文在寅のGSOMIA廃棄はトランプが生み出した流れの一つか?
フーテン老人世直し録(459)
葉月某日
韓国の文在寅政権が日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の終了を宣言したことは日米両政府に衝撃を与えたが、いつもならツイッターで反応するトランプ大統領がまったく反応を示さない。
G7に出発する前に記者団から質問されると「安倍総理も文大統領も良い友人だ」と質問をはぐらかし、「どうなるか見守ろう」とだけ述べ、「怒り」も「失望」も表明しなかった。国務省や国防総省が「深い失望」を表明しているのとは対照的である。
第二次大戦後の米ソ冷戦は世界を共産主義独裁体制と資本主義民主体制の二つに分け、その最初の軍事衝突が朝鮮戦争だった。冷戦史観で現状を見れば、日本との安保協力関係を終わらせた文大統領の決断や、それを静観するトランプ大統領の反応は理解を超えた異常な対応ということになる。
しかし冷戦が終結して既に30年が経つ。30年経てばすべてが一新されるわけではないが、冷戦思考の上に様々な要素が積み重なり、それらが化学変化を起こしながら新たな対立軸が作られているのが現状である。
擁護する訳ではないが、文在寅の頭には冷戦史観を超えようとする考え、トランプの頭には冷戦後の米国の一極支配の躓きを超えようとする思考があるとフーテンは思う。それに比べると日本には脱冷戦の考えも、冷戦後の躓きを超えようとする思考も乏しいように思えてならない。
前にも書いたが、朝鮮民族の悲劇は日本の植民地支配から解放されても独立した国家を創ることが出来なかったことである。米国の思惑で38度線を境に分断され、北はソ連軍が、南は米軍が旧日本軍の武装解除を行った。
米ソ冷戦が始まると、それが二つの国家に固定され、統一をどちらが主導するかで朝鮮戦争が勃発、民族同士で血を流すことになった。戦争が休戦しても軍事的緊張は変わりなく、南北共に軍事独裁政権が続くことになる。
一方で冷戦の恩恵を最も受けた国は日本である。朝鮮戦争特需で経済成長の端緒を掴み、朝鮮戦争のトラウマから米国が深入りしたベトナム戦争を契機に、日本は世界が驚く高度経済成長を成し遂げた。
全面的に韓国の面倒を見た米国が、その一端を日本に負わせることにしたのが、65年の日韓国交正常化である。政治的に未解決の問題に目をつむる形で日本は経済援助を行い、韓国の朴正熙軍事独裁政権が「漢江の奇跡」と呼ばれる経済復興を達成した。
しかしベトナム戦争に敗れた米国では、70年代半ばから「反共政策」の正当性に疑問を持ち、反共でも独裁はけしからんという風潮になる。フィリッピンのマルコス政権と韓国の全斗煥政権が打倒された背景には民主化運動を支えた米国がいる。
従って「徴用工問題」で安倍総理が日韓請求権協定に言及し、「国と国との約束を守れ」と言うが、韓国の方には民主化運動で打倒された軍事独裁政権が行った約束だという意識があるのではないか。さらに中国人徴用工には日本企業が謝罪し和解金を支払った例があるため問題は複雑になる。
冷戦時代の日本は憲法9条を武器に軍事負担を拒み、軍事を米国任せにして経済に注力したが、その結果、米国を経済で追い抜く勢いを持ったため、冷戦末期の日本は米国からソ連以上の敵とみなされた。
ソ連が崩壊して冷戦が終わると、米国は「反共の防波堤」として豊かになった日本とドイツをロシアや中国と同列の敵と見る。もはや世界を共産主義独裁体制と資本主義民主体制の対立とは見ず、世界を一極支配して民主主義や法の支配、人権など米国の価値観を世界に広めようとした。
米国は最大の敵日本を封じ込めるため、まず共産中国と経済的にも軍事的にもパートナーとなり、さらに日本を従属させるために北朝鮮の存在を最大限に利用した。クリントン政権は日本に金を出させて朝鮮半島を統一し、最後の冷戦体制を終わらせようと一時は考えたが、北朝鮮の脅威を残して日本に軍事負担を負わせる方が得だと考えを変える。
そして日本に憲法9条を守らせることが日本隷属化の道と考えるのである。つまり自衛隊を軍隊にせず、自衛隊のまま米軍に協力させるのが最も好ましい。日米ガイドラインにそれを盛り込み、安倍政権はそれを安保法制にまとめ、さらに憲法9条を変えずに自衛隊を明記することで米国の思い通りになろうとしている。
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