NHKはテキストニュースを縮小するのになぜ受信料を値下げしないのか
NHKプラスの単独契約が可能になるが、テキストニュースは縮小する
3月1日、放送法改正が国会に提出され「ネット配信がNHKの必須業務になる」とニュースになった。「スマホからも受信料を取るのか?」と誤解も呼んだが、各ニュースの本文を読むと「スマホを持っているだけでは支払い義務は発生しない」と書かれているので慌てる必要はない。
そして今回の放送法改正により、NHKはテキストニュースを縮小することが事実上決まる。そのことはあまり知られていないだろう。
NHKのネット業務はこれまで「任意業務」に分類されていたが、今回の放送法改正で「必須業務」となり、放送と同じポジションの「取り組まねばならない業務」となる。これにより、ネットで放送を同時に視聴できる「NHKプラス」が受信料の対象になる。放送で受信料を払っている人は追加料金はかからないが、テレビを持ってない人がNHKプラスを使いたければネットでの受信料契約が必要になるわけだ。
一方、NHKはこれまで「NEWS WEB」をはじめ「政治マガジン」「取材ノート」などテキストでも様々なニュースを配信していたが、これらは「番組と密接に関連があり、番組の編集上、必要な資料に限定する」ことになりほとんどが閉鎖されるようだ。
NHKプラスは受信料の対象になるが、テキストニュースについては受信料を取るのではなく、縮小するというのは、おかしなことではないだろうか。ネット展開が「必須業務」になるのだから、テキストニュースも料金を取るならわかるが、縮小するのは奇妙だ。
受信料を払う身からすると、NHKプラスはいままは今まで通り使えるが、テキストニュースはこれまで読めていたのになくなるというのだ。これでは必須どころかサービスの後退だ。
この問題は、昨年5月の総務省有識者会議「公共放送ワーキンググループ」でのNHK上層部によるプレゼンに端を発し、筆者はその後の情報を追ってきた。その結果、2つのことが原因になっていると考えている。
1)昨年春に代わったNHK上層部が「ネットは放送と同一でいい」と軽視していること
2)新聞業界がNHKのテキストニュースは「民業圧迫」にあたるとして強い圧力をかけてきたこと
具体的な経緯と背景は、一番最後に私の記事や配信した動画を列挙するので参考されたい。ここではさらに別の主張を書いていく。
衛星放送をやめて値下げしたなら、テキストニュース縮小でも値下げしないのか
テキストニュース縮小でまず問題にしたいのは、受信料との関係だ。
NHKは昨年、受信料を大きく値下げした。2021〜2023年度の経営計画の中で「スリムなNHK」を目指すとし、3波あった衛星放送を2波にまとめると発表した。それが昨年12月に実現したことは周知の通りだ。
2022年10月に、衛星波のうち1波の停止と受信料の1割の値下げを発表し、経営計画を修正している。「放送波の整理削減とともに大幅な支出削減」を行いスリム化を図ったわけで、衛星放送停波と受信料値下げが関係しているのは明らかだ。
だったら、今回の放送法改正でテキストニュースを縮小するのだから、再び受信料を値下げすべきではないだろうか。
先述の通り、いま読めるニュースがなくなるというのだ。「政治マガジン」は放送だけでは伝わらない政治情報を文字で読めると評価する人は多い。「取材ノート」は記者の個人的な思いも伝わりニュースが深く伝わる。世の中を知る貴重な情報源だ。閉鎖の噂が出ているのはこの2つ以外に「国際ニュースナビ」「サクサク経済Q&A「サイカル」「アスリート×ことば」などがあり、それぞれ各分野では欠かせないサイトだと思う。固定的な読者がついているはずだ。国民の受信料で成り立つNHKのサイトなのだから、国民の資産の喪失とも言える。
だったら受信料を下げてもらわないと、払ってる側からすると帳尻が合わない。
衛星放送停波はあれだけ告知したのに、テキストニュース縮小はこっそり?
しかもテキストニュースの閉鎖は放送法改正の議決を経てではなくすでに作業が進んでおり、近いうちに実施されるとの噂が伝わってきた。これもおかしなことではないか。
昨年12月の衛星放送停波にあたっては、何ヶ月も前から衛星放送だけでなく地上波放送でも告知してきた。これまでのBSプレミアムを停波し、新BSとBSプレミアム4Kに整理されること、プレミアムで放送していた人気番組は継続することを、2023年の春から告知活動をしてきた。ポスターなども作って積極的に周知を図っていたと思う。直前には「もうわかった!」と言いたくなるほど、あちこちで告知を目にしたものだ。
テキストニュースの縮小は何ヶ月も先の話ではないとの噂だ。それなのに、目立った告知もないし、内部的にも明確に情報が知らされていないと聞いている。まるでこっそり閉鎖しようとしているみたいだ。
それくらい上層部は重視していないということなのだろう。情報をあまねく人々に届けるはずのNHKが、ネットで接してきた人々を軽く見ているのはおかしい。
公共メディアを目指すはずが「公共放送(メディア)」に後退
NHKは2018-2020年度の経営計画で、一般企業の「パーパス」のように「公共放送から公共メディアを目指す」と宣言した。「インターネットも活用し、正確で迅速なニュースや質の高い多彩な番組をできるだけ多くの人にお届けする」と力強く明言しているのだ。
ところが、最新の2024-2026年度経営計画では「公共メディア」が「公共放送(メディア)」という表記に変わり、「公共メディア」の理念が後退したように見える。
なぜわざわざ(メディア)とカッコ付きにしているのだろう。数年前の宣言を反故にしようというのか。まるで人格が変わってしまったように言うことが変わってしまっている。公共メディアを目指すのをやめて公共放送に後戻りしたがっているとしか思えない。
こんなあやふやな状態で、ネット業務の「必須業務化」を認めてもいいのだろうか。
NHKプラス単独で契約する人はほとんどいないだろう
まあ、別にいいのかもしれない。NHKプラスをテレビを持たない人でも契約できるようにしたところで、それを望む人がたくさんいるとは思えないからだ。筆者はテレビでNHKをよく見るので、NHKプラスは大変便利だ。だがテレビを持たない、つまり日頃NHKをまったく見ない人にとっては、使う理由が見当たらない。
民放の見逃し配信サービスTVerはユーザー数をすごい勢いで伸ばしているが、それは無料だからだ。好きなタレントが出るドラマやバラエティが無料で視聴できるから、テレビを見ない若者が使いたがるのはわかる。もちろん、2015年のスタート以来、民放が団結して、地道に告知の努力を積み重ねてきた成果だ。
NHKプラスの場合、大河ドラマや朝ドラをNetflixのドラマ並みに見たい若者なら使う可能性はあるが、そんな人はテレビを持っているだろう。テレビを持たない人にとっては、大河や朝ドラを見る習慣はなく、テレビがない人でも契約できる今回の放送法改正はほとんど関係ないはずだ。
そういう人にとってこそ、テキストニュースはNHKとの接点になり得るのだが、何しろいまの上層部はそんなネットユーザーの感覚が理解できてない様子なので考えは変わらないだろう。結局、今回のNHKネット展開の必須業務化は、空虚な法改正に終わりそうだ。
参考記事・動画)
「NHKのネット展開」副会長の“謎発言"を読み解く(東洋経済:23年6月13日)
NHKと新聞業界は共に沈んでいくだけかもしれない(Yahoo!ニュースエキスパート23年8月17日)