急務!がんゲノム医療コーディネーターを育成せよ!
■がんゲノム医療を支える「がんゲノム医療コーディネーター」
【平成30年度に設置予定の「がんゲノム医療中核拠点病院」や「がんゲノム医療連携病院」の要件(案)として、遺伝カウンセリング等を行う部門に「患者に遺伝子パネル検査の説明を行ったり、遺伝子パネル検査にて二次的所見が見つかった際に遺伝カウンセリングへつないだりする者を1名以上配置すること」が求められている。平成29年度より厚生労働省が行っている「がんゲノム医療従事者研修事業」にて「がんゲノム医療コーディネーター」を養成する予定であり、これらの施設におけるがんゲノム医療のコーディネーターの養成数は平成29年度は50人程度、平成30年度以降は年間100人程度増えることを見込んでいる。】
(がんゲノム医療中核拠点病院については速報!!!がんゲノム医療中核拠点病院、11施設が決定!を参照して欲しい。)
つまり、がんゲノム医療コーディネーターとは
がんゲノム医療を推進するにあたり、「がん患者や患者の家族に対して、がんゲノム医療について説明をおこなうことや、検査の結果から患者に遺伝カウンセリングが必要な場合に、専門の部署に取り次ぎをおこなう」人材である。
がんゲノム医療コーディネーターは、がんゲノム医療の一連の流れを把握し、患者や患者の家族に正しく説明できなくてはならない。
がんゲノム医療コーディネーターがどのようなことを患者に説明するのかとともに、がんゲノム医療について知っていただきたい。
■なぜ、がんゲノム検査の結果で遺伝カウンセリングが必要になるのか?
それは、がんの原因となっている遺伝子の変異を解析する中で「遺伝性」の遺伝子の変異も見つかる場合があるからだ。
がん患者の中の数%に遺伝性の遺伝子変異を持つ人がおり、遺伝性の(生まれつき持っている)遺伝子の変異がきっかけで発生した腫瘍を「遺伝性腫瘍」と呼ぶ。
ハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが「遺伝性乳がん・卵巣がん症候群」と呼ばれる遺伝性腫瘍に関与する遺伝子変異を持っていることがわかり、彼女はがんが発生していないが乳房を切除した。がんが発生する前の「予防的切除」だ。
ただし、誤解しないで欲しい。遺伝性腫瘍に関与する遺伝子変異を持っていたとしても必ずしもがんになるわけではない。可能性が高くなることがあるということであり、遺伝性腫瘍に関与する遺伝子変異を持っていなくても、たばこを吸っている人や塩分の多い食事をしている人たちも、がんが発生する可能性が高くなるのだから。
■遺伝カウンセリングを受ける理由
遺伝性があるということは、検査を受けた患者だけではなく血のつながった家族の中にも、同じ遺伝子の変異を持つ人がいる可能性があることや子孫に遺伝する可能性があるということであり、検査を受けた患者だけのことではなくなる。
人によってはその「遺伝性の遺伝子変異」を持っている可能性があることを知りたい人もいれば、知りたくない人もいる。知ることで予防処置がとれると思う人や検診をこまめに受けて早期発見ができると思う人もいる。一方で、いつがんが発生するか不安になるくらいなら知りたくないと思う人もいる。
現在は両方の意見が尊重され、情報の開示を希望するか、しないかは患者自身で決めることができる。遺伝性の遺伝子変異が見つかり、その情報の開示を患者が希望した場合、まずは「遺伝」について正しい知識を持つため、患者は遺伝カウンセリングを受ける必要があるのだ。
このとき、がんゲノム医療コーディネーターは、遺伝カウンセリングをおこなう専門の部署に引き継ぎをおこなう役目も担うのだ。
■実際よくある患者からの相談や質問
がんゲノム医療コーディネーターは、患者に適切な説明をおこなう役目があるため、ゲノム(遺伝子)、がんゲノム検査の内容、患者への接し方、検査により発見される可能性がある遺伝性の遺伝子変異(二次的所見・偶発的所見)などについての知識を習得する必要がある。
よく相談や質問される内容として
