日本代表・山中亮平、追加招集への複雑な思い語る。【ラグビー旬な一問一答】
ラグビーワールドカップフランス大会に参戦中の日本代表に、山中亮平が追加招集された。
同17日、スタッド・デ・ニースでのイングランド代表戦で、フルバックのセミシ・マシレワが負傷退場したためだ。試合は12―34で敗れていた。
マシレワと同じフルバックの山中は、9月、バーバリアンズの一員としてイングランドで転戦。現地のクラブと実戦を重ねていた。現地時間19日に滞在先のモナコへ入り、20日には、チームにとってオフ明け後初の練習に参加。その後、会見した。
以下、共同会見時の一問一答の一部(編集箇所あり)。
——追加招集を聞いた時の気持ちと、それまでどう過ごしていたかについて。
「イングランド代表戦は向こう(イングランド)で観ていた。夜だったので、そのまま寝て、朝起きて、ご飯、食べたりしていたら、電話がかかって来て、呼ばれる、という形ですね。バーバリアンズでは3試合して。すごくレベルが高かったですし、一緒にやっているメンバーにもすごい選手がいた。成長できたと感じました。いい3週間だったと思います」
——日本代表の試合をどう見ていたか。
「応援していましたよ。勝って欲しいですし、バーバリアンズの日本のみんなで、応援していました」
——日本代表の試合について。
「チリ代表戦の時はバス移動で、タイムリーに見ることはできなくて、前半しか見れていなくて。でも、いいラグビーをしていて、初戦という難しいなかで勝って勢いに乗れたと感じました。イングランド代表戦も前半はすごくいい戦いをしていて、後半は相手のキックのところだったり、こっちからしたらアンラッキーなトライだったりで…。もう少しこっちがミスしないで、うまくいけば、勝てたんじゃないかなと」
身長188センチ、体重98キロの35歳。ワールドカップ出場へは、苦労を重ねてきた。
2011年のワールドカップイングランド大会時は候補入りも、口髭を伸ばすための塗り薬に含まれていた禁止薬物の成分に陽性反応が出たため選外となっていた。2年間の資格停止を経て出場を目指した15年のイングランド大会時も、最終合宿でバックアップメンバーに回った。
2019年の日本大会では、31歳にして初出場。初の8強入りまで計5試合に出場し、体勢を継続して臨む今大会へも長らく主力格として活動。しかし、今年8月15日に発表の大会登録メンバーには、山中の名前がなかった。本人は、大会前国内最後のフィジー代表戦があった日に通告された。
ジェイミー・ジョセフヘッドコーチは、当時、こう説明していた。
——山中亮平選手の落選について。
「山中は素晴らしいラグビーをしてくれる。スペシャリストの15番でしたが、神戸で10番としてプレーする機会がなかったのが現状。フルバックとしての専門家としては松島を考える。もし松島に怪我があったらレメキ ロマノ ラヴァ、セミシ・マシレワがカバーしている。(小倉順平は)10番と15番(※)のカバーで入っています」
——ヘッドコーチは山中選手にも10、15番を兼務するよう伝えていたようですが、それでは不十分だったという認識か。
「合宿、練習で競争していかなくてはいけないポジションだった。46人のなかで競争をしてもらった。そのなかでベストなチームを作っていかなきゃいけない。彼のことは残念で、アンラッキーな部分があったと思っています。彼はフルバックとして評価しないといけない。浦安での20~30分(スタンドオフとしての練習)でよくなるとは思っていないし、ワールドカップで自分たちは強いイングランド、アルゼンチン、チリなどと戦わなきゃいけない。そんな状況の中で、彼の十分な準備ができなかった。それが、最終的に彼がここに選ばれていない理由だと思っています」
ここでの「10番」はスタンドオフで「15番」はフルバック。
本人はこうだ。
——落選理由についての説明は。
「チームの考え、ゲームプラン。…まぁ、そこで外れたというのは感じました。フルバックには松島、セミシもいて、ボールをより動かしていくようなラグビーをするのかなと。直接、言われたわけではないですけど、感じた。そこはもう、受け入れるしかないという感じでした。プレーのこと自体は何が悪かったとかではなく、よかったと言われた。自分のなかでもポジティブに考えながら、受け入れたという感じです」
