Yahoo!ニュース

体罰禁止の法改正と「こども家庭庁」創設の意義

明智カイト『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事
超党派「児童虐待から子どもを守る議員の会」に署名を手交(提供:高祖 常子氏)

今回は編集・執筆を続けながら働き方、子育て、子ども虐待防止、家族の笑顔を増やすための講演活動を全国で行っている子育てアドバイザーの高祖 常子さんより、なぜ体罰禁止の法改正が必要だったのか、法改正の経緯や活動についてお話を伺います。

明智 では、まず自己紹介をお願いします。

高祖 NPO法人児童虐待防止全国ネットワークの理事をしています。あと、パパも子育てということで、NPO法人ファザーリング・ジャパンの理事をしていたりとか、あとはその中でマザーリングプロジェクトというママたちのエンパワーメントのプロジェクトリーダーをしていたりとか、さまざまなところに足を突っ込みながら活動しています。

今回の話が絡むところでは厚生労働省「体罰等によらない子育ての推進に関する検討会」構成員(2021年度)や、内閣官房こども家庭庁設立準備室「就学前のこどもの育ちに係る基本的な指針に関する有識者懇談会」委員(2022年度)を務めました。あとは、Yahoo!ニュースの公式コメンテーターもしています。

明智 なぜ体罰禁止や、児童福祉といった子育ての分野で関わるようになったのか教えていただけますか。

高祖 もともと私はリクルートに勤めていました。リクルートって私がいた時代は夜中まで働く会社だったのですが、夫と社内結婚して子どもが産まれるということになって、2人とも夜中までっていうわけにはいかないので、私は辞めてフリーになりました。

リクルートでは編集の仕事をしていたので、フリーになっても編集の仕事を続けていたのですが、子どもが生まれたということもあって育児誌の編集をしたいなと思って、『たまごクラブ』、『ひよこクラブ』などの育児誌の編集に携わることになりました。その後、「こそだて」というインターネットの子育てサイトを立ち上げました。子育て関係の原稿執筆や情報発信、講師などをするようになり、それがきっかけでオレンジリボン運動のNPOを手伝って欲しいというお声掛けをいただき、虐待防止の活動をすることになりました。

明智 体罰禁止の法改正に向けてどのような取り組みをされてきましたか?

高祖 これまでNPO法人児童虐待防止全国ネットワークや、毎年11月の「児童虐待防止推進月間」などで虐待防止の呼び掛けを行ってきました。でも、そもそも虐待自体が起こらないような社会になっていったらいいなというふうに思って、「子どもへの向き合い方」「叩かないどならない子育て」と言うような感じでさまざまなところでお話ししてきました。虐待というのはイライラが暴力になり、さらにそれがエスカレートして子どもの命を奪っているというところが問題です。大本のところで子どもを叩いたり怒鳴ったりしたりしないで育てていこうと、子どもへの向き合い方を変えることが大事だと考えています。

しかし、2018年に目黒区の5歳女児、船戸結愛ちゃんの虐待死事件が連日報道されました。それは平仮名で反省文を書いたということですごくインパクトがあり、印象にまだ残っている方もいると思います。

さらにその翌年の2019年1月には、千葉県の野田市で小学4年栗原心愛さんが学校のアンケートで、「お父さんに暴力を受けています。(中略)先生、どうにかできませんか。」と訴えました。それなのに、父親が「アンケートを見せろ」と言ったりなどいろいろなことがあった中で、またひどい虐待を受けて命を落としたということもありました。

両方の事件の親もそうですし、虐待死が起こるとほぼ全ての親が「しつけのためだった」っていうふうに言うんですね。なので、やっぱりここは本当に日本統一の意識として変えていかなきゃいけないと考えたんです。

そこで、心愛さんの虐待死があった翌月にインターネットの署名サイトを立ち上げました。10日間ぐらいで2万人の署名が集まり、超党派議連「児童虐待から子どもを守る議員の会」に手交にいったり、他にも内閣府、厚労省、文科省、法務省、自民党の「児童の養護と未来を考える議員連盟」それぞれに署名を渡しに行きました。

その後、国会にかけられ体罰禁止の法的明記は、満場可決となりました。もちろん署名だけの力ではありませんが、署名も後押しになったと聞きうれしく思いました。詳しい経過は以下の通りです。

体罰禁止明記、国会提出までの経過(提供:高祖 常子氏のパワポ資料より)
体罰禁止明記、国会提出までの経過(提供:高祖 常子氏のパワポ資料より)

明智 「こども家庭庁」や「こども基本法」についてどのように評価されていますか?

