レズビアンのタレント、牧村朝子さんと対談「フランス同性婚法制化の舞台裏について熱く語り合います」
レズビアンのタレントで同性パートナーと一緒にフランスで暮らしている牧村朝子と、ゲイの活動家でいじめ自殺未遂経験者の明智カイト。全く異なる人生を歩む二人が日本とフランスのLGBT事情について語り合います。
●前回の記事はこちらをご覧ください。
レズビアンのタレント、牧村朝子さんと対談「日本とフランスのLGBT事情について」
フランスでの婦妻生活について
「幸せです。」
明智 実際にフランスで暮らしてみてどうですか?
牧村 幸せです。
フランスで暮らしていると、自分がセクシュアル・マイノリティだと意識させられることがないのね。フランスの法律で同性結婚していますから、たとえば住宅ローンも妻と二人で組めます。
他にも、妻が病院に行くときの付き添いから、中古物件の内見でよそのお宅を訪ねるときまで、どんなときであっても、レズビアンだからと特別に気を使って振る舞うことがないんです。相手も、私たちもね。
ただ、私たちは男女カップルのような見た目なので、比較的馴染みやすいのかもしれませんね。「フランスは同性愛に寛容」と単純に言い切ることはできません。たとえば、パリで腕を組んで歩いていた男性同士が暴行されたり、ロレーヌ地方で十代の女の子カップルが水を浴びせられたりなどと、同性愛嫌悪が理由の暴力事件は複数起こっているんですよ。
明智 フランスで暮らしていて嫌な思いをしたことはありますか?
牧村 そうですね。通行人に突然「おまえら今の時代に生まれてきて良かったな。昔なら殺されていたぞ」と言われたことがありました。でもそこで妻は「ええ、今の時代で良かったです」ってサラリと言い返したの。素敵だったわぁ。
なにはともあれ、フランスではセクシュアリティに関する制度的な不平等を感じません。LGBTを中傷する人もいますが、フランスでは法によってヘイトスピーチを禁止しています。
1881年の「出版の自由に関する法」と、1972年の「人種差別撲滅法」によって、出身地・民族・国籍・人種・宗教・性別・性的指向を理由にした差別は軽犯罪と規定されています。公共の場であろうと私的な場でなされた発言であろうと、4万5000ユーロの罰金、あるいは最高1年の禁固刑に処せられます。
同性婚はフランス社会全体が議論して法制化した
明智 では次にフランスの「PACS(民事連帯契約)」や、同性婚の話をお聞きしたいと思います。フランスで同性婚が成立した背景について教えてください。
牧村 フランスではもともと1999年に成立した「PACS(民事連帯契約)」がありました。これは「共同生活を送る二名の契約で、相続権や税控除等が認められる」という、いわば準結婚。現在では利用者の約9割が異性カップルですが、当時革新的だったのは「同性間でも利用できる」ということでした。
2012年には、65%のフランス国民が同性婚法制化に賛成しています(出典:BFMTV http://rmc.bfmtv.com/info/290124/65pour-cent-des-francais-favorables-au-mariage-homosexuel/)。これはこの「PACS(民事連帯契約)」があったことが大きいと思います。事実上の同性婚があっても、それが保守派の主張のように、既存の家族の崩壊や社会秩序の変化にはつながらなかったことが証明されたからです。
そして、2012年に社会党候補のオランド大統領が、同性婚法制化を公約にして当選するわけですね。フランスは日本と違い、国民投票で大統領を決めます。つまりは、同性婚を支持する候補に多くのフランス国民が投票したということです。
その後、実際に同性婚法案が議論されている間も、フランス国民は同性婚を「同性愛者のこと」と切り離さず「フランス社会のこと」として向き合っていました。同性愛者でも反対派はいたし、同性愛者でなくても賛成派はいた。同性婚法制化は、同性愛者かどうかに関係なく、フランス社会をなす一人一人が議論した結果だと思っています。
同性婚を巡る対立
明智 実際にフランスでは同性婚を巡ってどのような対立がありましたか?
