明確な起源は未だ不明…異常に長い周期を持つ奇妙な電波信号を検出
どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。
今回は「奇妙な電波信号とその起源」というテーマで動画をお送りします。
オーストラリアのシドニー大学などの研究チームは、これまでに見たことのないような特異な電波信号を検出したと、2024年6月に発表しました。
新発見の電波信号はこれまでにないほど周期が長く、さらに発光パターンが複数あることなど、既知の電波放射現象の理論では容易に説明できない奇妙な特徴をいくつも持っています。
その放射源は非常に珍しい中性子星である可能性が高いものの、他の可能性も否定できず、その奇妙さを上手く説明できていない現状です。
本動画では、そんな新発見の電波信号について解説していきます。
●電波トランジェントとパルサー
空を観測していると、宇宙のどこかから到来する異常な電波信号を検出することがあります。
そんな信号は「電波トランジェント」と呼ばれます。
電波トランジェントは場合によっては一度だけ発せられたり、時々点滅したり、決まった周期で繰り返し起こる場合もあります。
繰り返し起こる電波トランジェントの放射源は、強い磁場を持ち、高速で自転する中性子星「パルサー」がほとんどです。
パルサーの電波信号の特徴として、極めて等間隔で地球に到来することが挙げられます。
この特徴から、「宇宙の灯台」と呼ばれることもあります。
パルサー由来の電波信号の周期は、基本的に数秒~数分の1秒と短いです。
これは中性子星の自転が高速で周期が短いものが多いためです。
中には自転周期がミリ秒単位で、つまり毎秒数百回も自転している「ミリ秒パルサー」もいくつも発見されています。
中性子星は大質量の恒星の一生が終えて、星の核が自身の重力で強烈に圧縮されることで形成されますが、元の恒星の角運動量が保存されることが、中性子星の自転速度が速い傾向にある理由と言えます。
元の恒星の半径が非常に大きいのに対して、中性子星の半径はわずか10〜20km程度です。
角運動量を保存したまま半径が縮小すると、回転速度が増加します。
これはフィギュアスケーターがスピンをする際に腕を引き寄せると、回転が速くなるのと同じ原理です。
天文学者はパルサーに分類される中性子星を3000個以上発見していますが、その中でゆっくり回転しているのはごくわずかです。
●奇妙な電波信号を検出
オーストラリアのシドニー大学などの研究チームは特異な電波トランジェントを検出し、約16000光年彼方にその発生源「ASKAP J1935+2148」を発見したと、2024年6月に発表しました。
天文学者たちは、2022年10月にオーストラリアのASKAP望遠鏡でガンマ線バーストを観測中に、偶然この奇妙な信号を発見しました。
約6時間の観測で、この天体は10秒から50秒の明るい信号を4回放出していました。
なお、電波源の上部にあるもやもやはたまたま同じ方向にある超新星残骸です。
この信号の奇妙な点として、まず周期が54分と非常に長いことが挙げられます。
比較的最近作られたばかりの分類である「長周期電波トランジェント」に属しますが、これは他に2つしか見つかっておらず、その中でも54分という周期は最も長いです。
また、発光パターンが複数あり、いくつかの偏光パターンを持つことも特徴的です。
偏光について、そもそも光や電波などの電磁波は、その名の通り電場と磁場の振動が横波として伝わる現象です。
自然光など一般的な電磁波は、様々な方向に振動する電磁波が集まったものです。
それに対し、特定の方向に振動が偏った電磁波は「偏光」と呼ばれます。
この偏光は自然界でも見られますが、特に宇宙では磁場が存在する場所を通過してきた電磁波に偏光が見られる場合が多いです。
話を新発見の電波放射に戻すと、今回の信号は、同じ放射源からの発光パターンが複数あることがわかっています。
まずASKAP望遠鏡が検出した明るい電波信号が代表的で、10秒から50秒続き、直線偏光というパターンの偏光をしています。
さらに、ASKAP望遠鏡の5倍の感度を誇るMeerKAT電波望遠鏡は、明るい電波信号とは別に、それの26分の1の強度しかない弱い電波信号も検出しました。
この弱い信号は約370ミリ秒続き、円偏光という偏光パターンが見られます。
また、電波信号が検出されない「消光状態」を示すこともあるそうです。
●電波の放射源は?
偏光を持つ電波信号の特徴から、放射源が強力な磁場を持つ中性子星である可能性が高いと考えられています。
また、複数の電波信号が時間とともに変化することから、プラズマやガスが放射源天体を取り囲んでいる可能性があると見られています。
あるいは放射源天体は中性子星ではなく、太陽のようなそこまで大質量ではない恒星が生涯を終えた際に進化する「白色矮星」である可能性も考えられています。
しかし、遥か16000光年彼方から検出可能なほど強力な電波を放射する白色矮星は地球近傍に存在しないことから、現時点では中性子星説が有力であるとされています。
また、何らかの理由で自転が遅い中性子星の周りを、白色矮星などの他の天体が公転しており、その影響で複雑な電波信号が生じている可能性も指摘されています。
パルサーは時間とともに回転が遅くなり、ある時点で高速回転して強力な電波を放つパルサーから、通常の中性子星に切り替わると考えられています。
もしかすると、新発見の電波の放射源天体はちょうどその過程にあるのかもしれません。
しかし電波の放射源についての情報はあくまで推測に過ぎず、詳細を確定するにはさらに多くの研究と観測が必要となっています。
続いて今回の新発見の電波と特異なパルサーの話題の関連で、地球にやってきた反粒子の起源がパルサーであると判明した話題についてもあわせてご紹介します。