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コロナ禍で食品ロスは増えたのか?減ったのか?世界各国の状況

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
(写真:アフロ)

コロナ禍で食品ロスは増えたのだろうか、それとも減ったのだろうか。実際の増減量を計測するのは、特に家庭においては難しいことだが、世界各国では、一般消費者のアンケート調査によるコロナ禍での食品ロスの変化の傾向が見えてきている。

2020年、家庭の食品ロスは減る傾向

2020年、家庭の食品ロスは減る傾向が見られた。主な国の傾向を見てみよう。

米国294名「減った」

2021年5月、学術誌"Appetite"(アペタイト・「空腹」という意味)に掲載された論文“Waste not and stay at home” evidence of decreased food waste during the COVID-19 pandemic from the U.S. and Italy"を見てみる。

論文の著者は、米国・ボストンのノースイースタン大学の研究者と、イタリア・ローマのサピエンツァ大学の研究者ら。

2020年4月8日から28日に、米国の18歳以上の478名(うち79%は女性、平均年齢30歳)とイタリアの18歳以上の476名(うち78%は女性、平均年齢33歳)、合計954名にオンライン調査を行った。

その結果、米国の被験者の61.5%(294名)は「コロナ前と比べて食品ロスが減った」と答え、イタリアの被験者は38%(180名)が「コロナ前より食品ロスが減った」と回答した。2カ国全体では44%が「減った」と答えたことになる。

減った要因としては次のことが挙げられている。

  • スーパーマーケットでの買い物を避けるようになったこと
  • 家で料理をする機会が増えたこと
  • コロナ前と比べて食品を選ぶ際に健康への関心が高まったこと

今回の調査結果から、家庭での食品ロスの減少は、調理機会の増加など、食品の購入や調理方法の変化、健康を意識した食品の選択に関連している可能性が示唆された。

ただ、著者らは、今回の研究の対象者は、主に子どものいない若年女性で構成されており、子どものいない世帯は子どものいる世帯に比べて食品ロスの発生が少ないことがすでに先行研究でわかっているので(Thyberg & Tonjes, 2016)、幼い子どものいる世帯の食品ロスも探る必要があるとしている。

論文の締めには「COVID-19が食品ロスに与える影響を調査したのは我々が知る限り初めてのこと」と書いてあるが、実は2020年時点で多くの国が調査を実施している。

参考:

“Waste not and stay at home” evidence of decreased food waste during the COVID-19 pandemic from the U.S. and Italy"(January 2021, Appetite)

「想像してごらん、食品ロスのない世界を」コロナの時代の食品ロス(米国編vol.4)世界レポ(64)(井出留美、2021.3.29)

「気候変動と食品ロス?」 コロナの時代の食品ロス(米国編 vol.3)SDGs世界レポ(63)(井出留美、2021.3.15)

「今は食品ロス削減に取り組むうってつけの機会」コロナの時代の食品ロス(米国編vol.2)レポ(60)(井出留美、2021.2.27)

「アメリカ・ファースト」って何だったの? コロナの時代の食品ロス(米国編vol1)世界レポ(58)(井出留美、2021.2.16)

イタリア2,244名「減った」

前述の調査では、米国に比べて「減った」と答えた割合が少なかったイタリアだが、2020年に行った2回の調査によれば、半分近くが減ったと答えており、Waste Watcher(ウェイスト・ウォッチャー)の調査によれば、2019年比で25%減ったという結果も出ている。

参考:

イタリア計2,244名の購買行動と食品ロス調査 コロナ禍でどう変わった?SDGs世界レポ(30)(井出留美、2020.7.23)

イタリア食品ロス25%減、この10年間で最小:SDGs世界レポ(52)(井出留美、2020.12.31)

また、2021年2月に発表されたIpsos(イプソス)社の調査によれば、2019年比で11%減、という結果になっている。

参考:

家で捨てる食品、5位パン、4位サラダ、3位玉ねぎ、2位野菜、1位は?イタリア・コロナで食品ロス減(井出留美、2021.5.4)

オーストラリア415名 11%が「普段より減った」

2020年5月に415名対象に調査を行ったオーストラリアでは、11%が「普段より捨てる食べ物が減った」と答えている。

参考:

オーストラリア415名購買行動・食品ロス調査報告書 コロナ禍の変化とは?SDGs世界レポ(31)(井出留美、2020.7.27)

オーストラリアでは2019年6月にも5,272名を対象にした食品ロスの調査が行われており、「減った」という結果が出ていた。コロナ禍でさらに減ったことになる。

参考:

