レズビアンのタレント、牧村朝子さんと対談「フランスの反同性婚デモの実態と、日本における同性婚の議論」
レズビアンのタレントで同性パートナーと一緒にフランスで暮らしている牧村朝子と、ゲイの活動家でいじめ自殺未遂経験者の明智カイト。全く異なる人生を歩む二人が日本とフランスのLGBT事情について語り合います。
●過去の記事はこちらをご覧ください
レズビアンのタレント、牧村朝子さんと対談「日本とフランスのLGBT事情について」
レズビアンのタレント、牧村朝子さんと対談「フランス同性婚法制化の舞台裏について熱く語ります」
レズビアンのタレント、牧村朝子さんと対談「同性愛者が考える日本の家族政策の今」
レズビアンのタレント、牧村朝子さんと対談「“キャラ化”されるLGBT〜いじめ実態調査から考える」
「反同性婚」以外のテーマで人集めが行われたフランスのデモ
明智 フランスでは2013年に同性婚が法制化されましたが、その成立を巡ってはかなり大規模な反対デモが行われました。日本においても成立の前後はかなり報道されていましたが、最近ではあまり報道がされていないようですね。
しかし実際には、2014年10月にもレズビアンカップルの生殖補助医療や代理出産に対する反対デモが行われたりしています。牧村さんは、これらのデモについてどのような感想を持ちましたか?
▼2014年10月のデモに関する記事はこちら
「仏で『伝統的価値観』支持デモ、同性愛者の代理出産などに反対」
牧村 そうですね、法制化の前後は結構な規模でデモが行われていました。多い時には数十万人集めていたものもあったみたいです。デモに限らず、カフェや電車の中なんかで議論をしている人たちもよく見かけました。ポスターや落書きでも張り合ってましたね。道路上に塗料のスプレーで「同性婚なんて、要らない!」って書かれていたのが、次の日には「同性婚、要る!」って書き変えられたりとか(笑)
そんなデモですが、日本であまり報道されていない理由の一つとして、デモ組織の主張の多角化というものが挙げられると思います。簡単に言うと、主張がごちゃごちゃしてしまって何を言っているのか分からなくなり、報道しづらくなったんだと思います。
こういった、団体としての政治活動って往々にして主張が多様化していくんですよね。その典型的な例だと言えると思います。たしかに、2013年には「反同性婚」というものをテーマに掲げていたものの、それだけではやっぱり人は集まらないんですよね。
だから、「反同性婚」以外にもさまざまなテーマで人集めが行われました。例えば「同性婚の前にまず失業対策をしろ!」とか「同性婚もそうだけど、そもそもオランド(*1)に反対!」とかね。もう意味ワカンナイでしょ?(笑)
- 1:当時のフランス大統領。現職。2012年に「同性婚法制化」を公約に掲げ当選。
明智 とりあえず人を集めることには成功したんですよね。数十万人ってすごい・・・。
牧村 しかし逆を言うと、それ自体が「目的」になってしまったところもあると思います。特に「みんなのためのデモ」っていう組織があってね。あ、この名称は法案の愛称である「みんなのための結婚」を皮肉っているんだけど(笑)
デモ参加者の中には、「アメリカの価値観である同性婚を輸入するなんてけしからん!」「同性愛者はセックスのことしか考えていない変態だ。養子をとって性的虐待するから、そんな奴らの結婚を認めたら子どもが危ない!」みたいなことを言っている人までいるんですよ。
こういった人たちはもちろん一部で、メディアが面白半分に報道しているのもいけないんでしょうけど、そんな風に冗談みたいに報道される時点で、どれだけ無目的に人集めに走ってしまったが知れるんじゃないかしら。
同性愛者かどうかに関係なく一人一人が議論したことに意味がある
明智 まあ日本では、そもそもデモに参加しないですからね。諦めてしまっている人が多いと感じています。自分一人がデモに参加しても、投票に行っても、政治は何も変わらないじゃないか、という意識が広く蔓延してしまっている気がします。
牧村 そういう意味で言うと、フランスは自分の意見を言っても良い、それによって変わるものがある、ということが信じられている社会ですね。極端に言えば、5人くらいでデモをやっていてもそこに何らかの意味が見出されるくらいポピュラー。だから、今回の「反同性婚」に限らず、あらゆる政治テーマでデモが行われます。
