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本店なのに後からオープン? あの“完熟近江牛”を堪能できる「本店山科」が銀座にできた背景

東龍グルメジャーナリスト
本店山科(ほんてんやましな) (C) 東龍

新スタイルの肉割烹

日本料理と肉料理が融合し、ゲストの目の前で調理する、肉割烹というスタイルが多くなっています。日本料理だけでは肉はあまり使われません。しかし、肉割烹であれば、日本が誇る黒毛和牛も存分に味わうことができるのが魅力。

同じ肉割烹でも色々な業態が存在していますが、また新しいスタイルのお店が登場しました。

「本店山科」のレセプション (C) 東龍
「本店山科」のレセプション (C) 東龍

それは、2022年7月18日銀座にグランドオープンした「本店山科(ほんてんやましな)」。4月18日にソフトオープンしてから、満を持してグランドオープンしたといってよいでしょう。

焼肉割烹

「本店山科」はひとつの店舗の中で、カウンターの鉄板焼割烹と完全個室の焼肉割烹という2つのジャンルを内包したハイブリッド型の肉割烹です。

焼肉割烹 (C) 東龍
焼肉割烹 (C) 東龍

焼肉割烹は、同じく銀座にある姉妹店「銀座山科」で培ったノウハウを生かしながら、日本料理の要素を加えました。各個室に専属の焼き手がつき、それぞれの肉を最適な火入れで焼き上げてくれます。ここでは「焼肉本店コース」(18,000円)のコースだけを提供。

鉄板焼割烹

鉄板焼割烹 (C) 東龍
鉄板焼割烹 (C) 東龍

鉄板焼割烹は、これまでのクラシカルな鉄板焼の形式にとらわれず、鉄板を通して肉割烹が表現されています。ダイナミックなカウンターで腕をふるう料理長は、鉄板焼一筋20年の長田卓氏です。

主役を担う和牛は、40ヵ月以上かけて丁寧に超長期肥育された岡崎牧場産「完熟近江牛」。東京でも片手で数えるほどしか扱うことができず、非常に希少です。食通の間では最高の和牛の一つとの呼び声が高く、その味は秀逸。

鉄板焼でありながらも、フィレやサーロインだけではなく、タン、ハラミ、イチボ、ランプなどの部位も使用。生、焼き、煮ると調理方法もバラエティ豊かです。統括マネージャーの石井謙司氏、サービススタッフの高谷信行氏など、タレンテッドなスタッフが脇を固めます。

用意されているのは3コース。「鉄板本店コース」(15,000円)、「鉄板山科コース」(25,000円)、「鉄板山科特別コース」(27,000円)と、内容も価格帯も異なるので、幅広い層に受け入れられるでしょう。

では、「本店山科」の目玉である鉄板焼割烹の代表的なメニューを紹介していきます。

和牛ウニ寿司

和牛ウニ寿司 (C) 東龍
和牛ウニ寿司 (C) 東龍

和牛の赤身肉と脂が多い肉を半分ずつ使い、細かく切りました。山形の水分が少なめの「つや姫」を用いた赤シャリ、岩手県のムラサキウニ、オシェトラキャビアと合わせています。ムラサキウニの殻を器に用いた躍動感のあるプレゼンテーションも印象的です。静岡県のワサビが添えられているので、好みで載せて。和牛とウニの美味に、赤シャリのまろやかな味わいが一体となった秀抜の冷菜です。

初夏の一皿

初夏の一皿 (C) 東龍
初夏の一皿 (C) 東龍

初夏の旬材を八寸で表現しました。右から順番に紹介しましょう。まずは昆布で赤身肉、ミョウガとショウガを巻いた一品。磯の香りと和牛香の相性もよいです。和牛の西京焼きと賀茂茄子は甘味と旨味が重なった食味。魚のすり身を用いたカステラは、やさしい甘味を携えています。蓮の葉で供された蕪蒸しは、ミスジの力強さと山椒のアクセントが出色です。

厳選極厚タンステーキ

厳選極厚タンステーキ (C) 東龍
厳選極厚タンステーキ (C) 東龍

黒毛和牛のタン元をつかったステーキ。厚みはありますが、もともとやわらかなタン元に適切な火入れがされているので、しなやかでジューシーな仕上がりに。宮崎県の岩塩で味付けし、最後に海塩のマルドンが振られています。そのまま食べるとおいしいですが、もっとさっぱりとさせたければ日向夏をつけるとよいでしょう。長田氏いわく「タンは薄ければさっと焼くのがよいですが、これくらいの厚みがあると一番火入れが難しいですね」

活伊勢海老 炭火焼き

活伊勢海老 (C) 東龍
活伊勢海老 (C) 東龍

活伊勢海老 炭火焼き (C) 東龍
活伊勢海老 炭火焼き (C) 東龍

千葉県産の伊勢海老を炭火焼きにし、薫香を付けています。焼くのに用いた炭を入れた七輪で伊勢海老を提供し、食べる直前に香りを付けるという一工夫も。活伊勢海老ならではの、とろっとした甘味と身の弾力が感じられます。

山科和牛スライダー

山科和牛スライダー (C) 東龍
山科和牛スライダー (C) 東龍

山科和牛スライダー (C) 東龍
山科和牛スライダー (C) 東龍

自家製バンズに、40グラムのパティ、ウズラの卵の目玉焼きをサンドしたスライダー。パティは、挽肉、大きめにカットした近江牛のタン先、フォン・ド・ヴォー、胡椒、卵黄、タマネギで作られており、ゴロっとした力強い肉感があります。長田氏いわく「山科の焼肉の方ではヒレカツサンドが有名です。鉄板焼の方でも何かシグネチャーをと思い、可愛らしいスライダーを考案しました」