最大で年28万円食品を捨てるオーストラリア、5272名の食品ロス調査結果 SDGs世界レポ(40)(井出留美、2020.9.24)

一方で、コロナ禍で最もパニック買いをしたのはオーストラリアだった、ということも報じられている。

参考:

世界一 パニック買いをした国 コロナの時代の食品ロス(オーストラリア編)SDGs世界レポ(45)(井出留美、2020.11.16)

イギリス主要4品目で「34%減った」

イギリスのWRAPは2020年5月にコロナ禍での食品ロス減少を発表している。特に主要4品目であるパン・鶏肉・じゃがいも・牛乳においては、コロナ前に比べて34%減少したという結果が出ていた。初回のロックダウンでは買い物に行きづらくなったこと、家にあるものを使い、ないものだけ買うようになったことが背景にある。

参考:

「パン・牛乳・鶏肉などのロス34%減」英国、外出自粛中に家庭の食品ロス減:SDGs世界レポ(21)(井出留美、2020.5.23)

イギリスの専門家は、食品ロスの削減のための新たな取り組みなどの対策を提案した。現在、次の気候変動計画の準備を進めている閣僚は、食品ロスを減らすための政策を打ち出そうとしている。

参考:

コロナ禍の世界各国で売り切れた食品は? コロナの時代の食品ロス(イギリス編)SDGs世界レポ(44)(井出留美、2020.10.29)

アイルランド1,000名対象調査「減った」

アイルランドでは2020年9月4日〜14日、16歳以上の1,000名を対象に調査が実施された。その結果、家庭の食品ロスの減少が報告されている。食品を計画的に使う行動も増えており、買い物リストを作成する、食事計画を立てる、食品庫や冷蔵庫にある食品をチェックする、などの人が増えている。

参考:

コロナ禍のXマス、アイルランド人が恋しく思うものは?コロナの時代の食品ロス:SDGs世界レポ(49)(井出留美、2020.12.14)

カナダ1,200名対象調査「食品ロスを減らした」

カナダでは2020年6月16日から24日にかけて1,200名対象に調査が行われ、コロナ前に比べて食品ロスを減らしたと答えている。

参考:

コロナ禍で迎える新年の抱負は?コロナの時代の食品ロス(カナダ編)SDGs世界レポ(50)(井出留美、2020.12.28)

日本6,990名「月1〜2回捨てた」人がコロナ前より10%近く減少

日本ではハウス食品が2019年7月と2020年7月にアンケート調査を実施している。食品・食材を月に1〜2回以上捨ててしまっている人の割合は、2019年の70.4%から61.9%に減少した。

参考:

家で捨てる食材6,990名調査 納豆、豆腐、もやし、パン、キャベツ、レタス…1位は?(井出留美、2020.9.24)

日本2,137企業 26.2%「減った」外食産業では65.5%が「減った」

ここまで、家庭の食品ロスがコロナ前後でどう変化したかを見てきた。では事業系に関してはどうだろう。日本の結果を見てみると、農林水産省が2,137社に行った調査によれば、2020年3月以降、前年比で食品ロスが「減った」と答えた企業は26.2%にのぼった。宴会が減った外食産業では65.5%が「減った」と回答している。

参考:

新型コロナウイルス感染症による食品ロス発生量への影響(令和2年度食品産業リサイクル状況等調査委託事業)

新型コロナウイルス感染症の食品ロス発生量への影響(農林水産省のデータを基にグラフはYahoo!JAPAN制作)
新型コロナウイルス感染症の食品ロス発生量への影響(農林水産省のデータを基にグラフはYahoo!JAPAN制作)

以上、コロナ禍で食品ロスがどう変化したかを見てきた。ただ、これは一部の結果に過ぎない。日本の食品メーカー幹部に取材したところ、コロナ禍による休業や閉店などで、その損失額は数千万円にのぼるとのことだった。

世界各国でオンラインショッピングが増え、段ボールなどの梱包材の廃棄物は増えている。また、テイクアウトの増加により、容器包装のごみが増えていることも忘れてはならない。

参考:

コロナ禍で買い物や外食はどう変化した?世界28ヵ国、2万人の調査結果(井出留美、2021.5.6)

各国の家庭の食品ロスがなぜ減ったのか、その理由が調査結果から見えてきている。たとえば「家庭にあるもので献立を立て、調理する」「家にないものだけ書き出して買い物リストを作る」といったことだ。そのような消費行動や購買行動をとれば、家庭の食品ロスは減らせる可能性がある、ということだ。今回は家庭系の食品ロスに絞ったが、今後は事業系も含めて食品ロスの動向に着目し、記事で紹介していきたい。

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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