ドラフト候補を探せ!兵庫ブルーサンダーズの2020年 開幕戦(vs堺シュライクス)≪野手編≫
■橋本大祐監督の初陣
2020年6月13日、関西独立リーグが開幕した。兵庫ブルーサンダーズの相手は堺シュライクスだ。
先発・小笠原智一投手が6回2失点とゲームを作り、その後を自慢のリリーバー4人が無失点で終えたが、新任の橋本大祐監督にとっての初陣は1-2で敗れた。
では、攻撃面はどうだったのか。≪投手編≫に続いて≪野手編≫をお送りしよう。
■「野球は難しい」と木村豪コーチ
得点はわずかに1点だった。
作戦面はおもに木村豪コーチが担当するが、自身も初戦とあって迷いもかなりあったと自省する。
「選手時代にはこうかなと思ったことが、いざサインを出すとなると躊躇したりとか…」。
バント、セーフティ、エンドラン…状況によって様々な選択肢がある中で、瞬時に決定する難しさを感じたという。
シュライクスの先発、ナックルボーラー・佐野大河投手については「いい感じに荒れていた。ちょっとゾーンからズレているところに、たまにポンと頭にないストレートが来る」と攻略に手こずり、7回までで1点しか奪えなかった。次回こそはとリベンジを誓う。
1-2で迎えた最終回、無死一、二塁というサヨナラのチャンスが訪れた。投手は3番手の河村将督投手に交代している。
ここで8番・新谷恵右選手に送りバントのサインを出したが、決めきれずにフルカウントとなった。
迷った。スリーバントのサインを出して手堅くいくのか…。
「欲が出ちゃった。意外と間を抜けるんちゃうかなと、2点欲しくなっちゃった。1点返して、あと何人かでサヨナラってイメージだったのが、フルカウントになった瞬間に一気に終わらせたろと思ってしまった」。
同点にするより一気に逆転して勝ちたい―。
しかし、そんな願望とは裏腹に新谷選手は三振に倒れ、次打者の西優輝選手の併殺打でゲームセットとなった。
「結果論だけど…勝ちにいくとこうなるんやなっていうのがわかった」。
そうだ。あくまでも結果論だ。確率のスポーツではあるけれど、何が起こるかわからない。
だから橋本監督も「基本的には任せる。終わったあとに反省はしようとは思うけど」と、責めることはしない。選手だけでなく、木村コーチにも指導者として育ってもらいたいと願っているのだ。
代打など橋本監督が指示することもあるが、「スタメンとか基本的には豪に決めてもらっている」と全幅の信頼を置く。
負けて反省はするが、コーチとして多くの収穫も得られたという木村コーチ。
「野球人生で初めて野球が難しいと思った。自分がやるよりも難しい。野球はほんま難しい…」。
難しい―。何度も繰り返す言葉に切実さがにじみ出ていた。
まだ1試合。木村コーチも指導者として、選手とともに成長していく。
■1番・梶木翔馬
初回の先頭で、いきなりのヒットを放った。しかし、その後の3打席は凡退だった。
「ナックルボールで、ずっと外角ばっかだったので、そこに泳いでしまった…」。
五回は一死一、二塁のチャンスで回ってきたが、「あそこで前に突っ込まんと、もうちょっと後ろで粘れてたら打ててたかもしれないけど、今日は全部泳いでしまった」と猛省する。
しかし初回からしっかり走り、アウトにはなったが攻める姿勢は見せられた。
「次はチャンスの場面で打って、点数を取っていきたい」。
チャンスメイクもポイントゲッターも、どちらの役割もこなす。
■2番・濱田勇志
昨年からのレギュラーである濱田選手は、今年は「自己犠牲」を掲げる。
「今年は結果は捨ててるんで、チームが勝てればいい。NPBを目指しているわけじゃないし、今年は目いっぱい野球をやろうかなと思って。なので個人成績は捨てて、チームが勝てるような役割と、あとは繋ぎ。打線では繋ぐこと、犠牲になること、還すこと」。
監督が「もっとも野球を知っている」という理由で2番に据えるが、その意図をしっかりと汲み取っている。
「今日も牽制アウトになったけど、これからも怯むことなく盗塁を狙う」。
チームを勝利に導くための万能な“駒”となる。
■3番・柏木寿志
高校を卒業して初の公式戦だ。「守備では思いきったプレーができた」というように、実に6度の守備機会と併殺プレーにも絡み、アグレッシブに躍動した。
ただ「ちょっと急いでしまったりとか雑なプレーが出てしまった」と敗戦の責任をかぶる。
「急がないっていうか、雑なプレーをしないこと」。
次戦に向けて、さらに引き締め直していた。
「初めて見た」というナックルボールには苦戦した。
「速くはないからタイミングは合ってるけど、ちょっとズレされたりして、対応できなかった」。
2番手の投手に対しては左翼フェンスギリギリのところまで運び、「感触はよかったんで…」とサク越えしたかと思ったが、「勘違いでした」と照れ笑いする。
春先の手首の故障も癒え、思いきり振れるようになった。そのスイングを見たシュライクスの藤江均コーチも思わず「3番バッター、ええなぁ。ウチに来ぇへんか(笑)」と声をかけてきたくらいだ。
「思いきって自分のスイングをやっていきたい」と、柏木選手もさらなる向上を目指している。
また、相手バッテリーの隙をついての走塁も、練習試合に続いてこの試合でも見せた。
