こんな場所に鮨店がオープン!? 名物の「チラシラズ」「キャビぐろ」とは?
隠れ家の鮨
隠れ家の鮨店は、食通たちの心をくすぐる飲食店です。
住宅街の中にポツンとあったり、入り口がわかりづらくなっていたり、看板がなくて知らなければ素通りしてしまったりなど、色々な隠れ家があります。
これまでにもたくさんの隠れ家的な鮨店がありましたが、新しいタイプの店が登場しました。
それは2022年4月1日にオープンした「すし いわお」。
何が新しいかといえば、赤坂にある浄土寺の境内、路地を入ったところにある一軒家の江戸前鮨店だからです。
このようなロケーションにある隠れ家となると、なかなかないでしょう。
店主は岡部巌氏
店主を務めるのは岡部巌氏。ヒルトン東京やフォーシーズンズホテル香港といった5つ星ホテルから、ミシュランガイド一つ星の鮨店「銀座いわ」などで研鑽を積みました。
岡部氏が使用する米は宮城産「ササニシキ」。但馬醸造の赤酢を用いたロゼシャリと赤シャリを使い分け、豊洲市場や直送で厳選したネタを用いて鮨や一品料理を紡ぎ出します。
江戸前をベースにしていますが、ノドグロにキャビアをのせたり、散らさないちらし寿司を考案したりと、クリエイティブかつモダンに仕上げているのが特徴。
この「すし いわお」で体験したいのが、ランチの「チラシラズ」(6,000円、税・サ込)とディナーの「握りコース」(22,000円、税・サ込)です。
チラシラズ
「チラシラズ」はランチで提供されており、8食の2回転で1日16食限定。散らさないちらし寿司です。
やわらかな味わいのロゼシャリが用いられており、その上にはカンピョウ、オボロ、玉子、キュウリがのせられます。
さらにその上には、旬のネタ16種類が4×4マスに美しく配されており、とても華やかで賑やか。
当日はマグロ、中落ち、サーモン、コハダ、アジ、エビ、イクラ、トビコといったネタで非常に充実した内容でした。
握りコース
「握りコース」は全部で24種類とバリエーション豊か。
つまみは10種類前後、握りは12種類前後、味噌汁、デザートという構成です。メニューの中からいくつかを紹介しましょう。
コハダ
江戸前鮨の基本であるコハダ。酢で〆たコハダの酸味とまろやかなロゼシャリがよく合っていました。
岡部氏いわく「光り物や白身には優しい味わいのロゼシャリ、赤身などには赤シャリを合わせています」。
カスゴダイ
マダイの稚魚である旬のカスゴダイ。繊細でやわらかな味わいが感じられます。
サワラ
サワラは昆布〆にして、旨味がより深まっていました。昆布が強すぎないように提供1時間前に〆て、サワラの繊細な風味を残しているのが、岡部氏ならではの細やかな仕事。
キャビぐろ
岡部氏のスペシャリテ。長崎県対馬から直送されたノドグロを炭火で焼いてから七輪で温め、キャビアをのせました。
シャリがやわらかく、手渡しされるので一口で食べるとよいでしょう。女性には優しく器で提供。
もともとキャビアが好きではなかったという岡部氏が、このキャビアなら使いたいと生み出した握りです。
そのキャビアとは、ドイツ・ミュンヘンの「N25」。完全無添加で、化学肥料、殺虫剤、抗生物質等は一切使用をしていません。ドイツ産岩塩だけが加えられており、塩分が低く、3年熟成されているので味わい深いです。
赤身漬け
ここからは、江戸前鮨の定番である赤シャリが用いられています。醤油の風味もよく、赤身の味わいも濃厚。
トロ
脂がのった口溶け感のあるトロと、アルデンテのシャリがよいコントラスト。
トロタクのおはぎ
トロタクを提供する鮨店は多いですが、中落ちとタクアンをおはぎ風にした握りは珍しいです。軍艦ではなく握りなので、中落ちと赤シャリの甘味とやわらかさがダイレクトに伝わります。
サバの棒鮨
一般的な棒鮨は、サバの下はシャリだけです。しかし、岡部氏の棒鮨には、シャリだけではなくサバ、タクアン、アサツキが加えられています。
そのため、最初から最後までサバが感じられて、満足感が高いです。ちなみに、サバは3日間寝かさせてあるので、落ち着いた風味に。
クルマエビ
熊本県天草のクルマエビを用いた握り。鮮度のいいクルマエビを低温で火入れし、甘くてしっとりとした状態になっています。
アワビ
1週間かけて、沸騰させずにゆっくりと煮たアワビの肝のソース。濃厚でありながらも、臭みが全くありません。
その上には大きめにカットしたアワビ。途中で上にウニをのせてもらえるので、ウニはそのまま食べても混ぜても、どちらでもおいしく食べられるでしょう。
デザート
一般的な鮨店では、最後に玉子焼が提供されます。
しかし、「他と同じでは面白くありません」と岡部氏が述べる通り、玉子焼の代わりに卵黄を使った濃厚なプリンが用意されていました。
「すし いわお」の特徴
「すし いわお」は、江戸前鮨を基軸にしながらも、モダンに仕上げ、楽しく食べられるように工夫しています。
赤シャリとロゼシャリを使い分けたり、キャビアを合わせたり、おはぎに見立てたり、ちらし鮨を散らさなかったりと、非常に個性的。
お酒も充実しており、日本酒であれば、10種類~15種類が用意されていました。今では入手しづらくなった福井県の黒龍酒造が手掛ける「黒龍 しずく」も通年で提供。様々な酒器から好きなものを選べるのも楽しいです。
ワインはグラスで白ワイン1種類を用意。ボトルでは、フランス・ブルゴーニュ地方のバタール・モンラッシェやコルトン・シャルルマーニュといった白ワイン、一際異彩を放つ「ジャック・セロス」や日本でも有名なルイ・ロデレールのビンテージ「ルイ・ロデレール クリスタル」といったシャンパーニュなどのグランヴァンも味わえます。
オープンに至った背景
どのような経緯で「すし いわお」はオープンするに至ったのでしょうか。
岡部氏の経歴を振り返ってみましょう。
岡部氏は新宿にあるヒルトン東京の「武蔵野」で鮨を握っていましたが、常連ゲストにヘッドハンティングされます。日本に家族を置いて単身で香港へ渡り、フォーシーズンズホテル香港の鮨店の板長に就任しました。
その時に、日本のミシュランガイドで一つ星として掲載されたこともあり、香港に進出していた鮨店「銀座いわ」とつながりをもちます。
2019年のコロナ禍の直前に日本へ帰国。近い将来独立することを前提に「銀座いわ」で腕をふるうことになりました。
岡部氏は振り返ります。
「銀座、恵比寿、赤坂で物件を探していました。赤坂の物件を見て回っている時に、たまたま周知される前のこちらの物件に出会ったのです。他にはない素晴しい場所だと一目惚れして、すぐに出店を決断しましたね」
15坪とそこまで広くありませんが、わずか8席に限定しているので、広々と感じられます。以前は高齢の方が経営していた鮨店で、趣のあるカウンター後ろの棚や店のファサードはそのまま残しました。
「祖父が私の名前を付けてくれたのですが、タカシとイワオが候補に挙がっていました。結局タカシに決まりましたが、イワオが心に残っていたのですね」
岡部氏の祖父が残した名を付けて誕生した「すし いわお」。他にはないモダンで個性的な江戸前鮨店が、今年の注目の的になることは間違いありません。