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太平洋高気圧が強まって梅雨前線が東北地方に北上・東日本太平洋側では最高気温40度に迫る災害級の暑さ

饒村曜気象予報士
酷暑や猛暑のイメージ(写真:イメージマート)

梅雨の中休み

 令和6年(2024年)7月3日は、西日本を中心に大雨を降らせてきた梅雨前線が、太平洋高気圧の強まりとともに北上したため、北陸地方や東北地方では、激しい雨が降った所もありますが、その他の地域は晴れて気温が高くなった所が多くなりました。

 7月3日に全国で気温が一番高かったのは、高知県・江川崎の37.1度、次いで宮崎県・日向の36.4度など、全国の44地点(気温を観測している全国914地点の約5パーセント)が、最高気温35度以上の猛暑日となりました。今年、最多の猛暑日です。

 また、最高気温が30度以上の真夏日を観測したのが545地点(約60パーセント)、最高気温が25度以上の夏日を観測したのが839地点(約92パーセント)もあり、真夏日も今年最多でした。

 今年は、6月14日に真夏日418地点(約46パーセント)、6月12日に夏日825地点(約90パーセント)を観測していますが、このときの暑さは、大陸育ちの高気圧におおわれたところに、強い日射が加わってのものですので、湿度が比較的低い乾いた暑さです(図1)。

図1 全国の猛暑日、真夏日、夏日の観測地点数の推移(7月4日以降は予想)
図1 全国の猛暑日、真夏日、夏日の観測地点数の推移(7月4日以降は予想)

 しかし、梅雨に入ってからの暑さは、南海上から暖かくて湿った空気が流入しての暑さで、熱中症になりやすい湿った暑さですので、今週の暑さは、湿った暑さ、つまり危険な暑さです。

 7月4日は、東北地方まで北上した梅雨前線が弱まる見込みです。

 気象庁が発表している主要都市の最高気温の予報では、静岡市の38度が一番高く、次いで前橋の36度ですが、コンピュータでは、群馬県・上里見で39.6度、栃木県・佐野で39.5度など、猛暑日が89地点(約10パーセント)と予想しており、今年の最多を更新する見込みです(図2)。

図2 予想最高気温の分布(7月4日の予想)
図2 予想最高気温の分布(7月4日の予想)

 場合によっては、40度という大台を超える気温を観測する所がでるかもしれません。

 なお、7月6日以降、猛暑日や真夏日が大きく減る予想になっているのは、弱まっていた梅雨前線が東北地方で再び活発となるためです。

 とはいえ、夏日はそれほど減らず、熱中症になりやすい蒸し暑さは続く見込みです。

40度を超える気温

 7月4日は、最高気温が40度に迫る、あるいは超すかもしれないという災害級の暑さとなる所もある見込みですが、この40度という気温は、日本ではめったに観測されない気温でした。

 日本の観測で、一番高い最高気温は41.1度で、令和2年(2020年)8月17日に静岡県・浜松、平成30年(2018年)7月23日に埼玉県・熊谷で観測しました(表1)。

表1 日最高気温の観測地点ランキング(同じ値の時は新しく観測した地点を上位にした)
表1 日最高気温の観測地点ランキング(同じ値の時は新しく観測した地点を上位にした)

 日最高気温が40度を超しているのは、長い観測の中で、浜松・熊谷以下34地点しかありません。

 ただ、表では一部省略しましたが、日最高気温の観測地点ランキングの34位までの観測年をみると、19地点(全体の約56パーセント)が、平成26年(2014年)以降の10年間での観測です。

 日本ではめったに観測されないといわれていた40度超えの気温は、最近は増える傾向にあるのです。

 気象庁は、最高気温が40度以上の日に特別な名称を付けていませんが、猛暑日や真夏日などのように、特別な名称を付けて警戒を呼び掛ける時期にきているのかもしれません。

 ちなみに、日本気象協会では、令和4年(2022年)に、気象予報士130人にアンケート調査を行い、最高気温が40度以上の日を独自に「酷暑日」と呼ぶことにしていますので、酷暑日の名称がちらほら使われだしています。

