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国連総会決議「イスラエルは違法占領やめるべき」可決――日本は賛成 主要国と一線を画して通したスジとは

六辻彰二国際政治学者
ヨルダン川西岸でパレスチナ人を拘束するイスラエル兵(2024.9.12)(写真:ロイター/アフロ)
  • 国連総会ではイスラエルにヨルダン川西岸の違法占領を辞めることを求める決議が可決された。
  • この決議に米英など欧米主要国は反対した一方、多くの途上国や新興国は賛成にまわり、日本もそこに加わった。
  • この決議に即効性はないものの、賛成票を投じたことで日本は「力でルールをねじ曲げる」立場と一線を画したといえる。

「違法占領をやめるべき」

 日頃、筆者が日本政府の外交に肯定的なコメントをすることはほとんどない。

 しかし、久しぶりに日本政府の気骨をみた思いがする。

 国連でのイスラエル非難決議にアメリカ、イギリス、ドイツなど主要先進国が反対するなか、日本が賛成したからだ。

 国連総会で9月18日、124カ国の賛成多数で採択されたこの決議はイスラエルに「ヨルダン川西岸における違法な占領を1年以内にやめること」を求めるものだった

 この決議を米バイデン政権は「一方的」と批判するなど、多くの先進国は反対にまわった。

 主要7カ国(G7)で賛成に回ったのは、日本を除けばフランスだけだ。先進国全体に枠を広げても、スペイン、ベルギー、ノルウェーなど一部に限られる。

 逆に、新興国や途上国のほとんどはこの決議に賛成した。

 つまり、日本は立場上、先進国でありながら、この問題ではグローバル・サウスに近い態度を見せたといえる。

ヨルダン川西岸とは

 この決議はヨルダン川西岸に関するもので、1年足らずの間に4万人以上の死者を出しているガザの話ではない。

 しかし、ヨルダン川西岸の問題はガザと連動している。どちらもイスラエルとパレスチナとの対立の舞台になっているからだ。

 ヨルダン川西岸はガザと同じく国連決議でパレスチナ人のものと認められているが、イスラエルによって実効支配されてきた。パレスチナ人は自治権を与えられているものの、名目的なものにすぎない。

イスラエル軍の攻撃によって黒煙のあがるヨルダン川西岸チュバス(2024.9.11)。イスラエルはガザ侵攻と並行してヨルダン川西岸でもパレスチナ人排除の動きを強めてきた。
イスラエル軍の攻撃によって黒煙のあがるヨルダン川西岸チュバス(2024.9.11)。イスラエルはガザ侵攻と並行してヨルダン川西岸でもパレスチナ人排除の動きを強めてきた。写真:ロイター/アフロ

 イスラエルは軍事力をもってこの土地を支配しているだけでなく、数多くのユダヤ人を入植させている。それにともないパレスチナ人は居住地を追われてきた。

 イスラエルによる実効支配は第三次中東戦争(1967年)の後、ほぼ一貫して続いてきた。そこにアメリカの庇護があったことは周知のことだが、ガザ侵攻と連動してヨルダン川西岸の状況は加速度的に悪化している

 イスラエル軍やユダヤ人過激派がパレスチナ人への襲撃や逮捕を加速させているからだ。

アルジャズィーラによると、2023年1月から2024年8月までの間にヨルダン川西岸でイスラエル軍やユダヤ人過激派に殺害されたパレスチナ人は861人にのぼった。7月には、パレスチナ人のオリーブ畑にユダヤ人過激派が焼き払う動画が世界中に拡散した。

 9月18日の国連決議は、この状態を1年以内にやめることをイスラエルに求めたのだ。

 なお、一連の「不都合な報道」により、アルジャズィーラは9月22日、イスラエル政府によってヨルダン川西岸オフィスの一時閉鎖を命じられた。

「西岸でイスラエルに自衛権はない」

 今回の国連決議はオブザーバー資格で参加するパレスチナが提出したものだが、そのベースになったのは今年7月に国際司法裁判所(ICJ)が下した「イスラエルによる占領が国際法違反」という判断だった。

 イスラエルはヨルダン川西岸での破壊活動や暴力を「ハマスなどイスラーム過激派に対する自衛権の発動」と正当化している。

 しかし、ICJは「ヨルダン川西岸でイスラエルは自衛権を主張できない」と判断する。“自衛権”は自国の領土について認められるもので、ヨルダン川西岸は正当に認められたイスラエルの領土ではないからだ。

 これは判決ではなく勧告的意見であるため、イスラエルを拘束しないものの、国際法上の重要な判断であることは間違いない。

ダブルスタンダードを緩和

 ICJの判断に基づく今回の国連決議に日本が賛成したことは、欧米主要国よりは一貫性ある態度といえる。

 日本政府はこれまで台湾問題やウクライナ侵攻について「力による一方的な現状変更の試みを認めない」と繰り返してきた。この立場はほとんどの先進国に共通する。

 ただし、イスラエルによるヨルダン川西岸の実効支配も「力による一方的な現状変更の試み」であるはずだが、多くの欧米各国はイスラエルとの関係を優先して、むしろ「ハマスの脅威」を強調してきた。

 これが “ダブルスタンダード”であるという批判はグローバル・サウスに根強い。

 一方、ロシアや中国はウクライナからのロシア軍撤退を求めた国連決議に反対したが、今回の決議には賛成した。これはこれでダブルスタンダードといえる。

 とすると、日本政府はパレスチナを正式な国家として承認しないなど欧米主要国と足並みを揃えている点もあるものの、少なくとも今回の国連決議に関していえば、「力でルールをねじ曲げる」立場と一線を画したことになる。

即効性はないが

「とはいえアメリカや主要先進国が反対する決議に実効性はない」という批判はあり得る。実際、その通りだろう。

 今回の国連総会決議には拘束力がなく、あくまでイスラエルの自発性に委ねられるものでしかない。決議に従ってイスラエルが1年以内にヨルダン川西岸を手放す可能性は限りなくゼロに近い。

 しかし、今回の国連決議はただちに効果を発揮するものでなくても、イスラエルの占領政策の不当性をこれまでになく強く非難したものとして、長期的な指針にはなる。

 そして今回の国連決議に反対・欠席した欧米主要国も、この流れは無視できない

 イスラエル擁護の二巨頭ともいえる米英でさえ、イスラエルと距離を置く方針が少しずつ表面化しているからだ。

 たとえばアメリカは7月、ヨルダン川西岸で暴力行為に関わる個人への制裁を決定した(入植を進めてきたイスラエル政府を対象にしたものではないが)。

 また、イギリスは9月初旬、イスラエル向けの軍事物資提供を一部停止した。

 その背景には、欧米各国でもガザ侵攻をきっかけに、これまでになくイスラエルの占領政策に対する批判は強まっていることがある。

 今回の国連決議はこうした潮流の象徴であり、日本政府がそれを支持したことは、できる範囲でスジを通したものとして評価できるのである。

国際政治学者

博士(国際関係)。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学などで教鞭をとる。アフリカをメインフィールドに、国際情勢を幅広く調査・研究中。最新刊に『終わりなき戦争紛争の100年史』(さくら舎)。その他、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、『世界の独裁者』(幻冬社)、『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『日本の「水」が危ない』(ベストセラーズ)など。

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