「隙があったらどんどん行こうと思っている。足の速さに自信はないけど、スタートとか思いきりっていうのは自信がある。それと相手を研究することが大事」。
走攻守、いずれにおいても思いきりを大事に攻めまくる。
■4番・小山一樹
「バッテリーとしてはトータルで2失点なんで、点数だけで見たらピッチャーはよかったかなと思う。盗塁も1つ刺せたし」。
投手ともしっかりとコミュニケーションをとりながら臨んだ。とくに1年目の投手ばかりだ。より気を配った。
「公式戦を経験してないんで、多少不安っていうのもあったと思うんで、できるだけポジティブな声をかけた」。
ブルペンで緊張から思うような球が投げられていないと気づくと、「いいボール!」と励まし、リズムよく返球するよう心掛けた。
打撃では「ナックルの打席に立つのが初めて。福良(友作)のナックルは受けてるけど、受けるのとはちょっと違う。スローボールみたいな感じかなと思うけど、打ちづらかった」。
とはいうものの、1安打して唯一のホームを踏んだ。
「初球から振っていくのが取り柄なのに、初めてのピッチャーだったんで見てしまっていた。ヒットになったのも初球だった」。
積極的な本来の姿を取り戻したことにより、生まれたヒットだった。
最終回の守りで、ファウルチップが右ひざ横を直撃し、ベンチに下がった。うずくまる姿から相当な痛みであることが伝わってきたが、「明日は出ます!」と試合後には気合いを見せていた。
主砲としての責任感を背負いながらプレーし、今年こそはNPBに行く。
■代打・藤山大地
六回、一死一塁の場面でアンディ選手に代わって出番が訪れた。
「結果を出さなあかんと思いすぎたんかもしれない。そこが反省点」。
気負ってしまった。しかしボテボテの当たりながら、なんとかランナーは進めた。
その後、レフトの守備にも就き、ファウルフライに果敢にもスライディングキャッチを試みた。全身で“野球好き”を表現しているのが、藤山選手だ。
今年は投打の“二刀流”で期待されている。
「もう嬉しいしかない。僕はずっと出たいから。去年はピッチャーだけやったけど、ほんまは心の底は二刀流をしたかった」。
入団時に願望は伝えたが、受け入れてもらえなかった。それが今年、晴れて実現したのだ。
先発投手のときと、野手としての出場。それぞれゲームへの入り方が違うというが、変わらないのは常に全力プレーを心がけているということだ。
■7番・仲瀬貴啓
「正直、力負けかな」。そう言って、キャプテンは肩を落とした。
「何回もチャンスあったんで、もったいないというか…。ほんとだったら、あと5、6点くらいは入ってないといけない試合かなと思う」。
若い選手が多いため、開幕戦独特の硬さは否めない。自身のルーキー時代を振り返っても、「アガッたり」ということがあったから、その気持ちはわかる。
なんとか引っ張らねばという気概が、唯一の得点である1点をたたき出した。二死一、二塁から意地の一打だった。
自ら進んでキャプテンがしたいと手を挙げた。それだけに、すべてで率先して取り組む。
「若いけどいい選手が多いんで、投手も野手も。その模範となるような、先輩としてキャプテンとして大黒柱として、チームを引っ張っている姿だったりプレーだったりを見せられるように、1年通してやれたらなとは思っている」。
しっかりとチームを牽引していく覚悟はできている。
■橋本監督の総括
試合後の橋本監督も、佐野投手には「手こずった。ちょっとナックルボーラーというのを意識しすぎたんじゃないかなと思う」と振り返る。
「意外と曲がってないなとか、高めにきたらもっと落ちるかと思ったら全然落ちないとか、先行のイメージが強すぎた。もうちょっとコントロール悪いのかなと思ったのと、もうちょっと曲がるんじゃないかなっていうイメージがあったんで、そのへんが手こずった要因かな」。
試合前のイメージが先行しすぎたことを反省点に挙げる。
しかし戦前から宣言していたように、初回からしっかり「足」を使った。残念ながら盗塁を刺された後に牽制死と、うまく機能はしなかったが、今後も変わらず攻めていくという。
3番・柏木選手、4番・小山選手、そして六回に代打で出した藤山選手らの力強いスイングにも頼もしさを感じていた。
「もう少し早く先発を降ろさせたかったけど…。まぁでも初戦だし。なんせ昨年も試合に出ていたのは濱田と小山だけなんで。そんな中で仲瀬はよく打った」。
敗れはしたが、ナインの健闘を讃える
黒星発進となったが橋本監督に悲壮感はなく、サバサバと…いや、むしろ手応えを深めたようだった。
「やっぱり今年のチームは強いと思う。若さをいい意味では出してほしいけど、若いがゆえに崩れていくこともあるとは思う。でも、それはそれで経験として」。
敗れたが「強い」と強調するのには、橋本監督なりのわけがある。
「『強い』『強い』って選手みんなに言って、自分らはできるっていうような洗脳というか、それを植えつけている。自信ない子もいるので。だからあえて、『今年のチームは今までより強い』と言っている。僕も正直、不安はあるけど(笑)」。
選手はもちろん、自身も意識改革をし、兵庫ブルーサンダーズは真の強いチームに進化していく。
(表記のない写真は球団提供)