関西独立リーグ・兵庫ブルーサンダーズ、1勝へ生みの苦しみと明日への光
■初の引き分けは和歌山ファイティングバーズ戦
遠い。1勝がとてつもなく遠い。
6月13日の開幕戦から未だ勝ち星のない兵庫ブルーサンダーズ。7月には対戦相手に新型コロナウイルスの陽性者が出たため、感染拡大防止の観点から約1週間、活動自粛を余儀なくされた。
7月24日に練習を再開したものの自粛の影響は小さくなく、本来の力がなかなか発揮できない。
しかし8月11日の対和歌山ファイティングバーズ戦でこれまでとは違う姿を見せた。勝てはしなかったが「やられたらやり返す」という反発力を見せて引き分けに持ち込み、初勝利まであと一歩と迫っていることを感じさせた。
この試合直前、チームは北海道ベースボールリーグの招待で北の大地に遠征していた。公式戦ではないが、そこで4-10と勝利して帰ってきた。おそらくそれも好影響を与えたのだろう。
では、今季初の引き分けとなった和歌山ファイティングバーズ戦を振り返ろう。
先発は落合秀市投手だった。立ち上がり、制球が定まらなかったことに加えて味方のエラーが続いて3失点したが、併殺などで切り抜け三回までしのぐ。
その裏、四球で出た蔡鉦宇選手を、藤山大地選手が外角のストレートを逆らわずにレフトへ運んでホームへ還した。4番・小山一樹選手もスライダーをレフト前へ。その後、4連続四球で4得点し、逆転に成功する。
しかし四回表に3連打で再びリードを奪われた。
するとまたその裏、蔡選手が真ん中高めのチェンジアップをとらえて右越えの二塁打で出塁。藤山選手が内野安打で繋ぎ、調子を上げてきた柏木寿志選手、西優輝選手のタイムリーで再逆転。7-5とリードを奪った。
五回から八回までお互い無得点のまま、いよいよ初勝利かと思われた九回。山科颯太郎投手が先頭打者への四球から野手のエラーも絡んで2失点し、同点に追いつかれる。
最終回の攻撃では代打・仲瀬貴啓選手の中前打、濱田勇志選手の右前打で一死一、二塁とチャンスは作ったが得点には至らず、引き分けに終わった。
■橋本大祐監督のコメント
「残念ですね…」。そう口を開いた橋本大祐監督は、失点の原因となった3つの失策についてまず言及した。
「試合前のシートノックが雑だったんで、『丁寧にいけ』っていう話はしたんだけど初回からエラーが出てしまった、2つも。流れ的によくなかった。ピッチャーの足を引っ張ってしまった」。
しかし手応えはしっかりと感じている。
「北海道くらいから雰囲気もよかったし、野手も打てるようになってきた。エンドランとかも使うようになって、打つほうに関しては上向き。それぞれがオープン戦のころのような状態のよさに戻ってきている」。
好調だったオープン戦のあと、コロナ禍で自粛に入り、そこで調子を崩してしまった選手も多く、本調子で開幕を迎えられなかった。しかしここへきてようやく本来の力を取り戻してきたようだ。
一方、投手陣それぞれについても語る。
落合投手に関しては「最初、エラーエラーでイライラはしていた。最後の集中力も切れていた。そのあたりはまだ精神的な脆さや幼さがある。でも抜け球も多かったが、ハマッたときの球はやはりすごくいい。もっと投げ込み、走り込みをしないとあかん」と、期待すればこそ厳しい目で見ている。
2番手・西村太陽投手については「自信をつけたな」と目を細める。その「自信」の根源は北海道での登板にあったという。3点リードしながら二死一、三塁と一発同点というピンチの場面になったが、そのまま西村投手に託した。
「テンポはもともといいピッチャーだけど、疲れが見えはじめたところでしっかり投げきって抑えた。それが自信になったのかな」。
投げる姿にもこれまでとは違うものが見えると、橋本監督はうなずく。
さらに橋本監督が絶賛したのは、コロナ禍の影響で7月9日以来の登板となった小牧顕士郎投手だ。
「力のあるピッチャーで、練習さえできていれば問題はなかったんだけど…。でも思った以上によかったかな」。
そして最終回に逆転を許した山科颯太郎投手にも温かい視線を送る。
「バランスも悪いし、置きにもいってるし…。壁にぶち当たってるんでしょうね。自信あったのが、そんなすんなりいくわけでもなく」。
しかしNPBに送り出せるであろう逸材と見込んでいるからこそ、ここからの立ち直りに期待を寄せる。
「下半身が弱い。振りかぶって足上げて捻ったときに、フラフラしてバランスが悪い。あとはまっすぐがね。空振りの取れるまっすぐを。スライダーがいいけど、スライダーを投げるまでにいってないので」。
橋本監督もじっくり鍛え上げる構えだ。
おもな選手のコメントも紹介しよう。
≪投手≫
【西村太陽】
*五回からの2回を1安打、無失点。
「最近、早い回にいくことが多いので、ロングで投げるのも慣れてきた。
コースを決めにいきすぎてボールになったりはあったけど、球に力はあったと思う。全部、外野の定位置で打ち取れた。
最近ずっと、準備をしっかりすることを心がけている。試合で投げる日は、練習でセンターまで短いダッシュで走るようにしている。高校のときのルーティンだったけど、それに戻してみた。それがハマッてきたと思う」。
【小牧顕士郎】
*八回、1回を無安打、無失点。
「(コロナ禍の自粛で)久しぶり(7月9日以来)の登板だったけど、よかった。下位打線だったんで変化球は1球だけで、ほぼまっすぐだけでいった。まっすぐに手応えがあった。