ここから続けるのは、今回、自身が呼ばれたことの意味だ。繰り返せば、今回はマシレワの故障に伴いピックアップされている。問われずとも、その前提条件を口にする。
――夏に落選した時、追加招集された時の気持ちは。
「落ちた時はショックが大きかった。どこかで行けるかもなという気持ちがありました。4年間そのためにやってきたので、外れた時は悔しかったという気持ちです。今回、呼ばれて…。まず、セミシが怪我をした。誰も怪我なくワールドカップを終えるのが一番なので、そこ(仲間の離脱)がすごく残念だなと。呼ばれたからには、チームにコミットして貢献したいなと。(追加招集の)電話がかかって来た時は、嬉しい気持ちがありました」
——当時、心の支えは。
「外れてから、公式発表までは10日くらいあったのかな…。1週間くらいは落ち込む時期が多かったんです。何も考えられないというか。その間に色んな人と会って、話をしているなかで、どんどん前向きに気持ちが変わっていった。五郎丸さんとも神戸で会う機会があったので、すごくポジティブになったし、まだまだ頑張らないといけないなという気持ちになって、いい感じに進んでいます」
——元日本代表の五郎丸歩氏の、どんな言葉が刺さったのか。
「…ちょっと、お酒も入っていて。 …バーバリアンズに行くという話もしていたんで、『何か違う刺激もあるかもしれないし、ここで頑張っていれば何かチャンスはあるかもしれないから、いい準備をして欲しい』という話はあった。それが、いまにもつながっていると思います。
バックアップという形でバーバリアンズへは行っていましたけど、あまりそこ(追加招集)は意識せず、ラグビー選手として次の目標に向けて、ラグビーを楽しんで、自分の成長のためにプレーした。そうすることが(有事への)準備にもなりますし」
チームは現地時間28日、スタジアム・ド・トゥールーズでサモア代表とぶつかる。2大会連続での8強入りへ、負けられない戦いが続く。
——追加招集は最初、誰に伝えたか。
「まずは家族に伝えました。あとは、友人、親もそうですけど」
——選外だった時、追加招集された時の家族の反応。
「外れた時はショックを受けて子供も泣いたりしていましたけど、今回テレビ電話で伝え手すごく喜んでいました。どういう形であれワールドカップに行くということは、家族は嬉しいと思うので、喜んでいました」
——久々に日本代表に合流して。ヘッドコーチのジョセフからは声はかけられたか。
「チームは雰囲気とかもよくて、何も変わらずというのか、いい意味で変わらず。久しぶりに戻って来たなという感覚はありました。ジェイミーとはきょう、挨拶して、特別かけられた言葉はないですけど、『来てくれてありがとう』という感じで言ってはいたかな、と思います」
——選手と接して。
「僕が着いたのは(18日の)夜だったので、全員と会う機会がなかった。昨日(19日)もオフだったので、きょう、会った人もいた。ただ、リラックスしていました。落ち込んでいるというより、前を向いて、切り替えられているんじゃないかというイメージです」
——自身が加わってしたいこと。
「来たからには、何かしらでしっかりと貢献したいなと思います。(最後に参加してから)1か月半くらい空いているので、早くチームにコミットする。どのポジションかはわからないですが、与えられたところで、役割を果たしたいです」
——フランス大会前は今大会を最後だと捉えていたが、落選を受けて4年後を目指すと宣言。改めてフランス大会に出られることになった。心境は。
「ずっと集大成、集大成と言ってきていて、そう思っていたんですが、(一時メンバーから)外れて4年後を目指すと決めてから、いま、成長できているし、バーバリアンズでもラグビーを違う形で楽しめた。いまは集大成というより、自分の持っているベストを常に出していきたいと思っています。これがラストという考えはないです」
——今回の追加招集に対する歓迎ムードについて、自身はどう捉えているか。
「嬉しいです。はい。こんなに応援してもらえていたんだと気づきましたし。それが、わからなかった(実感がなかった)ので。たくさんSNSで声が届いているので、感謝の気持ちがあります」