牧村 市民の間では、反対・賛成どちらも、数千~数十万人単位のデモをやっていましたね。デモに限らず、カフェや電車の中なんかで議論をしている人たちもよく見かけました。ポスターや落書きでも張り合ってましたね。道路上に塗料のスプレーで「同性婚なんて、要らない!」って書かれていたのが、次の日には「同性婚、要る!」って書き変えられたりとか(笑)
もちろん政治の世界でも対立がありました。たとえば同性婚法案のことを、社会党ら同性婚賛成派が「みんなのための結婚(Mariage pour tous)」という愛称で呼んでいたのに対し、国民戦線ら反対派は「トビラ法(Loi Taubira)」と呼んでいました。これは、同性婚法制化に尽力した黒人女性の政治家、クリスチャーヌ・トビラ氏の名をとったものです。
「トビラ法」とはもともと、「かつての奴隷制度はフランスの罪である」と認めた1993年の法律です。奴隷制度の過ちを認める法と同性婚を認める法とをいずれも「トビラ法」と同じ名前で呼ぶことで、反トビラ派や白人至上主義者らを一気に反同性婚の方にもけしかけたわけですね。
他には、国民戦線の党首マリーヌ・ルペン氏が、同性婚への抗議とみられる自殺に「敬意を表する」とコメントして、ツイッターを炎上させたなんてこともありました。
法案成立後の今でも、諦めていない反対派はいますよ。反対デモもありますし。同性婚の書類にサインしたくない自治体長たちが組んで、「同性婚を認めない権利を認めろ」と欧州人権裁判所に訴えたりもしています。
フランスにおけるLGBT支援とは?
明智 フランスではLGBTへの支援はどのようなものがありますか?
牧村 法律に関しては先ほどもお話したように「出版の自由に関する法」と、「人種差別撲滅法」によってヘイトスピーチが禁止されています。雇用差別も禁止です。
施設としては、LGBTセンターというのがあります。LGBT関連書籍の貸し出しや、差別行為を受けた際の無料法律相談などを提供しています。性に限らず、障害・言語・人種・年齢などあらゆる多様性が壁にならない配慮をしていて、例えば筆談や外国語でもカウンセリングを受けることができます。また、LGBTであることを理由に家から追い出された子どもたちのためのシェルターもあります。
でも、そんな施設がいまだに必要とされること自体、残念なんですけれどね……。
フランス社会が誇れるのは、LGBTへの支援でも、制度でもありません。ただ、LGBTに関連する法案を、政治家でない人もLGBTでない人も含め一人一人が「自分たちの社会のことだから」と受け止めて議論やデモに及んだ、この“他人事扱いしない態度”こそが、フランス社会の良さなんだと思います。
明智 ありがとうございました。フランスでは「PACS(民事連帯契約)」や、同性婚があって羨ましいと思っていたのですが、その背景には様々な対立や争いがあったのですね。
この日本においても同性婚の法整備を進めるのであれば政治的な対立を生み、さらには市民同士でも対立を生むということが起きるかもしれません。フランスのように日本でも同性愛者が暴力や襲撃に遭う危険もあります。同性婚を望む人には、そのような対立や争いから真正面と向き合う「覚悟」が問われていると思いました。
牧村 まあ、同性婚うんぬん関係なく暴力は普通に犯罪なので、そんなものを受け止める覚悟なんてしなくていいですけど。対立する覚悟より対話する姿勢だと、私としては思っていますよ。反対派・賛成派問わずね。
明智 そうですね、対話がなければまとまるものもまとまりませんしね。フランスでは同性婚賛成派と反対派がきちんと議論したうえで法制化されています。日本でも同性婚賛成派と反対派がきちんと議論できる環境が必要です。またフランスでは制度面はじめLGBT支援が充実していると思いました。日本でもぜひLGBT支援を充実させるうえで参考にして欲しいです。(つづく)
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牧村朝子
【ブログ】
【プロフィール】
1987年生まれ。2010年、ミス日本ファイナリスト選出をきっかけに、杉本彩が代表を務める芸能事務所「オフィス彩」に所属。フランス人女性とパリでの結婚生活を送りながら、人間の性のあり方について各種媒体に執筆・出演を続けている。著書「百合のリアル」(星海社新書)。