高祖 みなさんもご存じのとおり、一番はじめは「こども庁」っていうところで話が進んでいましたが、「こども家庭庁」にするというような議論にもなって、なんで「家庭」って入れるのかともやっとした方も多いと思います。要は虐待とかを受けた当事者の人からしてみると、まずは子どもだろうと。家庭っていうところに対して、ちょっと嫌悪感を持ってる人もいたということは多分あったと思うんですよね。なので、「こども家庭庁なら要らない」みたいな、ハッシュタグ付ける感じで一瞬そんな方向になりそうな空気感もありました。

いろいろな想いはありますが、ただやっぱりここは本当に0か100かの議論じゃなくて、そもそも日本の省庁の中で「こども」と付く省庁ができること自体がやっぱり画期的なことだと思っています。最初はちょっといろいろ整っていないところもあるかもしれないけれども、「こども」と名称につく省庁ができることで、子どものことを横断的に考えていくことができるのはすごく必要だと思っています。

そしてもう一つは、「こども家庭庁」がスタートするにあたって、「こども基本法」も一緒にスタートするということです。「こども基本法」と「こども家庭庁」の考え方は、「子どもの権利」を一番のベースにしていることが重要です。

子どもの権利条約とは?(提供:ユニセフのサイトなどを参考に高祖 常子氏が作成)
子どもの権利条約とは?(提供:ユニセフのサイトなどを参考に高祖 常子氏が作成)

最近も言われているブラック校則ももちろんそうですね。そして子どもだから叩いたり、怒鳴りつけてしつけなきゃいけないっていう考え方は、そもそもやっぱり体罰の話ともリンクしてきますが、「子どもの権利」の中の生きる権利とか守られる権利とか、そのような権利の侵害にもなるわけです。

子どもの権利条約をベースにした「こども基本法」とその考え方に立つ庁がスタートすることがとても重要です。こども家庭庁の設立の設置法には、「自立した個人」、「子どもの意見を尊重」、「最善の利益を優先」などの言葉が並んでいます。そこがしっかり書き込まれたということがすごく大事です。

「こども基本法」「こども家庭庁」がスタートするとは、本当に日本の中で子ども自身の存在だったり、大人の子どもへの向き合い方だったりが大きく変わる契機になると思っています。私はとても期待しています。

明智 では、最後に今後の課題など、目標などありましたらお願いします。

高祖 「こども家庭庁」が今年4月からスタートしていくにあたり、子どもの意見を聞いていこうっていうことが少しずつ国でも始まっています。大臣が子どもたちとミーティングしたり、自治体でも子どもの意見を聞くようにというような通達も出されているようです。そのような取り組みもこども家庭庁がスタートすると、だんだんと整っていったり、いろいろ軌道修正されていくと思っています。

今まで少子化だ、少子化だと言われながら、なかなか子育てしやすい環境が実現してこなかった。ですが、子育てしやすい環境醸成や、子どもたちが生き生きできる環境づくりみたいなところも含めて、今度の4月を皮切りに変わっていったらと思っています。そのために何かしら少しでもお役に立てるようなことがあれば動いていきたいと思っています。

『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事

定期的な勉強会の開催などを通して市民セクターのロビイングへの参加促進、ロビイストの認知拡大と地位向上、アドボカシーの体系化を目指して活動している。「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」を立ち上げて、「いじめ対策」「自殺対策」などのロビー活動を行ってきた。著書に『誰でもできるロビイング入門 社会を変える技術』(光文社新書)。日本政策学校の講師、NPO法人「ストップいじめ!ナビ」メンバー、などを務めている。

明智カイトの最近の記事