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柏木寿志(九州文化学園→兵庫BS)、19歳。ドラフト指名へ向かって2年目に勝負を懸ける!

土井麻由実フリーアナウンサー、フリーライター

■理想と現実のギャップ

 こんなはずではなかった。高校から独立リーグに入って、少なくとももっとできると思っていた。

 兵庫ブルーサンダーズ(来季から神戸三田ブレイバーズ)の柏木寿志選手は自身の1年目をこう振り返る。

 「ナメてたってわけじゃないけど、3割5本(本塁打)は打てるんじゃないかと…謎の自信ですね」。

 九州文化学園高時代は1年からベンチ入りし、やがてキャプテンも務めた。主軸としてそれなりに打ってきたし長打も飛ばしてきた。自信を携えて入団したのは当然だろう。

 「開幕からやっていくうちに、『あれ?なんか違うな』と思いはじめて…そこからですかね。悩んで悩んで、ちょっと悩みすぎたっていうのもあるんですけど」。

「悩みすぎた」と振り返る
「悩みすぎた」と振り返る

 まず最初の壁は木のバットだった。高校時代はいわゆる“金属打ち”で、ドアスイングでも十分に対応できた。しかし木ではそういうわけにはいかない。

 「インサイドアウトを意識しなきゃいけないと、永山英成コーチに教わった」。

 3月のオープン戦で左手をけがしたことで、右手のみのスイングでバットを内から出すよう体に覚え込ませた。

 「ちょっとはできたかなっていう感じで開幕を迎えて、でもやっぱりクセはそんなすぐには直らなくて。もう、ごっちゃになったというか…」。

 しっかりとフォームが定まらないまま、いろんなことを試しては良くなったり悪くなったりを繰り返し、いわば迷走状態でシーズンを進んでいった。

木のバットへの対応
木のバットへの対応

 気持ちの中でも揺れていた。

 「率が残せていない。でもクリーンアップだから長打がほしいなとも思って…。どっちをとったほうがいいんだろうっていうのをずっと迷ってて、中途半端な状態でやっていました」。

 どちらを求めたらいいのか、いや、どちらも手に入れたい。そんなどっちつかずの心理でやっていくうち、知らず知らずの間にフォームもどんどん小さくなっていった。

率か長打か…
率か長打か…

■大西宏明監督の直接指導

 そんなときだ。9月5、6日に読売ジャイアンツ3軍関西独立リーグ選抜の試合に選ばれ、堺シュライクス大西宏明監督から直接指導を受けた。それまで対戦は何度もあったが、さすがにリーグ戦では相手監督から教わることはしにくい。が、選抜チームの監督ということで、遠慮なく教えを乞うことができた。

 「大西さんからは『もっと体を大きく使ったほうがいいよ』と言われた。それまではドアスイングになりたくないし、インサイドアウトにするならコンパクトにバットを出すという意識もあって、それで小っちゃくスイングしていたんです。でも大西さんは『上の世界で小っちゃく打っているバッターはいない。若いし、可能性があるから、もっと体を大きく使って飛ばすっていうイメージでやったほうがいいよ』って言ってて、いろいろ教えてもらった」。

堺シュライクスの大西宏明監督から「体を大きく使え」と指導を受けた
堺シュライクスの大西宏明監督から「体を大きく使え」と指導を受けた

 すると、その直後だ。同8日の06ブルズ戦で初ホームランをかっ飛ばした。それだけではない。その日は二塁打も含む公式戦初の3安打を記録した。

 「打球の質が今までと違ってきた。そのあとも成績は出てないけど、当たり自体はよかったりとか、自分の中では感覚は悪くなかったです」。

 「これだ」という手応えが掴めつつあるのを感じていた。

今季唯一のホームランは06ブルズ戦だった(三塁コーチャーズボックスにいるのは永山英成コーチ)
今季唯一のホームランは06ブルズ戦だった(三塁コーチャーズボックスにいるのは永山英成コーチ)

■ルーティンを追加

 教えをより生かそうと、自分なりにあることも取り入れた。もともと打席に入る前のルーティンがある。両膝を深く屈伸したあと、バットの両端を持ち、腕を高く上げて上体をそらし気味にする。