でも一方で、悪い意味でデモが一種のイベント化してしまっていることも否めません。何も考えずに参加しているだけの人ももちろんいます。「反◯◯デモ」だと、何かに賛同するよりも「自分で考えてる感」が強いので、強い自己満足が得られるんですよね。
だから、今回のデモについても、「反同性婚」だから特別多くの人が集まったというわけでもないし、全員が全員真剣に考えて参加したわけでもない。さっき触れたように、母体となる組織自体の主張もブレブレですからね。
とはいえ、まるっきり意味が無かったとも思っていません。実際に同性婚法案が議論されている間も、フランス国民は同性婚を「同性愛者のこと」と切り離さず「フランス社会のこと」として向き合っていました。同性愛者でも反対派はいたし、同性愛者でなくても賛成派はいた。同性愛者かどうかに関係なく、フランス社会をなす一人一人が議論できていたことはとても意味のあることだと思います。
明智 なるほど。デモうんぬんの話もそうですけど、やっぱり一人一人が自分事として引き寄せて考えることができたというのは大きいですね。
日本でも「同性婚」に関して国民的な議論が必要
明智 最近になって東京都渋谷区が同性カップルに対して「結婚に相当する関係」を認める証明書を発行する条例案の提出を決めたり、国会で同性カップルの婚姻を容認する観点から、憲法24条の改正を検討するよう提起したりといろいろな動きがあります。
しかし、日本では賛成か反対かという話以前に、そもそもこれまで政治の世界では「同性婚」というテーマが議論になることがあまりありませんでした。
牧村 それって何でなんですかね?
明智 実はこれって構造的な問題なんですよね。私は普段「同性婚」という言葉を使わずに「パートナーシップ」という言葉を使っているんですけれど、そのことと深く関係しています。
日本で「同性婚」というと、さまざまな立場から批判がきてしまうんです。まず左派は、そもそも婚姻制度自体に反対している人が多いのです。また、婚姻は憲法で規定されている事柄で、憲法第24条に「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。」というのがあります。
「同性婚」という言葉で議論をしてしまうと、この条文の「両性」というのが「男女」を指しているのか、それとも「男男」「女女」も含まれるのか、という話になってくるので、憲法の議論にもなってきます。すると、「人権は守りたいけれど、憲法の議論はしたくない」という政治的矛盾にぶち当たってしまいます。
牧村 へえー、おもしろいですね。
明智 一方で保守派は、伝統的な家族観を壊したくないので、「同性婚」という形には反対します。なので、私はとりあえず議論を進めることができるように、あえて「パートナーシップ」という言葉を使っています。
「同性婚」と言ってしまうと、どうしても政治的なイデオロギー闘争に巻き込まれてしまうので、そこのジレンマが日本で「同性婚」の議論が進まない大きな要因になっていると思います。日本では官僚も政治家も、賛成/反対に関わらず、「同性婚」というものを話題にすることがそもそもできないというわけです。
牧村 なんだか面倒臭いけど、妙に納得しちゃいました。私自身、日本で「同性婚」の議論が進まないのは、「関心が無いから」「必要とされていないから」みたいな感情論的な理由なのかなと思ってましたけど、こんな理由があるだなんてとても勉強になりました。
明智 たしかに無関心というのも一理ありますね。でも、そろそろ日本においても「同性婚」に関して国民的な議論が必要な時期にきていると思います。
--------------------------------
牧村朝子
【ブログ】
【プロフィール】
1987年生まれ。2010年、ミス日本ファイナリスト選出をきっかけに、杉本彩が代表を務める芸能事務所「オフィス彩」に所属。フランス人女性とフランスでの結婚生活を送りながら、人間の性のあり方について各種媒体に執筆・出演を続けている。著書「百合のリアル」(星海社新書)ほか。