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生まれ変わる雇用促進住宅 外国人の生活基盤に ビレッジハウスが見据える多文化共生の住まいの未来

南龍太記者
三重県の団地を改修した「ビレッジハウス笹川」(ビレッジハウス・マネジメント提供)

 全国47都道府県にあった雇用促進住宅、その制度が廃止されて約7年が経過する中、かつての役割は大きく変わりつつある。国の政策で2017年までに廃止された後、フォートレス・インベストメント・グループが一括取得し「ビレッジハウス」へリブランディング、リノベーション(改修)して住み心地を良くし、取得当時3割の入居率は現在8割近くまで上昇した。

 押し上げているのは、年々増え続け現在200万人ともいわれる外国人労働者だ。中には1つの部屋に数人が住むようなゲストハウスのような使い方もされるが、異国にきて心細い中、同郷同士で一緒に住める点などが魅力に映っているようだ。

 同社の岩元龍彦社長にこれまでの歩みと今後について話を聞いた。

雇用促進住宅を改修

 ビレッジハウス・マネジメントは、フォートレスの関係会社として設立され、雇用促進住宅からリブランドした賃貸住宅「ビレッジハウス」を全国で約1000物件、10万戸超管理・運営している。家賃は主に3万円台と値ごろ感があり、抑えられた賃貸価格が好評を博している。

雇用促進住宅を改修した「ビレッジハウス」(ビレッジハウス・マネジメント提供)
雇用促進住宅を改修した「ビレッジハウス」(ビレッジハウス・マネジメント提供)

エレベーター付きのタワーマンションなどさまざまなタイプがある(ビレッジハウス・マネジメント提供)
エレベーター付きのタワーマンションなどさまざまなタイプがある(ビレッジハウス・マネジメント提供)

 かつて国が運営していた雇用促進住宅は戦後、炭鉱離職者の住まいの受け皿として社会的に大きな役割を果たしてきた。ただ、高度経済成長を経て暮らしが豊かになるにつれ、制度の意義が徐々に薄れていった。制度廃止となる終盤では、国が退去を促すなどして徐々に空室が増え、廃止直後は多くが空室となっていた。

 ビレッジハウスは2017年以降、建物にリノベーションを施し、新たな賃貸住宅として生まれ変わらせている。取り壊さずに長期に活用することで、低家賃を実現させている。

 取得時、全体の入居率は33.3%にとどまっていたが、改修などが奏功し、現在は約80%の部屋が埋まるまでになった。

外国人に人気の理由

 入居の契約が次々に決まっていく中、想定外に多かった入居者が外国人だ。雇用促進住宅ではあまり想定されていなかったルームシェアによる利用も目立っているという。例えば、家賃45,000円の3DKの物件に3人がルームシェアで住む場合、1人あたりの家賃はわずか15,000円に抑えられる。

 また、外国人が賃貸の契約時に求められることの多い、保証会社の加入も不要としていることも、契約時の初期費用のさらなる安さにつながっている。「家賃滞納のリスクもあるが、オペレーションを工夫することで、外部の保証会社を利用せずとも、家賃を適切に回収できる体制を整えている。」と岩元氏は自信を見せる。

 今や、ビレッジハウス入居者のうち、5人に1人が外国人だと言い、直近1年ほどでは3割近くが外国人入居に関する契約だったという。中には、入居者の半数以上が外国人という物件もあるそうだ。

外国人向けサービス続々

 低家賃が呼び水となっているが、もはやそれだけが魅力ではない。

 こうした入居者の変化を踏まえ、ビレッジハウスは外国人入居者向けのサービスに一層力を入れている。中でも、入居者の出身地として多いベトナムやブラジルの人々に対応するため、ベトナム語やポルトガル語など、多言語対応のウェブサイトを展開し、外国人労働者が自国の言葉で物件を探しやすい環境を整えている。もちろん英語にも対応しており、今後さらに多言語対応を強化していく。

外国籍新規入居者の国籍別割合の推移(ビレッジハウス・マネジメント提供)
外国籍新規入居者の国籍別割合の推移(ビレッジハウス・マネジメント提供)

 また、ビレッジハウス自体が外国人を雇用している点も特徴的だ。岩元氏は「管理会社として、外国人の方を積極的に受け入れている」と話す。

 ビレッジハウスで働く外国人の意見やアイデアを大切にし、異国で暮らすうえで困ったり悩んだりする視点を取り入れている。たとえば、ごみの分別の仕方などの生活のルールについて、外国語での説明ビデオを作って入居者に視聴いただいたり、詳細なルールブックを入居時に配布、ゴミの出し方の案内看板を設置するなど、きめ細かく対応している。

 さらに、入居者の相談に応じるビレッジハウスのコールセンターでは、外国人スタッフが母国語で問い合わせに対応できる体制を整えており、契約手続きや入居後のサポートをスムーズに行えるようにしている。

コールセンターでは外国人も多く働く(ビレッジハウス・マネジメント提供)
コールセンターでは外国人も多く働く(ビレッジハウス・マネジメント提供)

 こうした取り組みにより、ビレッジハウスは外国人にとって魅力的な住居選択肢であると同時に、雇用の受け皿にもなっている。

増え続ける隣の外国人

 岩元氏は国際協力機構(JICA)の予測を引き合いに出し、「今後も非常に早いペースで外国人は増えてくる」と見通す。2030年、2040年に必要とされる労働力に対し、自然増では供給力不足に陥るとの見立てから、ビレッジハウスはその重要な生活インフラの一端を担う覚悟だ。

 特に、既に多くの外国人が活躍する介護の現場や、半導体工場の新設特需で活気づく建設現場などがある地域で、未改修・未稼働のままの雇用促進住宅の活用の時機を見計らっている。

日本の人口減少を背景に外国人労働者に期待がかかるが、供給力は不足しがち。出典:2022年3月31日国際協力機構「2030/40年の外国人との共生社会の実現に向けた取組み」
日本の人口減少を背景に外国人労働者に期待がかかるが、供給力は不足しがち。出典:2022年3月31日国際協力機構「2030/40年の外国人との共生社会の実現に向けた取組み」

多様な人の受け皿に

 「外国人、日本人を問わず、低価格の賃貸住宅は今後も非常に重要。アフォーダブル住宅としてほかにはない社会インフラになっている」と自負する岩元氏。ビレッジハウスは、単に安価な住居を提供するだけでなく、多文化共生を推進し、外国人労働者を含む多様な人々が安心して暮らせる住環境を提供している。日本の住宅市場におけるそうしたユニークな役割を今後も果たし続けることが期待される。

ビレッジハウス・マネジメントの岩元龍彦社長(同社提供)
ビレッジハウス・マネジメントの岩元龍彦社長(同社提供)

記者

執筆テーマはAIやBMIのICT、移民・外国人、エネルギー。 未来を探究する学問"未来学"(Futures Studies)の国際NGO世界未来学連盟(WFSF)日本支部創設、現在電気通信大学大学院情報理工学研究科で2050年以降の世界について研究。東京外国語大学ペルシア語学科卒、元共同通信記者。 主著『生成AIの常識』(ソシム)、今年度刊行予定『未来学の世界(仮)』、『エネルギー業界大研究』、『電子部品業界大研究』、『AI・5G・IC業界大研究』(産学社)、訳書『Futures Thinking Playbook』。新潟出身。ryuta373rm[at]yahoo.co.jp

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