 そのさらに前だ。ネクストバッターズサークルで不思議なポーズを加えた。陸上のウサイン・ボルトがやる、あの弓を引くようなポーズだ。違うのは左手にバットを持っているというところだけだ。

 「YouTubeで坂本勇人さん(読売ジャイアンツ)が『下からすくい上げるというか、そういう意識で打つようにしている』って言ってるのがあって。それを自分もやってみようと思って、下からボールを見ようという意識のポーズというかルーティンです」。

ボルトポーズ
ボルトポーズ

 それともう一つ、目の運動をそのあとに行う。大西監督に教わった方法で上下左右に動かしたあと、これまたYouTubeから見つけた、ピースした指を素早く動かして目を突くようにするというのも実践する。

 「目の動きが大切だって大西さんにも言われたし、速い動作に目がついていけるようにって、やっています」。

ネクストバッターズサークルでの目の運動
ネクストバッターズサークルでの目の運動

■ボールの待ち方と逆方向の意識

 そしてさらに、シーズン中に変えたことがある。ボールの待ち方だ。

 以前はストレートのタイミングで待っていたのを、8月くらいから変化球のタイミングで待つようにした。

 「変化球に苦手意識があって、相手に打てないとわかられてきた。でも、変化球が打てたときは余裕が出る。僕、引っ張り系なんで、ストレートに合わせてたらファウルばっかりで…変化球を狙うことによって、ちょうどいいところで当たる。全然遅れたりもない」。

 これまで前に置いていたポイントも手元まで呼び込めるようになったという。間もとれるようになった。

“変化球タイミング”で待つ
“変化球タイミング”で待つ

 ときを同じくして逆方向も意識するようになった。

 「途中までは長打を狙っていたというか、長打がほしいからめちゃくちゃ引っ張り込んでて、それはダメやなと思いはじめて、そこから右方向を意識するようになった。アウトコースも引きつけて、しっかりボールを見るという感覚で打てている」。

 逆方向は練習から徹底するようになったという。

右方向を意識
右方向を意識

 また、シーズン終了後に教わったことがある。

 「スイングスピードを速くしたいと思って、小山一樹)さんに訊いたら、『ヘソの前で一番スピードが速い状態でもってくる』みたいな話をしてもらった。ヘソの前でヘッドを走らせるっていう意識でやっています」。

 小山選手は今季、打率.442、OPS1.000超えの素晴らしい成績を残した。同じ右打者の先輩の話から得るものは多い。

 ヘッドスピードが上がれば、自ずと打球も強くなり、飛距離も出るようになるだろう。

小山一樹選手は頼れる先輩
小山一樹選手は頼れる先輩

■プロ野球選手になるための2ヶ年計画

 必要だと思える教えを素直に聞き入れ、さらに自身でも常に探究を怠らない。すべてはもっと打ちたい、もっと野球がうまくなりたいという向上心からだ。

 YouTubeも度々活用し、プレーや発せられる言葉を参考にしている。プロとの試合でも何か盗めるものはないかと観察し、そこで自チームではやっていない試合前のセカンドアップに気づいて、以来、個人的にやり始めた。どんな機会も無駄にはしない。

 さらには自身の動画撮影もする。練習中に人に頼むこともあるが、球場によっては三脚を立ててスマホをセッティングし、試合中ずっと長回しをする。

 さまざまなことを誰に言われるでもなく、向上するために自分で考え実行しているのだ。

三脚を立てて試合を撮影
三脚を立てて試合を撮影

 その先に見据えているのは、当然のことながら「プロ野球」だ。独立リーグ入りにあたって、「2年目に勝負を懸ける」と目標を立てた。

 「1年目はいろんなことをやる準備期間という気持ちで、しっかり準備した状態で2年目に勝負したいと」。

 今季、ほかの選手目当てにスカウトが何人か訪れた。その目を意識すると、「やっぱ今年行きたいなって気持ちが出てきて、ちょっと焦ったりした」と、正直に明かす。しかし、今年は難しいだろうと自覚する中でも、来年につながるようなアピールはしてきたつもりだ。

 そして終盤になって「この感覚で来年いこうってくらいまではきている」と掴めたのは、とてつもなく大きい。当初の計画どおり、来年に勝負できる準備は整いつつある。

“一人セカンドアップ”
“一人セカンドアップ”

