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オトナのためのドラマ、BS(衛星放送)にあります!

碓井広義メディア文化評論家

地上波放送にも、オトナが楽しめるドラマは、もちろんあります。でも、BSなら、恋愛物も社会派も、よりオトナ向けの内容を堪能することができます。現在放送中の連続ドラマの中から、オススメを2本、紹介してみます。

●プレミアムよるドラマ「ふれなばおちん」

(NHK・BSプレミアム 火曜よる11時15分)

ハセキョーこと長谷川京子さんも、いつの間にか2児の母。堂々の人妻女優と言えるでしょう。

オンエア中の「ふれなばおちん」(NHK・BSプレミアム)は、ドラマ化もされた「斉藤さん」と同様、小田ゆうあさんの漫画が原作です。主人公は夫(鶴見辰吾さん)と2人の子供と暮らす、ごく普通の主婦・上条夏(長谷川さん)。

「いくつになっても女とか、それは雑誌やテレビの中のお話。誰かを好きになるなんて、もってのほか」。

―ーそう思ってきた彼女が、「でも、好きな人ができました」という事態に陥ってしまう物語です。

上条一家が住んでいるのは社宅。夏が、中学生の娘(山口まゆさん)から「お母さんて、それでも女?」などと叱られたりはするものの、平穏な毎日でした。

しかし、同じ社宅に暮らす、夫の同僚の妻(戸田菜穂さん)が、パート先の年下の店長と駆け落ちしたことをきっかけに、夏の気持ちが揺れ始めます。さらに、隣の部屋に夫の部下であり、俳優修行中でもある佐伯龍(成田凌さん)が引っ越してきて……。

駆け落ち妻を演じる戸田さん(こちらも私生活では2児の母)がいい味を出しています。男と泊まった旅館から夏に電話をしてきて、「思い出したの。女として満たされるって、こういうことだった」などとのたまう。夏は、説得するつもりで「家族への責任」などを持ち出すのですが、とても太刀打ちできませんでした。

というわけで、「よるドラマ」にふさわしい”人妻の恋”だけでなく、長谷川さんと戸田さんの“人妻女優対決”も大きな見ものです。

もしも、奥さんから「母だって、妻だって、女なんです!」(番組キャッチコピー)と言われたら、頭を下げるしかないと思っているオトコたち、特に必見です。

●連続ドラマW「沈まぬ太陽」

(WOWOW 日曜よる10時)

WOWOWで放送されている「沈まぬ太陽」が、後半の第2部に突入しました。作家・山崎豊子さんの代表作のひとつであり、7年前に渡辺謙さんの主演で映画化もされています。

WOWOW版の最大の特色は、これが「連続ドラマ」だということです。しかも全20話であるため、長い年月にわたる物語が、とても丁寧に描かれています。

始まりは、「東京オリンピック」を3年後に控えた昭和36(1961)年。日本航空(JAL)、じゃなくて国民航空(NAL)に勤務する恩地(上川隆也さん)は、労働組合の前委員長(板尾創路さん)の独断で、新たな委員長にされてしまいます。

生真面目で正義感の強い恩地は、安全運航を最優先して、経営陣に正面からぶつかっていくのですが、その結果が中東やアフリカでの約10年におよぶ海外勤務、つまり不当な報復・懲罰人事でした。

大河ドラマ「軍師官兵衛」も手がけた脚本の前川洋一さんは、恩地を裏切ることで出世していく行天(渡部篤郎さん)や、恩地を追い込む経営幹部(第2部では社長)の堂本(國村隼さん)など、敵(かたき)役をしっかり造形することで、主人公を際立たせています。

また主演の上川さんは、かつて同じ山崎豊子さん原作の「大地の子」(NHK)で注目された、骨太な役者さんです。「そんなに筋ばかり通していたら大変な目に遭うぞ」と、見る側が心配になるほど愚直な恩地を熱演。第1部では、タンザニアやドバイでのロケ映像もスケール感と臨場感を生んでいました。

ドラマの後半は、御巣鷹山の墜落事故を思わせる、未曾有の悲劇からスタートしました。ようやく帰国した恩地が、今度は遺族係として辛酸をなめることになります。JAL、じゃなくてNALという「命を預かる会社」の内幕も、ますます明らかになってきました。

上川隆也主演、WOWOW版「沈まぬ太陽」。オトナの鑑賞に耐える力作です。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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