(自粛期間中)家の近くにグラウンドがあるんで、人がいないときにひとりで壁当てをしたりダッシュをしたりしていた。
(課題)先頭打者の四球は点に繋がる確率が高いので、それだけは出さないよう意識して今季はやっている。意識で変わる。1年生、2年生のときはその意識が足りなかった。
(今後)今までどおりまっすぐで押していって、新しい変化球もチャレンジしてるんで。前の試合でチェンジアップを投げた。いろいろ考えて、みんなにも聞いたりもしながら」。
【山科颯太郎】
*九回、エラーも絡み、1安打2失点。
「(先頭の四球)気持ち的にストライクが入る気がしなかった。フォームが悪い。ブルペンからよくなかった。
(次回登板)自信をもって、気持ちを全面に出して、それで悪かったらしゃあないんで。明日は気持ちで投げます」
≪野手≫
【蔡鉦宇】
*三回は四球で出塁、四回は右越え二塁打で得点の起点になる。
「これまで7連敗していたので、試合の入り方を考えた。1球ずつしっかり集中してと目標を立てた。
試合前、ひとりひとりの仕事をちゃんとやってほしいということをみんなに伝えたり、試合中の声をかけることを意識した。
今まで試合中に声を出すということが少なかったけど、北海道遠征からできるようになってきた。チームとして成長してるかな。
今日は(同点打のきっかけになった)九回の自分のエラーが悔しい」。
【藤山大地】
*三回、一死一塁から左越えタイムリー二塁打、四回も内野安打で出塁して盗塁と、いずれも得点。
「負けてる状態だったので、繋いでいこうと思った。強く振ることを意識したらレフト方向にいって越えた。
初回、チェンジアップで三振した。とらえたと思ったけど当たらなかったんで、次の打席、修正して、ちょっと前に立ったりした。どっちかというとチェンジアップに合わせてて、外寄りのまっすぐにしっかり反応できたのはよかった。
(そのあとの2打席はいずれも先頭で凡退)そこが課題で、出塁できてたら試合の流れも変わって点も入ったかもしれない」。
【小山一樹】
*三回、一死二塁からスライダーを左前に運んで一、三塁に。そのあとの得点に繋げる。
「(北海道で勝って帰った)リーグ戦とは別だけど、勝つことができていい流れで雰囲気もよくなった。
まっすぐのタイミングで入って、変化球が甘くきたら打ちにいこうと思っていた。
(先発・落合に対して)野手のエラーもあってリズムを崩して申し訳なかったなと。僕自身の準備不足あって弾いてしまったりもあったし、アップからしっかりやっていきたい」。
【柏木寿志】
*四回、二死二、三塁から左前タイムリー。盗塁も決める。六回にも内野安打で出塁。
「一番よかった時期がオープン戦のころで、状態がよかった。でも自分の中でもっと高くやろうと思って変にフォームをいじっていた。
だけど、あじさいスタジアム(7月25日)で全然打てなかったときをきっかけに、元に…一番よかったころに戻そうと思った。
元々トップの位置が低かったのを高く上げてて、でもそれだとタイミングがとりにくくて。タイミングが一番大事やなと思ったんで、一番とりやすい位置に戻した。
あと一つ変えたことあって、これまではストレート狙いの変化球でやってたけど、最近は変化球を狙ってストレートは反応で打つっていうように変えている。今日のヒットも変化球を狙っててインコースのストレートを反応で打てた」。
【西優輝】
*三回は同点となる押し出し四球を選び、四回には二死満塁から勝ち越しの左前タイムリー。
「1球目、スライダーが外れた。1ボールからのファーストストライクだったんで、まっすぐに張っていた。打てる気がしていたし、集中していた。
今、意識しているのは、ピッチャーにしっかり焦点を合わせるということ。テレビでプロ野球の解説の人が言っていた。ほかのところを見てからピッチャーを見ると焦点が合う、と。今日打ったとき、打席で思い出してやってみたら、よく見えた。
またチャンスでチームに貢献できるバッティングをしたい。守備も含めて」。
【仲瀬貴啓】
*同点の九回裏、一死から代打で中前打。
「同点に追いつかれて雰囲気が悪かったんで、キャプテンという立場上、僕が1本打てればチームは乗っていけるんじゃないかという気持ちがあった。食らいつきながら初球からどんどんいってやろうという気持ちで打席に入った。
張ってというより来た球に反応で打つタイプで、初球が変化球でファウルになってくれたんで、インコースまっすぐに反応できた。
(控えでもベンチで声)年齢的にも出られなくていじける歳でもないんで、チームを活気づけるという面で出てる選手を支えるために最低限、声で少しでも引っ張りたい。出てるときも出てないときも心がけている。
(北海道で1勝)久々に勝つという喜びを知ったので、今日の試合も意気込んで入ったのが三回、四回たたみかけられた。反骨心が出た。あの流れで負けなかったんで、まだこっちに流れがある状態。明日に向けてこのあとから準備する。明日は絶対に勝ちます!」
限りなく勝ちに近づけた引き分けだった。チームは誰も悲観していない。ただ勝利を目指して邁進しようという意気込みで溢れている。
兵庫ブルーサンダーズ、初勝利は目前だ。
(写真提供:兵庫ブルーサンダーズ・山見ミツハル)