破綻しているアベノミクスを「この道しかない」と言う総理のオツム
フーテン老人世直し録(197)
睦月某日
国会では平成27年度補正予算案の審議が始まった。衆議院の委員会審議を見ていると、安倍総理は安保法の審議の時と同じように野党の質問からズレた答弁を繰り返し、しかも終始ケンカ腰である。
本人のオツムはそのようにできているのかもしれないが、それに拍手を送る自民党議員を見ると、かつて自民党を担当した政治記者としてはため息をつきたくなる。政治のスケール感、政治の持つ深みがまるで違う。品性が感じられない。
そして危惧するのは、既にアベノミクスは破たんしているのにそれを認めず、逆に胸を張る総理の虚勢である。「アベノミクスの成功でバブル期を上回る雇用環境が生み出された」と言い、さらに「この道しかない」と言い切るのは、かつての大本営が「退却」を「転戦」、「全滅」を「玉砕」と言い換えて確実に負ける戦争を継続したのと良く似ている。
大体が「この道しかない」と言いきるのはオツムのよろしくない人間に多い。賢い人間は様々な選択肢を用意し、一つの方向が無理だと分かれば速やかに第二、第三の道をめざして一つに固執しない。
フーテンは長らく米国議会を見てきたが、議論を見ていて最も興味深かったのは、彼らはどんな問題でも「A案、B案、C案、D案」というように必ず複数案を示し、それぞれのメリットとデメリットを並列する。「この案しかない」とは決して言わない。それを言えば議論にならず、複数案のメリットとデメリットが並列されて初めて議論は成立する。
ところが日本の国会は政府与党と野党が正反対の主張をして平行線をたどり、最後は数の論理で政府与党が押し切る。これが最近の傾向である。しかし昔はそうではなかった。昔の自民党は政府案に対する活発な議論をまず党内で行い、そこでは当選年次も役職も関係なく侃侃諤諤の議論が保証される。
従って国会に提出される法案は与党内で揉まれ、次に国会で野党の要求を聞いて修正する。昔の自民党は法案に必ず野党の要求を受け入れる「のりしろ」を残した。国会は野党の顔を立てる場と位置付けられていた。
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