やそうとしていること、またアジアでの石炭火力発電事業に資金協力していることを指摘した。その上で「それにもかかわらず、小泉環境大臣は『(世界の温暖化防止の取り組みの中で)私達は強力な行動と強力なリーダーシップを取りたい』と発言している。なんの具体策もなしに」と皮肉っている。気候行動サミットで、小泉環境大臣が発言の機会を与えられなかったのも、日本政府が温暖化対策に対し、抜本的な対応策を用意してこなかったからであろう。ただ、小泉環境大臣はその就任会見等で「石炭火力発電は減らすべき」とも発言しているので、その具体策を示せていれば評価も変わっていたのかもしれない。

○批判されているのは、むしろ日本そのもの

 だが、小泉環境大臣だけを批判するのはフェアとは言えないかもしれない。ロイター配信の記事冒頭に、国連総会中、環境NGOなどにより安倍晋三首相に対する抗議アクションが予定されていると書かれているように、日本が石炭火力発電を推進しているのは、安倍政権が石炭火力発電プラントをその成長戦略の一つとしてきたからだ。とりわけアジアでは、インドネシアやベトナムなどで、最新型のそれと比較して効率が悪く公害対策も十分でない石炭火力発電プラントを輸出、JICAによる資金協力が行われ、国際協力銀行による融資が行われる*。国内でも、4基の大型石炭火力発電所が来年中に稼働予定だ。

*FoE Japan インドラマユ石炭火力発電事業

http://www.foejapan.org/aid/jbic02/indramayu/index.html

*FoE Japan ベトナム・バンフォン1石炭火力発電所事業

http://www.foejapan.org/aid/jbic02/vp/index.html

○今回の騒動を機会に世界の潮流を学ぼう

 今、国際社会は温暖化を、気候危機、つまり人類全体の危機だとみなしている。国連気候行動サミットは正に人類の存亡を左右する重要会議だ。その様な場に、何の具体策もなく現れ、軽口を叩いた小泉環境大臣への、国際社会の視線が厳しいことは当然なのである。そして、それは石炭火力発電を推進する安倍政権や日本の経済界、日本の有権者にも向けられているものであろう。

 国連気候サミットで、世界の若者を代表してスウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリさん(16歳)が演説、その中で「この状況を理解していて、温暖化防止のための行動を怠り続けるなら、あなた達は悪だ」と強調したように、これからの世代の未来を奪う気候危機に対し、十分な対応をとらないことは、「不正義」だとみなされる。小泉環境大臣ら日本の政治家、また有権者も、今回の「セクシー」発言騒動を機会に「気候正義」という新たな世界の潮流を学ぶべきなのだろう。

(了)

【参考情報1】

日本人が知らない世界のトレンド「気候正義」とは?約150カ国で同時行動、東京でも決行

https://news.yahoo.co.jp/byline/shivarei/20190923-00143833/

【参考情報2】

国連事務総長が温暖化対策として求めているアクション・ポートフォリオ

以下、国連広報センターのサイトより転載

https://www.unic.or.jp/news_press/features_backgrounders/34275/

実体経済に変革をもたらす行動のインパクトをできるだけ高めるため、国連事務総長は、温室効果ガス排出量を削減し、適応とレジリエンスに関するグローバルな行動に資する潜在的な可能性が高いと認識されている、下記のアクション・ポートフォリオを優先課題と定めています。

金融:すべての優先分野で炭素除去を推進し、レジリエンスを高めるため、官民の資金源を活用する

エネルギーの移行:化石燃料から再生可能エネルギーへの移行を加速するとともに、省エネを大きく前進させる

産業の移行:石油・ガス、鉄鋼、セメント、化学、情報技術などの産業を変革する

自然に基礎を置く解決策:生物多様性の保全、サプライチェーンやテクノロジーの活用などを通じ、林業、農業、海洋、食料システムの各分野で、また、これらを横断して排出量を削減し、吸収源の能力を拡大し、レジリエンスを高める

都市と地方での行動:低排出型建物に対する新たなコミットメント、大量輸送と都市インフラ、および、都市部貧困層のレジリエンスを焦点に、都市と地方のレベルで緩和とレジリエンスを強化する

レジリエンスと適応:特に最も脆弱なコミュニティーや国々において、気候変動の影響とリスクに対処し、これを管理するためのグローバルな取り組みを進める

これに加えて、さらに3つの重要分野が設けられています。

緩和戦略:野心的な自国が決定する貢献(NDCs)と、パリ協定の目標を達成するための長期的戦略に向けた勢いを作り出す

若者の巻き込みと世論の動員:気候変動対策に全世界の人々を動員するとともに、6つの変革領域を含め、気候行動サミットのあらゆる側面で若者の参画を図る

社会的・政治的ドライバー(促進要素):大気汚染の削減、ディーセント・ジョブ(働きがいのある人間らしい仕事)の創出、気候変動適応戦略の強化など、人々の福利に影響する分野での取り組みを進め、労働者と脆弱な立場にあるグループを守る

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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