「がん家系かどうか知りたいので、がんゲノム検査を受けたい。」
「早く遺伝子治療が受けたいです。」
「検査を受ければ、確実に効果のある薬剤が見つかるのですか?」
などがある。
がんゲノム医療について正しく知る機会やツールがないのが実状であり、かなり誤解を招いている。
【1】がんゲノム医療でのゲノム検査は医療である。
まず「がん家系かどうかを知りたい」という目的で「がんゲノム検査」を受けるものではない。「がんの原因となっている遺伝子の変異を見つける」こと、そして「その遺伝子変異を持った細胞に効果が期待される薬剤を探す」ことが目的だ。よくある「太りやすい体質か?」「どのダイエット方法が合っているか?」といったことを調べる遺伝子検査とは全く異なる。がんゲノム検査は「医療」である。また、あくまでも、がん患者の治療選択を探すことが目的であり、遺伝性の遺伝子変異はがん発生の原因となっている遺伝子の変異を探している過程で「偶発的に見つかる情報」であるため、二次的所見・偶発的所見と扱われるため、目的を誤って検査を受けないようにしてほしい。
【2】遺伝子治療ではなく、検査である。
「遺伝子治療」と誤解している人も多い。「遺伝子の治療」ではなく「検査」だ。検査の結果から、現在この世の中に存在する薬剤や治験の情報を見つけ出すのだ。遺伝子を操作して治療するといった誤解は持たないで欲しい。
【3】すべてにおいて100%はない。
「がんゲノム検査を受ければ必ず原因が究明されて、必ず効果のある薬剤が見つかる」と、「夢のような検査」だと誤解している人も多い。まだ、ゲノムに関しては明らかになっていない部分も多く、がん発生の原因となる遺伝子変異のすべてが明らかになっているわけではない。さらに、国内の検査はがん発生の原因となる遺伝子の中から数十~数百個を選びパネル化して検査をしているため、そのパネルに入っていない遺伝子に変異が起こっていても、その変異をキャッチすることはできない。また、遺伝子の変異が見つかっても必ずしもその遺伝子の変異に対応した薬剤が存在するとは限らない。そして、薬剤が見つかったとしても必ずしも効果があるとは限らない。
それは、どんな治療も、どんなことも同じで「絶対」はない。
以上のように、患者に説明して正しく理解してもらうことが、がんゲノム医療コーディネーターの役割でもあるのだ。
■がんゲノム医療コーディナーター育成事業
現在、がんゲノム医療コーディネーターとしての育成のための研修会が開催されており、その対象となっているのは看護師、薬剤師、臨床検査技師である。
看護師、薬剤師、臨床検査技師は、大きく異なる日常業務を担っており、それぞれが持つ知識、技術の内容やレベルにかなり大きな差がある。それらの職種間でのレベルの差をどのように埋めていくのかが重要であり、その課題がクリア出来なければ、施設間で患者対応が異なり「あの病院で説明された内容と、この病院で説明された内容が違う。」と混乱を招く可能性が高い。
現状では、がんゲノム医療コーディネーターに求められている役割を実際におこなっている看護師、薬剤師、臨床検査技師は非常に少なく、現在すでにがんゲノム検査を開始している数施設にしかいないうえ、個々の知識レベルが異なる。それは、「がんゲノム医療コーディネーターとは」という根本的なことが明確にされていないからだ。
■医療従事者は患者のために
今後、厚生労働省に指定されたがんゲノム医療中核拠点病院や、がんゲノム医療連携病院で検査が始まる頃には、各施設にがんゲノム医療コーディネーターが1名以上いることを期待したい。
厚生労働省は、このがんゲノム医療コーディネーターを育成することで、がん患者や患者の家族に検査の内容を理解してもらい、安心して検査を受けられる環境を作ろうとしている。
また看護師、薬剤師、臨床検査技師それぞれの専門学会も、積極的にがんゲノム医療コーディネーターの育成を進めている。
多くの医療従事者や関係団体など一丸となって、このがんゲノム医療ががん患者と患者の家族の良き医療となるよう、日夜勉学に励んでいる。