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行列ができる元難民による美容院 ノルウェーの社会統合とは

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
音楽祭で注目を集めていたポップアップ美容院 Photo: Asaki Abumi

ノルウェーの首都オスロで開催されていた音楽祭オイヤ。移民が特に多いとされるトイエン地区の公園を広く貸し切り、フェス会場は「小さな村」のようになっていた。コンサートで音楽を聞くだけではなく、買い物・食事・芸術鑑賞なども楽しむことができる。

会場中央の丘の上にあったのは、小さなポップアップ美容院だった。

音楽祭会場にあったポップアップ美容院 Photo: Asaki Abumi
音楽祭会場にあったポップアップ美容院 Photo: Asaki Abumi

最初は普通の美容院かと思ったのだが、実は元難民としてノルウェーに住む人々により運営されていた。

ノルウェー最大手の銀行DNBは、若手の起業家を支援するプロジェクトを開催しており、美容院「Wide-Ink」はそのひとつ。

美容院の前には常に人が集まっていた。待機リストに名前を載せておけば、順番が来た時に携帯電話に連絡がきて、フェスの空き時間にカットやスタイリングをお願いできる。

女性の髪のカットは5620円、男性は4215円。オスロでは他の美容院ではカットだけで1万円ほどはするので、ここでの価格は安めだ。

「働く人は全員がシリアやイラクからで、美容師としての経歴をもっています。スタッフもお客様と話すことで言語を学び、社会になじむ訓練をします」。

そう語るのは責任者であるヴィッド・アルサエディさん(28)。2016年に難民申請者がノルウェーに大量に押し寄せた時、ボランティアとしてオスロ警察の手伝いをしていた。

アルサエディさん(左)とシリア出身の美容師ガーダさん(右)Photo:Abumi
アルサエディさん(左)とシリア出身の美容師ガーダさん(右)Photo:Abumi

通訳として申請者たちと話していると、スレッドという糸の施術による髪のケアを希望している人が多かったが、ノルウェーの美容業界では知られていないスタイルだった。

反対に、難民として暮らす人々の中には、美容師としての高度な技術を持っている人が多かったが、ノルウェーで仕事を始めるには現地での許可証などの課題があり、今回の活動がスタート。

初めてポップアップストアを開いた時は、多くのスタッフが滞在許可証をまだもっていなかったため、顧客からお金はとらず、「寄付」という形で集め大成功した。

「ここは社会統合が実現できる場所。私個人的には、ノルウェー語の“社会統合”という言葉はあまり好きではありません。社会統合は自分から一人でしようとするよりも、社会全体でするものだと思うから。社会も責任をもって、私たちがなじめるようにして欲しいと思います」。

「私は政治難民としてやってきて、23年間ノルウェーに住みました。高等教育を受けましたが、自分が社会統合できていると感じていませんでした」。

「私たちはもう難民ではありません。税金を払う国民の一人です」と話すアルサエディさん。

シリアとイラクだけではなく、今後はもっと国籍豊かな美容師の集まりにしたいと語る。

シリア出身のトランさんからカットをしてもらっていたシンドレさん(22)は取材でこう答えた。

「ここを見かけて、カットをお願いしようかなと思って来ました。他のノルウェーの美容院と全く変わらないね。ノルウェーの美容師たちと同じくらいに才能があると思うよ、間違いなく」。

トランさん(右)にカットしてもらうシンドレさんPhoto:Asaki Abumi
トランさん(右)にカットしてもらうシンドレさんPhoto:Asaki Abumi

Photo&Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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