 このオフは「体のサイズアップを図っています」と、熱心にジム通いをしている。チームの中尾公則トレーナーがグループLINEで送ってくれる動画から、必要なものを自ら選んで取り組む。

 「ハムストリングや大殿筋などの下半身を意識しているのと、広背筋とか腹筋とか大きな筋肉を発達させて最大限に使える状態にしたいというので、けっこう重量上げてやっています」。

 ウェイトトレが終わると家の前での素振りを欠かさない。さらには生徒が使わない時間の高校のグラウンドを借り、ボールの使用許可ももらった。

 「ボールを転がしてもらって守備の基礎練習とか、ティーを上げてもらったりしています」。

 パートナーを務めてくれるのは、ソフトボール部で奮闘する中学1年の妹さんだ。

チームの練習では打撃投手もやる
チームの練習では打撃投手もやる

■9人きょうだいの夢

 実は柏木選手には、ほかにもきょうだいがいる。なんと柏木家は9人の子宝に恵まれているのだ。

 「上から男、男、女、男、男、女、僕、弟、妹。僕は7番目なんです」。

 「男、男、女」の法則を3度繰り返す9人きょうだい。さぞかし賑やかなことだろう。

 「長男が長崎セインツ四国・九州アイランドリーグ、現在は存在しない)の練習生だったんで、僕も独立リーグで挑戦してみたい、高いレベルでやってみたいというのもあって、独立リーグを選んだんです」。

 兄4人中3人はキャッチャーをしていたが、柏木選手は「キャラじゃないやろな」と、高校から内野手に絞ったそうだ。

自宅前での素振り(写真提供:柏木寿志)
自宅前での素振り(写真提供:柏木寿志)

 中学までは漠然としていた「プロ野球選手になりたい」という夢は、高校2年で真剣に進路を考えたときに現実の目標になった。

 「家族も多いし、負担をかけたくない。逆に幸せにしたいっていうか、恩返ししたいと思いはじめて、それならプロになろうって」。

 五男・寿志がプロ野球選手になることは、家族の夢でもある。

率先して働く
率先して働く

■成長した姿をアピールする

 「今年はシーズンを通して試行錯誤をしてきて、終盤になってこれかなと思えるところまできたんで、この冬にしっかり再確認して、来年は開幕から軸的なところは変えずに一定でやっていきたい」。

 そして、来季はすべての面でのレベルアップを誓う。

 「今年より『飛ばせるようになってるな』とか、『守備の足の運びがよくなってるな』とか、『体が大きくなったな』とか、ちょっとでもよくなってるって見てもらえるように」。

 今まで見てくれたスカウトだけでなく、まだ存在すら知られていないスカウトに足を運んでもらうためにも、その名を轟かせねばならない。

必死でアピールする
必死でアピールする

 例年のドラフト事情からも見てとれるように、独立リーグは見られる機会が少なく、相対的な評価も低い。しかし柏木寿志には見る人を惹きつける魅力がある。加えて19歳と若い。

 まさに来年が勝負だ。不利な環境ではあるが、死にもの狂いでアピールするつもりだ。

バッティングの成長も見せる
バッティングの成長も見せる

(表記のない写真の撮影はすべて筆者)

柏木寿志*プロフィール】

生年月日:2001年12月5日

身長/体重:174cm/66kg

投打:右右

ポジション:内野手

出身校:九州文化学園高

出身地:長崎県

柏木寿志*今季成績】

27試合 117打席 109打数 20安打 二塁打5 三塁打2 本塁打1 打点16 得点10 三振14 四球7 死球0 犠打1 犠飛2 盗塁11 打率.183 出塁率.229 長打率.294

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開幕直前

開幕戦

初の引き分け試合

2020年シーズンの振り返り

フリーアナウンサー、フリーライター

CS放送「GAORA」「スカイA」の阪神タイガース野球中継番組「Tigersーai」で、ベンチリポーターとして携わったゲームは1000試合近く。2005年の阪神優勝時にはビールかけインタビューも!イベントやパーティーでのプロ野球選手、OBとのトークショーは数100本。サンケイスポーツで阪神タイガース関連のコラム「SMILE♡TIGERS」を連載中。かつては阪神タイガースの公式ホームページや公式携帯サイト、阪神電鉄の機関紙でも執筆。マイクでペンで、硬軟織り交ぜた熱い熱い情報を伝えています!!

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