「大麻グミ」はどのように「危険」なのか:「半合成」という製造法が問題か
大麻成分が入ったグミ、いわゆる「大麻グミ」を食べた人の健康被害の事例が多く発覚し、話題になっている。米国でも同様の事例が起きているが、いったい何が問題なのだろうか。
厚労相が規制に言及
2023年10月頃から大麻化学成分のHHCH(ヘキサヒドロカンナビヘキソール、Hexahydrocannabihexol)が入った「大麻グミ」を食べた後に気分が悪くなって嘔吐するなどの健康被害を訴える人が多く出ている。中には治療が必要なケースもあったという。
2023年11月17日、武見敬三厚生労働大臣は会見で「大麻グミ」に関し、
と述べた。厚生労働省は、11月21日にHHCHを危険ドラッグに指定し、禁止措置を12月2日より実施する。
大麻には100種類以上の成分が含まれているが、その中ではTHC(デルタ-9-テトラヒドロカンナビノール)とCBD(カンナビジオール)、CBN(カンナビノール)の3種類が主な成分だ。THCには強い向精神作用と依存性があるとされ、CBDとCBNについては、薬理作用があるが安全性についてまだはっきりしたことはわかっていない。
日本の法律では、THCは麻薬及び向精神薬取締法などによって規制対象だが、CBDとCBNについては食用などに認められ、CBD入りのオイルやグミ、電子タバコのリキッドなどが販売されている。また、日本の国会では、CBDの医療目的での使用を可能にする大麻取締法の改正などが議論されている。
多種多様な合成化学物質が
では、今回の「大麻グミ」に入っていたHHCH(ヘキサヒドロカンナビヘキソール)とは何だろうか。
THCやCBDは、酸化するとCBNに、水素化するとHHC(ヘキサヒドロカンナビノール)やTHCH(テトラヒドロカンナビヘキソール)に、あるいは酢酸エステル化するとTHCO(テトラヒドロカンナビノールアセテート)になるなど、自然に変化したり人工的に合成(半合成=天然由来の材料を使った化学合成)して化学式を変えることでその機能性も変わる。
期待する大麻成分を自然状態の大麻から得ようとしても微量なので、市場を形成させられるような製品にはならない。そのため、THCやCBDから化学的に半合成して大量生産するようになった。
だが、天然由来の材料を使う半合成では、どうしても混在してしまうTHC成分の影響で、脳内のカンナビノイド受容体を刺激し、快感や幻覚といった向精神作用などの神経への悪影響があらわれる製品ができてしまう。特に、これらが酢酸エステル化されている場合、アルコール溶剤と一緒に保存するとTHC成分が生成される危険性がある。
こうした合成カンナビノイドは、その多種多様な化学物質のため、絶えず新たな化合物があらわれている。そのため、日本では当初、THCのみが違法だったが、厚生労働省は2022年3月7日にHHC(ヘキサヒドロカンナビノール)を、2023年3月10日にTHCOとHHCO(ヘキサヒドロカンナビノールアセテート)を、2023年7月25日にTHCH(テトラヒドロカンナビヘキソール)を、それぞれ危険ドラッグとして指定薬物にして規制対象にしたように、化学式を変更した新たな半合成大麻製品が出てきては規制されるようなことになっている。
HHCHとは
これまで、こうした規制がまだ及ばなかったのがHHCH(ヘキサヒドロカンナビヘキソール)だ。そのため、グミ、クッキー、化粧品などに含有させ、今回のような事故が起きたということになる。
HHCHは、HHC(ヘキサヒドロカンナビノール)を水素化して作られる合成カンナビノイドだが、そのHHCもTHCを水素化した半合成で作られる。まだ、警察や厚生労働省などの検査機関による詳細な分析は出ていないが、こうした合成過程からHHCHにもおおもとのTHCの成分が残っている危険性は高い。
米国のFDA(食品医薬品局)は、THC製品に関し、報告された有害事象の55%が入院が必要な治療を受けたとし、それらの有害事象には幻覚、嘔吐、震え、不安、めまい、錯乱、意識喪失などがあったという。
また、2023年9月6日には日本の国民生活センターもHHCHと化学式が近いTHCH(テトラヒドロカンナビヘキソール)入りのグミを食べた後に気分が悪くなって幻視症状を訴えて救急搬送されたり、THCHカプセルを飲んだ後、2日間、意識不明になって集中治療室で治療を受けたなどの事例を紹介している。
そのため、厚生労働省では今後、THCと似たような成分や化学式の合成カンナビノイドを総括的に規制することを視野に入れて議論を進めるようだ。
大麻のTHCの作用
THCの脳への作用では大麻を使用した急性の影響として、情動反応をつかさどる中脳辺縁系から抑制や報酬に関する脳内物質(ドーパミン、GABA、グルタミン酸など)が放出される。
また、脳の海馬や前頭前野などでアセチルコリン、GABAの放出が少なくなったり、グルタミン酸やノルアドレナリンの放出が増えるため、記憶や注意力などの認知機能の混乱が起きる。
扁桃体、視床下部など、脳の一部を破壊するのもTHCの影響とされる。さらに、慢性的な使用によってTHCへの反応が弱くなり、より高頻度、より高濃度の大麻を欲するという依存性が高まる。
こうした作用は、ヘロインや覚せい剤などの依存性薬物とよく似た脳への作用であり、THCを使用することで、言語学習、記憶、注意力などの認知機能を損なうという多くの証拠がある。
大麻(THC)の慢性的な使用は精神疾患のリスクを約2倍に高めるという研究もあり、大麻が特に思春期の脳に悪影響を及ぼすのはあきらかだろう。
脳機能や精神への悪影響だけではない。大麻は遺伝子の後天的な変異に影響して男性の不妊症の原因になり、免疫不全を引き起こして感染症などへのリスクを高める。さらに、娯楽用の大麻を使用すると自動車事故のリスクが約2倍になり、自殺のリスクを高めることも示唆されている。
大麻の使用は、依存性と精神や身体的な悪影響のより強い違法薬物へのゲートウェイ(入り口)になることも知られている。また逆に、大麻の使用によってタバコを始め、ニコチン依存症になることもある。これはTHCリキッドを乾燥した草に塗って吸うという方法が多いからだろう。
正しく怖がる
未成年者や若年層の違法大麻所持などによる摘発が多発し、すでに覚醒剤の摘発数を超えた。ネットを利用する提供手段が増え、誰もが大麻を手に入れやすくなっていることもあるが、大麻は有害性が低いという間違った知識が背景にある。また、欧米で大麻合法化の流れがあり、大麻に対する違法意識が低くなっているようだ。
まだ、THCに関して、従来の合法薬物ほど科学的、医学的な研究が進んでいない。そのため、今後は特に未成年者や妊婦、高齢者、社会的弱者などに対し、毒性や潜在的なデメリットといった脳や身体への作用や影響を明らかにする必要がある。
依存性薬物では、使用者が増えてしまうと規制にコストがかかるようになり、それが健康被害を出すものなら将来的に社会の大きな負担になる。使用者が増える前にしっかり規制し、正しく怖がることが重要だ。
医療用大麻の研究は急務だが、安全性の検証をおろそかにしたまま、大麻系製品の使用者が増え続けていくことは避けなければならない。
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