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米トランプ、戦費負担だけではない――欧州各国が「交渉によるウクライナ戦争解決」を模索する第3の理由

六辻彰二国際政治学者
ゼレンスキー大統領と握手する独シュルツ首相(2024.12.2)(写真:ロイター/アフロ)
  • 欧州各国の政府には交渉によるウクライナ戦争終結を模索する動きが広がっている。
  • その背景には、ウクライナ支援に対する米トランプ次期大統領の消極姿勢、増大する戦費負担だけでなく、極右の台頭がある。
  • ウクライナ戦争は極右の台頭を後押ししており、これが欧州各国の首脳に戦争の早期解決を目指させる原動力になっている。

 

「交渉による戦争終結」の原動力

 イギリスのキア・スターマー首相は12月2日、ウクライナ戦争を「外交交渉によって終結させる可能性」に言及した。

 ウォロディミル・ゼレンスキー大統領がその少し前から軍事力による全土奪還を困難と認め、外交による解決を目指す方針にシフトし始めていたことを受けての反応だった。

 同じく12月2日、フランスではミッシェル・バルニエ首相に対する不信任案の提出が決まった。バルニエの連立与党はイマヌエル・マクロン大統領を支持するが、議会では少数派にとどまる。

 この二つは一見無関係にみえるが、実際には深く結びついている。

 どちらも原因の一端に極右の台頭があるからだ。

欧州を覆う極右

 2022年以来の選挙で、多くのヨーロッパ各国およびEU議会では極右政党は過去最大の議席を獲得している。なかにはイタリアオーストリアスウェーデンのように極右系が政権を握る国もある。

 そのほとんどはウクライナ支援や対ロシア制裁に消極的で、むしろ国民生活の改善を主張する。

 フランスの場合、8月の議会選挙で極右政党「国民連合」が過去最多の議席を獲得したが、そこにはマクロン政権が推し進める財政再建や増税への反発、生活苦への不満があった。

 4日に提出・可決されたバルニエ不信任案は、国民連合がやはりマクロン政権と対立する左翼連合「新人民戦線」と足並みをそろえた結果のものだった。

 マクロンはこれまでウクライナ支援を前面に掲げてきた。

 ウクライナ戦争が極右の台頭を後押し、これが欧州各国政府に戦争の早期終結を模索させる原動力になったとすると、これは

①ドナルド・トランプが大統領選挙で勝利してアメリカの支援の先行きが不透明さを増していること、

②ウクライナへの大規模な戦費協力の負担がのしかかっていること、

に加えて、欧州各国にとって第3の懸念材料といえるだろう(この3つはそれぞれ結びついているが)。

ドイツでも高まる懸念

 それは英仏だけでなく、欧州最大の経済力をもつドイツでも同じだ。

 オラフ・ショルツ首相は11月15日、ウラジミール・プーチン大統領と電話で会談した。ここでショルツはロシア軍撤退を求め、プーチンは断るといった原則論に終始したが、独ロ首脳が直接対話するのは、ウクライナ侵攻が始まって以来、極めて異例のことだ

 その3日前、ドイツでは来年2月23日に議会選挙が行われることが決定していた。11月6日に連立政権が崩壊したことを受けての決定だった。

 ドイツでも経済停滞やインフレを背景に政府支持率は低下し続けていて、ショルツは「第二次世界大戦後、最も不人気な首相」という不名誉な称号すら与えられている。

 この状況のもと、9月に行われた州議会選挙では極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が躍進し、特に地盤である東部ザクセン州では30%以上の得票率を記録している。

 とすると、ショルツにとってはウクライナ戦争の早期終結が国内政治的にも重要な意味を持つことは間違いない。

現体制打破のための「内戦」

 それほどに各国で極右の台頭が警戒される最大の理由は、国内の治安の問題だ。


 あらかじめ断っておくと、極右政党は生活苦に対する不満の受け皿になっているのであり、その支持者が全員、白人至上主義や排外主義に傾いているとは限らない。

 とはいえ、移民制限や難民排除、LGBTや同性婚の拒絶、さらに反EUなどの主張を展開する極右政党の支持者には、現体制を打破するための「内戦」を呼びかける個人・団体すらある。

 そのため欧州各国には極右テロを「国内安全保障上の脅威」と捉え、イギリスやドイツのように一部の極右団体を「テロ組織」に指定する国もある(この点で極右をテロ組織に指定しないアメリカと異なる)。

 イギリスでは今年8月、移民排除を求める極右の暴動が各地で発生し、1000人以上が逮捕される事態に至った。また、7月のフランス議会選挙では選挙期間中に約50件の暴力事件が発生した。

 ウクライナ戦争が続き、現状への不満を極右政党が吸収して拡大するほど、こうしたリスクは高まりかねないと懸念されているのだ。

なぜ極右はウクライナ支援に消極的か

 これに加えて、極右の台頭がロシアの影響力をこれまで以上に増すことへの警戒も無視できない。

 多くの極右政党は“国民生活優先”を大義にウクライナ支援、対ロシア制裁への消極論を展開してきたが、もともとヨーロッパ極右には反リベラル、反グローバリズムの論調が鮮明なプーチンへの親近感が目立つ

 そのため、ロシアによるウクライナ侵攻が始まった後、SNSなどには「白人同士の“兄弟戦争”はユダヤ人や有色人種を喜ばせるだけ」と嘆く極右の声も少なくない。

 近年ではロシアのスパイとして法廷に立たされる極右政治家や極右政党支持の軍人も目につくようになっている。

 さらにヨーロッパ極右とロシアは反EUでも共通する。

 国家主権を重視するヨーロッパ極右には反EUの論調が鮮明だ。例えば極右政党に支えられ、移民規制などを主張するイタリアのジョルジャ・メローニ首相は、これまでウクライナ向け軍事援助を絞り込む一方、EUの厳格な財政規制の緩和も掲げてきた。

 イギリスのEU離脱にともなう混乱を目の当たりにしたヨーロッパ極右には、メローニのように“内部改革”によってEUの求心力を低下させようとする動きが目立つ。

 EUの結束の弱体化は究極的にはロシアの利益になり、ひいては中国の利益にもなる。

 とすると、軍事力による全土奪還を諦めればロシアを勢いづかせるとしても、戦争がこれ以上続いてヨーロッパ内部でロシアに近い立場が発言力を増すよりマシと各国首脳が判断しても不思議ではない。

外交的解決も容易ではない

 ただし、それは次の険しい道の入り口でもある。

 ロシアに実効支配されるクリミア半島やウクライナ東部をただ放棄すれば、それこそプーチンの思うツボになる。

 かといって、ゼレンスキーの「ロシアとの交渉の前提としてNATO加盟による交渉力の強化が欠かせない」という主張をそのまま受け入れることもできない。ウクライナのNATO加盟はこれ以上ないほどロシアを刺激するからだ。

 ヨーロッパ各国は、これまで以上にロシアに圧力を加える手段が乏しいなかで交渉を有利に展開するという困難なタスクに直面しているのである。

国際政治学者

博士(国際関係)。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学などで教鞭をとる。アフリカをメインフィールドに、国際情勢を幅広く調査・研究中。最新刊に『終わりなき戦争紛争の100年史』(さくら舎)。その他、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、『世界の独裁者』(幻冬社)、『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『日本の「水」が危ない』(ベストセラーズ)など。

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