秋の水辺のカマキリの自殺願望=脳をコントロールする寄生虫の恐怖
秋になると、なぜか水路脇の金網などでカマキリの姿を見ることが多くなる。不思議な光景だが、このカマキリたち(なぜかハラビロカマキリが多い)のほぼほぼ全部が入水自殺を考えているという、恐ろしい事実を知る者は少ない。
金網につかまっていたら、餌のバッタや蝶を捕まえることはできない。それなのになぜ、カマキリたちはそこに居るのか。カマキリたちは、水に飛び込みたくてたまらないのだ。本来水浴びなどしないカマキリがなぜ、水を恋しがるのか。それはハリガネムシという寄生虫によって思考回路を書き換えられてしまったからだ。
ハリガネムシは基本的には水生生物なのだが、なぜか活発な成長期を陸上の肉食昆虫の腹の中で過ごす。
ハリガネムシの一生は次のような過程をたどる。水中で交尾→水中で産卵→孵化後の小さな幼生が、水の中で暮らすユスリカ、カゲロウなどの幼虫に食べられ、その消化管内で休眠→ユスリカ、カゲロウなどが大量に羽化し地上に拡散→ユスリカ、カゲロウがカマキリ、カマドウマなどの肉食昆虫に捕食される→肉食昆虫の消化管の中でハリガネムシの幼生が目覚め、2、3カ月かけて大きく成長する。
ここで問題になるのが、どうやって陸上の肉食昆虫の体内から水中に移動するかだ。その方法は、カマキリなどの脳をコントロールして入水自殺させるという信じがたいものだ。
水に飛び込んだカマキリのお尻から、まさに針金のようなハリガネムシが脱出し、本来の水中生活に戻っていくのである。
その後のカマキリは大型の魚に食べられたり、溺れ死んだりするのだろう。岸に這い上がれたとしても、脳が変になっているので、また水に飛び込むのかもしれない。
そんなカマキリを毎年昆虫記者は救出している。水辺のカマキリを捕まえて、腹を圧迫すると、危険を感じたハリガネムシが尻穴から出てくる。ハリガネムシは水中に、カマキリは草原に放してやると、何だか良いことをした気分になる。その後カマキリが再び入水自殺を図っても、それは昆虫記者の知ったことではない。