近江牛厳選ステーキ

近江牛のトモサンカク (C) 東龍
近江牛のトモサンカク (C) 東龍

近江牛厳選ステーキ (C) 東龍
近江牛厳選ステーキ (C) 東龍

近江牛のトモサンカクをステーキにしました。サシが適度に入っていてコクがあり、しっかりとした歯応えもあります。繊細な火入れで中心はレアに仕上げ、赤身の佳味と脂の口溶け感が出色。ガーリックチップ、ワサビ、生胡椒、タマネギ醤油が添えられているので、味を変えながら食べるとよいでしょう。

特製トリュフオムライス

特製トリュフオムライス (C) 東龍
特製トリュフオムライス (C) 東龍

米はバターと共に炊いて香りを付けました。これに岩手県産の卵を載せ、味噌を隠し味にしたデミグラスソースをかけ、最後にヨーロッパ産のサマートリュフをたっぷりとスライス。バターの香味とデミグラスソースの旨味、卵のまろやかさが一体となったオムライスです。

一口菓子、食後のお飲み物

一口菓子 (C) 東龍
一口菓子 (C) 東龍

ラウンジに転卓してゆっくりと寛げます。4種類の小菓子が提供されました。ブルーチーズのマカロン、クミンが載せられたガトーショコラ、スフレチーズケーキ、シェリー酒のレーズンがトッピングされたバナナのフィナンシェと、バラエティ豊かです。

充実したバックビンテージのワイン

料理はどれも素晴らしいものでしたが、お酒も非常に充実していました。

統括マネージャーの石井氏は「ワインはボルドー、ブルゴーニュ、イタリア、カリフォルニアを中心に、約1,000本を用意しています。1990年代のバックビンテージものも豊富に揃えてあるので、ワイン通の方にも必ずご満足いただけると思います」と自信をもちます。

コラヴァンが使用されているので、ヴィンテージワインもグラスで提供されているのが嬉しいところです。

では、取材時のワインの一例を紹介しましょう。

ユーグ・ゴドメ レ・シャン・サン・マルタン エクストラ・ブリュット 2008 (C) 東龍
ユーグ・ゴドメ レ・シャン・サン・マルタン エクストラ・ブリュット 2008 (C) 東龍

グラスシャンパーニュは自然派の「ユーグ・ゴドメ レ・シャン・サン・マルタン エクストラ・ブリュット 2008」です。ピノ・ノワール100を用いたブラン・ド・ノワールでドサージュ2g/L。辛口で骨格がしっかりとしたヴィンテージシャンパーニュです。クリーミーな泡立ちながらも、和牛やウニの前菜にも負けない力強さがあります。

「クロ・ド・ラ・クレ・ド・セラン 2001」はフランス・ロワール地方・アンジュー・ソミュール地区のシュナン・ブラン100%の白ワイン。ロワール地方の銘醸畑で、明るくてフレッシュな味わいと、熟成による複雑なニュアンスのバランスが出色です。

シャトー・ラ・トゥール・デュ・パン・フィジャック 1989 (C) 東龍
シャトー・ラ・トゥール・デュ・パン・フィジャック 1989 (C) 東龍

「シャトー・ラ・トゥール・デュ・パン・フィジャック 1989」はフランス・ボルドー地方・サン・テミリオン地区のメルロー主体の赤ワイン。エレガントながらも古酒らしい力強さがあり、和牛との華やかなマリアージュをもたらしてくれます。

他にも、富山県富山市東岩瀬町にある桝田酒造店の「満寿泉 貴醸酒」やスペイン・アンダルシア地方の酒精強化ワイン「ボデガス・トロ・アルバーラ ドン・ペー・エキス コンベント セレシオン」といった希少な食後酒も用意。

ワイングラスはハンガリーのワイネックス、オーストリアのリーデル、フランスのシドニオスが使われているので、食味や食感の違いを飲み比べてみましょう。

「本店山科」の魅力

「本店山科」の鉄板焼は、新しい鉄板焼でしたが、どのような背景があったのでしょうか。

同店を運営するeatopiaで代表取締役を務める山科博昭氏は「肉割烹、焼肉、熟成肉のステーキなどの肉業態を拡大する中で次のステージとして『本店山科』では鉄板焼を始めました。 銀座四丁目交差点を望む唯一無二の立地で『本店』の名を冠するこの店はグループのフラッグシップとして必ず皆様に喜んでいただけるお店になると思います」と述べます。

料理長の長田卓氏 (C) 東龍
料理長の長田卓氏 (C) 東龍

これを受けて長田氏は「一般的な鉄板焼ではフィレやサーロインしか使いません。しかし、『本店山科』では焼肉もご提供しているので、カブリやトモサンカクなどの希少部位も使うことができます。これまでの鉄板焼と比べれば、様々な部位が楽しめ、より多くの楽しみが体験できるのではないでしょうか」と魅力を説明。

プレートにもこだわりました。有田焼や瀬戸焼の器が中心で、陶芸作家にリクエストしたオリジナル品ばかり。和牛の赤色と調和する色合いであったり、料理を引き立てる鮮やかな風合いであったりする器を配しています。

「銀座山科」は2019年11月16日にオープンしました。その後にオープンした「本店山科」が“本店”と命名されていることからも、「本店山科」に対する力の入れようが窺えます。

高級業態の肉割烹や鉄板焼が隆盛を極めていますが、「本店山科」のような鉄板焼割烹が登場したことによって、東京の鉄板焼はまた新たなステージを迎えることになったのではないでしょうか。

※全てサービス料別

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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