アップルによる投影キーボードの再発明について
机にレーザー光で投影したキーボード画像でタイピングできる「投影キーボード」、「バーチャルキーボード」などと呼ばれるテクノロジはかなり昔から存在します。少なくとも2002年頃には存在したようです(参考サイト)。
この種のキーボードではユーザーの指の動きを、水平方向に投射される赤外線レーザー光(キーボードを投影する赤色光とは別)の指による反射をセンサーで読み取ることによりキー入力を検知していました(参考サイト)。したがって、指がキーボード(机)に近づいただけで反応してしまうので、指は常に持ち上げておく必要があります。また、指の動き検知用の赤外線レーザー光が水平方向に投射されることから、机上にある程度の平面スペースが必要になってしまいます(物理キーボードよりも占有スペースが広くなってしまいます)。ということで、おもしろくはあるのですが、実用性という点では疑問が残ります。実際、現時点で使われているのを見ることはほとんどないかと思います。
つい先日にアップルがこの古くからあるテクノロジを再発明したかのようなアイデアで特許を取得しました。公開ではなく特許化です。特許番号は10,871,820、登録日は2020年12月22日、出願日は2019年5月9日、発明の名称は、” Self-mixing based 2D/3D user input detection and scanning laser system”です。
発明の主目的は、タイトル画像にあるように、レーザー光で机上に投影したバーチャルキーボードで入力できるようにすることにあります。とっくに公知になっている従来の投影キーボードとどこが違うのでしょうか?大きな相違点の1つは「自己混合干渉センサー」(self-mixing interferometry sensor)を使用している点です。これにより、レーザーの発光器とセンサーを一体化できます。これ自体は公知の技術です。
そして、キーが押されたことを下図のように、指が投影面(典型的には机)に押付けられて指の形状が変わることを検出することによって、キー入力を検出します(自己混合干渉センサーはレーザー光の位相差で距離を測定しますのでマイクロメートル単位の精度での測定が可能です)。したがって指をキーボードから大きく浮かせておく必要はなく、ある程度押し込んだ(指がたわんだ)時点で初めてキー入力が行なわれるように設定することが可能です。物理キーボードと同じとまでは言えないかもしれませんが、従来型の投影キーボードよりはかなり自然な入力ができるのではと思います。
また、このような仕組みを採用していることで、机の上にバーチャルキーボードを投影するという従来の使い方だけではなく、壁にプレゼンスライドを投影し、ポインター(棒)(154)で画面を押した時のポインターのたわみを検出して所定の処理を行なわせることなども可能です。
では、具体的に権利範囲を見てみましょう。クレームドラフティングが上手でかなり広範囲の権利化ができていると思います。
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