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JR3社が大赤字、コロナ禍と事業構造が原因に 経営規模の縮小はできるのか?

小林拓矢フリーライター
コロナ禍で鉄道のビジネスモデルが厳しい状況に置かれている(写真:アフロ)

 JR東日本1,553億円、JR東海726億円、JR西日本767億円――コロナ禍が鉄道に大きな赤字を与えた。JR東日本と西日本は過去最大の営業損益赤字、JR東海は初めての営業損益赤字である。

 理由は、わかりきっている。

コロナ禍が鉄道を危機に

 もちろんコロナ禍で人が鉄道に乗らなくなった、というのが最大の理由だ。在宅勤務の拡大により通勤電車はがらがらになり、出張もテレビ会議システムで代用し新幹線や特急に乗るということもなくなった。これまであった膨大な移動需要が、一気に消えたのだ。

 そのために新幹線や特急は減便を行い、必要最低限の列車しか運行しなくなった。

 では、どれだけ利益が減ったのか。JR東日本の運輸事業は営業収益前年同期比57.0%減の2,261億円、営業損失は1,629億円となった。JR東海の運輸事業は営業収益78.4%減の798億円、営業損失は757億円である。JR西日本の運輸事業は前年同期比64.9%減の849億円、営業損失は868億円となった。

 どの社も、新型コロナウイルスを理由としている。具体的な内訳を見てみる。

各社の減り方のちがい

 各社とも、定期・定期外での収入の減り方を示している。JR東日本は、新幹線・在来線の鉄道運輸収入は定期券で前年同期比73.8%、それなりに持ちこたえている。ただし定期券は利幅が薄いので、厳しいものがある。定期券以外での収入は前年同期比25.5%、多くの人が出歩かなくなったことをそのまま反映した数字だ。

 なお、定期券での収入の減り方は電車ががらがらになった割に少ない、ということは、テレワークを行った事業者はそれほど多くはなかったということである。コロナ禍の中で在宅勤務ができる状況にある人は言われるほど多くなく、感染拡大の中でも職場に行くことを必要とした人も多いことがうかがえる。

 定期外での収入減は非常に大きい。出張や旅行などで出かける人が減ったのが、大きく反映されている。

 JR東海の定期収入は前年同期比74.8%、定期外は16.5%。構造的にはJR東日本と近い。

 しかしJR東海は、東海道新幹線を中心とした運輸事業の構造を持っている。2019年度第1四半期は新幹線の定期外利用は3,218億円だったのに対し、2020年度第1四半期は515億円と、前期比16.0%となった。おもに出張利用をメインユーザーとする東海道新幹線にとっては、厳しすぎることになってしまった。

 JR西日本は定期収入前年同期比78.6%、定期外収入22.5%。こちらは、京阪神都市圏を有するため、JR東日本の構造を縮小したものと考えていいだろう。

 確かに、学校や会社に行けなくなったために収入が減ったが、出張や旅行に出かける状況にないと判断した人がいて、それが運輸収入の実績につながったところが大きい。

関連事業も縮小

 では、鉄道事業を補佐する流通・サービス事業や不動産・ホテル事業はどうか。こちらでは数字は挙げないが、各社ともいろんな取り組みを行っていた。

 JR東日本では、仙台駅「牛たん通り」「すし通り」をリニューアルし、上野駅「エキュート上野」に新ショップをオープンした。また、ホテルを多く開業、商業施設の開設にも力を入れた。

 JR東海では、駅商業施設のリニューアルを進めていた。

 JR西日本では、ホテルの開業や岡山・金沢の商業施設リニューアルを行った。

 しかしこれらの施策が利益に直結しにくい状況となっていた。

 社によって関連事業への取り組みも濃淡が見られ、とくにJR東海はそれほど力を入れている状況ではない。しかし、こういった事業は鉄道事業あってのものなので、厳しい状況に置かれたことは確かだ。

 ただ、鉄道会社の関連事業で鉄道と関係のないものをやっている、というケースもまた珍しく、今後に向けてどんな関連事業を考えるかは、各社上層部のアイデア次第となるだろう。JR九州の飲食事業や、東急の電気事業など、そう簡単に考えられるものではないのである。

コロナ禍の危機に立ち向かえるか

 JR本州3社とも、全体的に家にこもる傾向が強まる中で運輸収入・運輸外収入とも厳しく、とくに遠距離の外出が減るということが、大きな赤字につながっている。

 新しいプロジェクトを行うにも状況が悪く、しばらくは新型コロナウイルスの状況を見るほかない。現在、「GoToトラベル」キャンペーンが進められている。鉄道会社、とくに長距離の輸送が可能なJR各社は、このキャンペーンに乗って観光需要を喚起したい、という考えもあるだろう。ただ、このキャンペーンは感染拡大が懸念される中で実効性が乏しく、掛け声だけになることが予想できる。

 鉄道会社の経営計画の実現はより時間がかかるようになり、修正も必要になってくる。鉄道の進歩と発展が、年単位で遅れる可能性も考えられる。

 抗ウイルス剤の散布や換気対策など、各社行えることは行っているものの、それだけでコロナ禍の厳しい状況に立ち向かえるとは思えない。

 はたして、コロナ禍はいつ収束するのか。感染拡大傾向が終わりを見せない中、鉄道が置かれた厳しい状況はしばらく続くこととなるだろう。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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