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ジャッキー・チェンの新作映画『ライド・オン』 アクションだけじゃない魅力の数々【公開中】

渡辺晴陽作家・脚本家/エンタメアドバイザー
記事の画像はイメージです

先月末より、ジャッキー・チェンの新作映画『ライド・オン』の公開が始まりました。

世代によっては馴染みの薄い方もいるかもしれませんが、ジャッキーは香港アクション映画の大スターです。何を隠そう、私もジャッキーが大好きで、かつて大学受験をした際には、受験前日の夜中にろくに勉強や準備もせず、夢中になってジャッキーの映画を見ていました。

ジャッキー・チェンの魅力

香港アクション映画の多くでは、カンフーを駆使した肉弾戦が描かれてきました。ジャッキーはそこに銃撃戦やカーチェイスなどの要素も取り入れ、さらに身近なものを武器として駆使し、ときに大迫力、そしてときにコミカルな、独特の戦闘シーンを作り上げました。
ジャッキー・チェンの映画は、そのアクションシーンだけでも十分に見る価値が生じると言っても決して過言ではないでしょう。
世界的に認められるきっかけとなった映画『レッド・ブロンクス』や、「ラッシュアワー」シリーズ。「ポリス・ストーリー」シリーズに代表される監督・脚本・主演をジャッキー自らが行った作品など、今見ても面白くて爽快な映画が数多くあります。
日本で公開されているジャッキーの映画はシンプルで分かりやすい構成のことが多く、ストーリー面ではありきたりだと評されることもあるようです。しかし、アクションの見せ方や、シーンの作り方などには、とにかく鑑賞者を楽しませるための工夫がふんだんに盛り込まれています。
一つ一つのシーンを魅力的なものにする技術はまるで映像づくりの教科書のようですし、ジャッキー・チェンのアクションは、これまでの多くのアクション作品に影響を与えています。

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ジャッキー・チェンは、多くの映画やアクション俳優にも影響を与えた
ジャッキー・チェンは、多くの映画やアクション俳優にも影響を与えた

ライド・オン

5月31日から公開が始まった映画『ライド・オン』は、ジャッキー・チェンの映画初主演から50周年の記念となる作品で、内容的にもこれまでのジャッキーのアクション映画を総括するようなものになっていました。
ストーリーはネタバレ防止のために詳しくは書きませんが、ジャッキーが演じているのはルオ・ジーロンという老いたスタントマンです。多くの作品でスタントを務めていた伝説的なスタントマンのルオは、ある事故をきっかけに落ちぶれてしまっていました。そんな彼が、愛馬とともに再び返り咲こうとするところから物語が始まります。

本作は、ジャッキー・チェンの映画に期待するアクション要素がしっかり楽しめる作品でしたが、さらに主人公のルオと娘のシャオバオとの親子のドラマや、ルオと愛馬チートゥとの絆の物語も楽しめました。

また、本作は一人のスタントマンの人生を描いた壮大なストーリーでもあります。
要所要所にはルオのスタントシーンとして、過去にジャッキーが行った実際の映画でのスタントシーンが織り込まれており、映像にリアリティを持たせています。

ルオと愛馬のアクションに注目!
ルオと愛馬のアクションに注目!

映画のここに注目!!

息が合った馬とのアクション

本作の見どころの一つが、ジャッキー演じるルオと、愛馬のチートゥの関係でしょう。二人の姿にはまるで親子や親友のような絆が見られます。さらに、本作でジャッキーは乗馬や馬上でのアクションだけでなく、馬と連携した戦いや、馬の動きを利用した奇想天外なアクションなどにも挑んでいます。

ジャッキーの役作り

本来のジャッキーは香港アクション映画界のトップスターです。映画俳優の資産ランキングでも上位に食い込むほどの存在ですし、オーラもものすごいでしょう。
しかし、作中のルオ(ジャッキー)は、まさに落ちぶれた貧乏スタントマンというくたびれた雰囲気を醸し出しています。ルオが服を脱ぐと、筋肉の凹凸がある体の表面を薄く脂肪が覆っており、筋骨隆々だった男が老いて衰えていく時間の流れまで感じられます。

