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ウクライナ危機とは何で今後どうなる。3つのシナリオと膠着した理由

坂東太郎十文字学園女子大学非常勤講師
どう出るのか(写真:ロイター/アフロ)

 ウクライナは欧州とロシアの中間に位置して欧州に隣する西部が比較的親欧州で、東部が親ロシアとされています。ただどちらに近づくにせよ独立国家でいたいという強い思いは人口の8割近い国民共通の願いでしょう。

 昨年春から国境を接するロシアが軍を集結させ「侵攻は時間の問題」とまで危機が高まっています。何があったのでしょうか。3つのシナリオで考察してみます。

シナリオ1 クリミア編入の実質的な承認

 危機の発端が2014年のロシア連邦によるクリミア編入です。ウクライナ東端に位置し、北部をウクライナ、東部をロシアと接するこの半島の歴史はウクライナ本体と違って1877年から翌年までの露土戦争で奪取して以来、ロシア帝国の軍事的要衝でした。特に半島南部のセバストポリはロシア帝国-ソ連-ロシア連邦と続く黒海艦隊の母港でロシア最大級の軍事拠点です。「セバストポリ」はクリミア戦争やナチスドイツ軍との一大攻防戦を演じた「ロシア人の琴線」ともいえる語でもあるのです。

 1922年に成立したソビエト社会主義共和国連邦(ソ連)でウクライナは構成国の1つとなります。出自から「ウクライナ出身」といってもいいフルシチョフ(後にソ連最高指導者)は当時、権力闘争のまっただなかで、故郷に恩を売っておこうという腹づもりがあってか54年に半島をウクライナ所属に変更。当時は帰属がどちらであれソ連の一部だったので安全保障面に気を使わなくてもよかったのです。親ロシア感情の強いクリミアの人々は憤激しますが。

 それが91年のソ連崩壊とウクライナ独立で問題化。ならばクリミアも、という動きが出来して妥協案で先送りしてきました。

 2014年、親ロシア派のヤヌコビッチ大統領が親EU寄りの国民デモに立ち往生してウクライナから逃げ出した後、暫定(とりあえず)政権が発足した混乱に乗じてロシアが軍事力を背景にエイッと半島を編入。ウクライナ新政権は当然こうした事態を認めず、主要国も首脳会議(サミット)のメンバーからロシアを追い出したのです。

 以来、ウクライナの政権は反ロシアを鮮明にし、ロシアはクリミア支配の既成事実化を図り今日に至ります。今回の危機もロシアの本音はクリミアの権益保持で、大きく出ておいてクリミアの実効支配を相対的に小さくみせて西側と妥協できれば上等という観測が一部でなされているのです。

シナリオ2 東部2州の獲得

 クリミア編入と同時期に発生したウクライナ東部ドネツク州とルガンスク州の切り取りこそ本命という見方も。両州ともロシア系住民が約4割と他地域より多めでクリミア問題発生と同時に親ロ派が一方的に独立宣言して政府軍と衝突するなど混乱が続行中。現時点で親ロ派が優勢で国境を接するロシアの軍事的支援を得ているともっぱらです(ロシアは否定)。

 ロシアからすればクリミア編入は絶対に覆せない。である以上ウクライナ政府が今後親ロに傾く可能性もゼロ。ならば後述するNATO加盟をウクライナが選択し、西側が容認するとしたら東部の2州はいただくよという駆け引きかもしれません。

14年の危機から今日まで膠着した理由

 いや、本音も何もロシアが公然と訴えている「NATO(北大西洋条約機構)のウクライナ加盟を認めない」を文字通り受け取っていいとも推測できます。NATOは元々「東側」(旧ソ連陣営)に対抗する軍事同盟でアメリカの強烈な影響下にあります。ソ連の後継国であるロシアにとって最初から嫌な存在。

 ソ連崩壊によって東側に属していた旧ソ連以外の独立国は後難を恐れて続々とNATO入りしました。ロシアからすれば味方が仮想敵へとオセロゲームのようにひっくり返って東から迫ってくる感じ。ただそれらとウクライナの決定的違いは旧ソ連構成国であったという点です。

 ロシアがNATOの東方拡大を批判してきたのは昨日今日ではありません。ウクライナに限っても02年の段階でNATO 加盟を目標に掲げていてプーチン露大統領も強い反発は示しませんでした。

 しかし、その後も東方拡大が着々と進み、他方で崩壊から10年以上続いた経済の大混乱を資源高などを追い風に克服してきたロシアは次第に西側への遠慮から強気へと方向転換したのです。クリミア編入もその一環でした。しかし今回の危機=ロシア軍のウクライナ国境への集結が最初に確認されたのは21年春。この間の膠着はなぜか。

 おそらく2017年に就任したトランプ米大統領の対ロ政策です。何しろぶれまくって、結果的にロシアも様子見を決め込むしかなかったと。米大統領選にロシアが介入した疑惑や、前職のオバマ大統領時代の米ロ関係悪化を批判してプーチン大統領とは「仲良くなれる」など発言したり、NATO加盟国に負担増を求めるなどロシアに都合のいい面を見せたかと思えば米ロ中距離核戦力全廃条約をロシアの条約違反を理由に破棄といった強硬姿勢も示すなど首尾一貫せず。

シナリオ3 全面侵攻

 ここにバイデン新政権が誕生して様相がガラッと変わります。副大統領時代にクリミア編入へ反対するウクライナ政権を支持し、大統領就任後も自国の脅威であると明言。ロシアからすれば敵の大将が「意味不明」から対決者へと可視化され、ならば遠慮は要らないと強硬姿勢へと転じたのかもしれません。

 最悪のシナリオは全面侵攻。首都キエフをも陥落させると場合によっては隣国ベラルーシまで巻き込んでロシア軍が攻め込んでくるケースです。第二次世界大戦の5大戦勝国が直接、主権国家に戦争を仕掛けるのは極めて異例。1978年のソ連のアフガニスタン侵攻でさえアフガン政権の要請に応える形でしたから。しかも核保有国。対峙せざるを得ないNATOおよび米軍単独でも保有国。誰も望まないパターンのはずです。

十文字学園女子大学非常勤講師

十文字学園女子大学非常勤講師。毎日新聞記者などを経て現在、日本ニュース時事能力検定協会監事などを務める。近著に『政治のしくみがイチからわかる本』『国際関係の基本がイチから分かる本』(いずれも日本実業出版社刊)など。

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