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AI人材豊富なリトアニアは香草が有名? 遊んで学べるゲーミフィケーションの走り・桃鉄で各国大使がPR

南龍太記者
大使がプレーする桃鉄の最新版「桃太郎電鉄ワールド ~地球は希望でまわってる!~」

名前は時々聞くが、内実はあまり知られていない――。そんな国々の大使が人気のすごろくゲーム「桃太郎電鉄」を通じた自国の魅力発信に熱を上げている。日本一“バズる”ことで知られるジョージアの大使に続き、リトアニアやトンガの大使も相次いで桃鉄に参加、PRに余念がない。

訴求に注力する背景には、戦火は免れつつもきな臭い自国周辺の地政学的事情や、気候変動や自然災害に翻弄される島国の実情など、知られていない知られるべき国情がある。各国は存在感をアピールしつつ、日本に住む自国民のアイデンティティーを強めたい考えだ。

円安傾向が続き、気軽に海外へ出掛けにくい昨今、手軽に海外旅行気分を味わえる「桃鉄」を通じた自国アピールは、時宜を得ているかもしれない。

桃鉄というゲーム

桃鉄は国内外、津々浦々の駅や港を結ぶ線路や航路を、プレイヤーが振るサイコロの目に応じて目的地を目指すすごろくゲームだ。プレイヤー同士が競い合い、一番乗りを目指す。

各地の駅ではご当地の名産や民芸品、有名施設にまつわる物件が売られている。デフォルメされているものの、地形や地理はおおよそ実世界の通りで日本や海外の国々の位置が大づかみに把握できる。

所持金が許せば購入でき、その物件から定期的に収益が得られる仕組みだ。決まった年限で、最終的にお金や資産を多く持っている人が優勝となる。

昨年発売の最新作「桃太郎電鉄ワールド ~地球は希望でまわってる!~」を通じ、先んじてPRに活用したジョージアのティムラズ・レジャバ大使は、流ちょうな日本語を駆使したウィットに富んだSNS投稿が人気で、「日本一バズる大使」、「日本語がうま過ぎる大使」として名を馳せている。

それもそのはずで、大使はジョージアの首都トビリシで生まれた後、30年ほど前の4歳の時に家族で来日し、当時は広島に住んでいたという。その際、弟と桃鉄をプレイしたのが思い出だと語っていた。

日本には現在、90人ほどのジョージア国籍の人が住む。10人前後だった1990~2000年代台に比べ、相当増えた。

桃鉄をプレイした後のレジャバ大使
桃鉄をプレイした後のレジャバ大使

レジャバ大使の桃鉄プレイの様子は、こちらの記事を参照されたい。

「「いろいろな国を自由に楽しめる世界を」 在日20年超、日本一バズる大使が桃鉄を通じて希求する平和」

一方、リトアニアとトンガもそれぞれ特徴ある国だ。

リトアニア ~ITとハーブの国~

バルト三国の最南端リトアニアは1990年、約半世紀に及んだソ連の支配下から離れ、共和国の中で最初の独立国になった。北海道より一回り小さい6.5万平方キロの国土に300万人弱が暮らす。ラトビア、エストニアと同様、農地と森林地帯が多く寒冷な地域だが、昨今はIT立国で知られ、AIやデータサイエンスに聡いエンジニアが多い。スタートアップ企業が多いことも特徴だ。経済イノベーション省があるほどで、起業や革新を後押しする。

そうした背景から、日本に住むリトアニア人356人のうち、在留資格で最も多いのは「技術・人文知識・国際業務」67人だ(2023年6月末時点、永住者除く)。

桃鉄のイベントでは、オーレリウス・ジーカス駐日大使らが、アフタヌーンティーパーティーをしながらビリニュスを紹介した

ビリニュスの到着画像の前でコメントするジーカス大使(右、コナミデジタルエンタテインメント提供)
ビリニュスの到着画像の前でコメントするジーカス大使(右、コナミデジタルエンタテインメント提供)

桃鉄は、各駅で名産品を販売するお店や施設が買える仕組みで、ビリニュスでは特産の香草にちなみ、「ハーブティー店」や「ハーブ農園」のほか、「生ハチミツ専門店」などの物件が並んだ。

ビリニュスについて説明するジーカス大使(右、コナミデジタルエンタテインメント提供)
ビリニュスについて説明するジーカス大使(右、コナミデジタルエンタテインメント提供)

目的地を目指す道すがら、他のバルト三国のエストニアやラトビアの駅にも触れながら、この地域の特産や文化について紹介していた。

トンガ ~農水産業が盛んな島国~

がらりと雰囲気が変わり、ポリネシアにあるトンガは対馬とほぼ同じ720平方キロメートルの海洋国家だ。1970年にイギリス連邦内の独立国となり、現在はトンガ王国(Kingdom of Tonga)として立憲君主制を敷いている。人口は10万人強で、日本には2023年6月末時点で182人が居住。その半分弱の70人が在留資格「留学」、大分県にある立命館アジア太平洋大学などに通う留学生だ。

自身も日本への留学経験を持つトンガのテビタ・スカ・マンギシ駐日大使は昨年11月に桃鉄の最新版を体験。目的地となったトンガの首都ヌクアロファの駅ではカボチャ、ココナッツ、バニラの畑といった物件が買える。

ヌクアロファ駅への到着シーン
ヌクアロファ駅への到着シーン

大使はトンガのあちこちで見られるココナッツ畑に触れつつ、「バニラもカボチャも現地の人より日本への輸出目的で作っている」といった経緯を解説した。試遊後は「日本の子どもたちに太平洋にある国々について学んでもらえるのはとても光栄」と桃鉄による学習効果に期待した。

桃鉄のヌクアロファ駅で買える物件
桃鉄のヌクアロファ駅で買える物件

ゲーミフィケーションの草分け

マンギシ大使の発言通り、桃鉄は地理や各地の特産品を遊びながら学べるゲームとして定着して久しい。ゲーミフィケーションの走りと言っても過言ではない。

ファミリーコンピュータでシリーズ第一弾が登場した1988年から36年、テレビとゲーム機をつないで家などに集まってワイワイ楽しむスタイルは過去のものとなりつつあり、プレイする形態はデバイスの進化に伴って多様化している。最近はオンラインで日本中、世界中の人と対戦、交流しながら地理を学べるようになっている。

まさにそうした学習的な色合いを強めた『桃太郎電鉄 教育版Lite ~日本っておもしろい!~』も昨年リリース。PCのブラウザなどで利用でき、インターフェイスもキーボードやタッチパネルに対応する。

東京大学大学院情報学環と提供元のコナミデジタルエンタテインメントが、このゲームの教育的価値評価に関する共同研究を今年4月に始めるなど、桃鉄は単なるゲームの枠にとどまらず、教育や異文化理解など多方面で活用の場を広げていきそうだ。

(明示のない写真は筆者撮影)

記者

執筆テーマはAIやBMIのICT、移民・外国人、エネルギー。 未来を探究する学問"未来学"(Futures Studies)の国際NGO世界未来学連盟(WFSF)日本支部創設、現在電気通信大学大学院情報理工学研究科で2050年以降の世界について研究。東京外国語大学ペルシア語学科卒、元共同通信記者。 主著『生成AIの常識』(ソシム)、今年度刊行予定『未来学の世界(仮)』、『エネルギー業界大研究』、『電子部品業界大研究』、『AI・5G・IC業界大研究』(産学社)、訳書『Futures Thinking Playbook』。新潟出身。ryuta373rm[at]yahoo.co.jp

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