 この酷暑日という言葉は、猛暑日が作られるときの候補でもありました。

 平成14年(2002年)ころ、増えてきた35度以上の日に特別な名称を付けようとする動きができています。

引用:中日新聞(平成14年(2002年)8月16日夕刊) 
チョーアツイ 「真夏日」超えている 35度以上 呼称は何 TVは『酷暑日』も 冷めた気象庁『新語に慎重』
 猛暑続きで最高気温が35度を超す日が急増している。
 東京都心ではかつて年に1日あるかないかだったが、1990年代には年平均3.7日まで急増し、今月だけでも15日までに6日もあった。気象庁内でも「真夏日(30度以上)では表現しきれない暑さだ」との声が聞かれるが、35度以上の日を表す新しい名前は、まだない。…。
 同庁によると、温暖化や都市化の影響が考えられるが、熱帯夜(未明の最低気温が25度以上)の増加や冬場の最低気温の上昇と違って、因果関係は不明確だという。
 この最高気温35度以上の日を、天気キャスターの森田正光さんは「酷暑日」と呼んでいる。「数年前に番組で視聴者から公募したら『熱帯日』が多かったが『酷暑日』『猛暑日』もあった。当初は『熱帯日』を使ったが、熱帯夜と重なるので『酷暑日』を使いだしました」と言う。新聞など報道機関も時々「酷暑日」を使う。
 だが、気象庁の用語集に「酷暑日」はない。予報に使えない解説用語として「酷暑」はあるが「厳しい暑さ」の意味とされているだけだ。
 同庁予報課の青木孝課長は「『酷暑日』のような新しいネーミングは検討していない。新用語を決める時は気象庁だけで勝手にやるのでなく事前に報道機関にも相談するが、新しい言葉をつくることには慎重でありたい」と話す。

 その後、30度以上の「真夏日」より暑い日の呼び名はなく、報道機関などによって「酷暑日」「猛暑日」などバラバラな名称が使われていました。

 気象庁が天気予報等で用いる用語を改正し、最高気温が35度以上の日を「猛暑日」と呼ぶほか、暑い日には「熱中症」の注意を呼びかけることにしたのは、平成19年(2007年)4月1日からです。

 以後、35度以上の日を「猛暑日」と呼ぶことが定着しています。

梅雨の中休みか梅雨明けか

 令和6年(2024年)は、梅雨がないとされる北海道を除き、各地で平年より遅い梅雨入りとなりました。

 その後、6月20日から23日に沖縄・奄美地方が平年より早く梅雨明けしましたので、現在の梅雨は、九州から東北までということになります(表2)。

表2 令和6年(2024年)の梅雨入りと梅雨明けと平年の梅雨入り・梅雨明け
表2 令和6年(2024年)の梅雨入りと梅雨明けと平年の梅雨入り・梅雨明け

 今年の梅雨は西日本を中心に大雨となることが多く、6月21日には鹿児島県で、6月28日には静岡県で線上降水帯が発生しました。

 この梅雨前線が東北地方まで北上して弱まったのですから、西日本から関東甲信では、梅雨はどこへいったのかという感じになります。

 ウェザーマップが発表している16日先までの天気予報をみると、福岡では、7月9日までお日様マーク(晴れ)があります(図3)。

図3 福岡の16日先までの天気予報
図3 福岡の16日先までの天気予報

 降水の有無の信頼度が5段階で一番低いEや、二番めに低いDが多い予報で、黒雲マーク(雨の可能性がある曇り)があるとはいえ、傘マーク(雨)があるのは、約1週間後の7月10日以降です。

 そして、7月10日以降は、傘マーク(雨)や黒雲マーク(雨の可能性がある曇り)の日が続く予報となっています。しかも、稲妻マーク(雷)がついている日も多く、来週は大荒れの日が続く予報です。

 梅雨明けの判断をする気象庁の予報官が、今週から来週のはじめの晴れ間を、「早い梅雨明け」とせずに「長い梅雨の中休み」としたのは、難しい判断だったと思います。

図1の出典:ウェザーマップ提供資料をもとに筆者作成。

図2、図3の出典:ウェザーマップ提供。

表1の出典:気象庁ホームページをもとに筆者作成。

表2の出典:気象庁ホームページ。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2024年9月新刊『防災気象情報等で使われる100の用語』(近代消防社)という本を出版しました。

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