おどける様子や悩む仕草などにも人間臭さがあり、ジャッキー・チェンの過去作を知っている人が見れば、まるで実際のジャッキー(の映画に出ていたスタントマン)のドキュメンタリー映画を見ているような錯覚すら覚えるはずです。また、それだけしっかりと作りこまれているので、過去の作品を知らなくても、細部までリアルなヒューマン・ドラマとして楽しめます。

コメディ、ドラマ、アクション

これまでのジャッキーの作品と比べて、本作はかなりドラマのある作品だと感じました。ですが、クスリと笑えるコミカルなシーンもありますし、ジャッキー・チェンらしい楽しいアクションも見られます。

2時間ちょっとの映画ですが、その時間があっという間に感じるほど勢いある作品でした。ですが、その一方で、見終わったときには、もっとずっと長い超大作映画を見たときのような満足感がありました。

上手にまとまっているため一本道をすんなりと歩いているようにストーリーが展開しているように見えますが、二部作や三部作で描いてもいいくらいに何重もの展開があるため、単なる映画一作品ではなく何本もの映画を見たような感覚が得られるのかもしれません。分かりやすくもよく練られた展開に注目です。

日本語吹き替え版

外国映画は字幕派という人もいるかと思いますが、本作は吹き替え版にも魅力があります。

まず、ルオ(演:ジャッキー・チェン)の声は、おなじみの石丸博也さんが担当しています。石丸さんは古くからジャッキーの声を担当し続けており、同一声優による同一俳優の吹き替え映画数でギネス世界記録にも認定されました。おそらく、ジャッキーと言えばこの声と耳馴染みのある方も多いことと思います。
石丸さんは年齢のせいもあって2023年に引退されています。ですが、本作では「限定復活」してジャッキーの声を演じています。

また、ルオの娘のシャオバオ(演:リウ・ハオツン)の声は、人気声優の水瀬いのりさんが演じています。
リウ・ハオツンは素朴で可愛らしい感じの女優で、シャオバオとしての役どころも素直で一生懸命な女子学生でした。そして、水瀬さんは数々のアニメで主役やヒロインを務めている実力の確かな声優で、多くの作品でカワイイけれど真っすぐなキャラクターを演じています。

柔らかくも芯のある水瀬さんの声、リウ・ハオツンの印象、シャオバオの人物像がしっかりマッチしているため、シャオバオがとても魅力的な人物として成立していました。親目線、恋人目線、友達目線、どの視点から見てもシャオバオには深く感情移入できるはずです。

派手なVFXを取り入れた作品や、人気シリーズ、有名タイトルの作品などに押されて、本作『ライド・オン』は、まだ大きな話題になっていない印象です。しかし、ジャッキー・チェンのファンからジャッキーをよく知らない人まで、みんなが楽しめる映画だと思います。

視覚効果に頼りすぎず生身で演じているからこその迫力や、現実的な舞台の中で繰り広げられる超絶アクションには、やはり胸が熱くなりますね。

難しいことは考えず、とにかく映画を楽しみたいというときにはオススメしたくなる一本でした。

作家・脚本家/エンタメアドバイザー

国立理系大学院卒、元塾経営者、作家・脚本家・ライターとして活動中。エンタメ系ライターとしては、気に入ったエンタメ作品について気ままに発信している。理系の知識を生かしたストーリー分析や、考察コラムなども書いている。映画・アニメは新旧を問わず年間100本以上視聴し、漫画・小説も数多く読んでいる。好みはややニッチなものが多い。作家・脚本家としては、雑誌や書籍のミニストーリー、テレビのショートアニメや舞台脚本などを担当。2021年耳で読む本をつくろう「第1回 児童文学アワード」にて、審査員長特別賞受賞。

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