常識が覆った!ハッブル宇宙望遠鏡による最新の大発見3選
どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。
今回は「ハッブル宇宙望遠鏡がもたらした最新の発見3選」というテーマで動画をお送りしていきます。
●自由浮遊ブラックホールの発見
2022年1月31日、ハッブル宇宙望遠鏡によって、地球から天の川銀河中心部方向約5150光年彼方に、「単独で存在する恒星ブラックホール(以下新発見のBH)」が史上初めて発見されたと発表されました。
ブラックホールはその質量によって3つに分類され、その中で最も軽く、太陽の数倍~数十倍程度の質量のものは「恒星ブラックホール」と呼ばれます。
ブラックホール本体は光を放ちませんが、その周囲に物質が豊富に存在した場合、ブラックホールの重力によって超高速に加速させられ、摩擦熱によって光り輝く円盤構造やジェットが放出され、それを観測することで存在が判明します。
特に恒星ブラックホールの場合、通常の恒星と連星を成し、恒星からのガスが供給されやすい状態にあるものしかこれまで発見されたことがありませんでした。
そんな中、史上初めて単独の恒星BHを発見できたわけです。
新発見のBHは周囲に物質が存在せず、周囲の円盤構造もジェットもないため、直接観測することはできません。
今回ハッブル宇宙望遠鏡がこのBHを発見できたのは、「重力マイクロレンズ効果」という現象のおかげでした。
重力レンズ効果とは、特に質量が大きい天体の周囲の空間が強大な重力によって歪められている影響で、その天体の背後にある天体から地球にやってきた光が歪んで見えたり、通常よりも明るく見えたりする現象です。
重力レンズ効果が起こると、本来地球に届かなかった光まで進路が歪められて地球に届くようになるので、本来よりも多くの光が届き、背後の光源の天体はより明るく見えます。
表示中の画像は非常に質量が大きい銀河の重力によって、その背後の銀河の姿が歪んで見えていますが、このような重力レンズ効果はさらに質量が軽い天体でも発生し、特に「重力マイクロレンズ効果」と呼んでいます。
この宇宙のどこかを漂う孤立した恒星ブラックホールと、その背後にある天体との位置関係が、地球から見て完全に一致したとき、地球から背後の天体の光が瞬間的に明るく見えます。
この重力マイクロレンズ効果による背後の天体の瞬間的な増光を観測できたおかげで、その前を横切った今回のBHの存在が明らかになった、というわけです。
具体的には2011年に地球から2万光年彼方にある恒星が突然明るくなったことで、今回のBHの存在が示されました。
そこから今年に至るまで、数々の分析が行われたんですね。
背後の天体の増光のデータから、今回のBHの質量は太陽の約7.1倍であると考えられています。
さらにその周囲の星々の平均の速度と比べて45km/sも異なる速度で移動していると見られることから、このBHが誕生した際に起きた超新星爆発の影響で吹き飛ばされ、現在のように孤立したまま宇宙を漂うに至ったと考えられています。
ただし別のチームの研究によると、このBHとの距離や質量、速度などのパラメータが異なる結果が得られているそうなので、より詳細な情報を得るために、さらなる分析が求められています。
●木星大赤斑の謎の加速を発見
地球の11倍もの半径を持つ太陽系最大の惑星、木星にある「大赤斑」は、木星の中でも特に有名な構造ですね。
これは木星版の嵐で、地球の嵐とは比較にならないほどあらゆる面でスケールの大きいものとなっています。
この大赤斑はなんと今から350年以上も前から存在していたそうです!
西暦1670年、日本では江戸時代の前期にあたります。
それこそ数日で消える地球の嵐とは桁違いに長生きです。
その直径はかつては地球3個分以上あったようですが、1979年に探査機ボイジャーが木星に接近した際に求めた値では地球2個分程度となっていて、その後さらに縮小し現在では地球1個が入る程度になっています。
木星で継続的にその大気での風速を計測し続ける機械はなく、その代わりに定期的な観測によってその構造の変化と、変化にかかった時間を記録することで、風の強さを計測しています。
そのためには非常に高解像度で木星の構造を把握し続ける必要がありますが、それができる唯一の望遠鏡が、ハッブル宇宙望遠鏡です。
そんなハッブルが新たに発見した大赤斑にまつわる特徴が、2021年9月に公開されています。
こちらはハッブル宇宙望遠鏡により撮影された大赤斑(左)と、大赤斑の場所ごとの風速を表した図(右)です。
ハッブル宇宙望遠鏡が観測してきた画像を解析した結果、このような詳細な風速の分布まで明らかになったんですね。
内側の円と外側の円の部分のどちらも反時計回りで風向きは同じですが、内側の部分は風速40m/sと地球の強い台風と同程度である一方、外側の部分は風速100m/s越えと地球上のどんな嵐よりも強力な風が吹いていることが示されています。
さらに大赤斑の境界部分(画像内で外側の円の部分)で示された領域では、2009~2020年にかけて平均風速が最大で8%、時速約650km分加速していることが明らかになりました。
このような変化が明らかになったとはいえ、まだまだ大赤斑の内部構造等、未知の部分が多く残っているため、速度の増加の原因を理解することは難しいようです。
ですが今回明らかになった内容は、今後大赤斑の構造や、エネルギーを維持しているメカニズムなど様々な謎を解明する上で役立ちそうな、非常に貴重なデータと言えそうです。
●史上最遠の恒星を発見
2022年3月30日、NASAはハッブル宇宙望遠鏡によって、実に129億年前に放たれた単一の恒星の光を観測したと発表されました。
それまで最も遠い単一の恒星として知られていた「イカロス」という恒星がありますが、それは今から94億年前の光を観測しているとされているため、新発見の恒星はそれよりさらに35億年も古いことになります。
宇宙の年齢は138億年とされているため、宇宙誕生から10億年もしない超初期の宇宙にあった恒星の光を観測しているということになります。
この新発見の恒星は「エアレンデル(Earendel)」と命名されました。
これだけ遠方にあって観測できる天体のうち、最小の構造は、せいぜい銀河の中にある比較的小さな星の集団である、「星団」程度でした。
これだけ遠くにある単一の恒星が発見できたのは、歴史的な快挙であると言えます。
そしてこちらが実際にハッブル宇宙望遠鏡が撮影した、エアレンデルが写っている画像となります。
左上にある明るい天体が、重力レンズ効果を発生させた大質量の銀河団「WHL0137-08」となります。
画面右上から左下にかけて伸びる赤い線が2本ありますが、点線ではない方が、重力レンズ効果によって引き延ばされ、明るく見えている背後の天体です。
そして点線の方が「焦線」と呼ばれる、重力レンズ効果によって特に明るく見える領域です。
引き延ばされた背後の天体のうち、ちょうど焦線付近にあったエアレンデルの光が特に強調され、単一の星として地球から見えています。
この効果により、エアレンデルは通常の数千倍も明るく見えていると考えられています。
観測データから、エアレンデルの質量は最低でも太陽の50倍、毎秒放出するエネルギーは太陽の数百万倍と、既知の恒星の中でも最高クラスにハイスペックな星であると推定されています。
ただしエアレンデルは連星系である可能性もあり、その場合は星のスペックも変わってくると見られています。
1990年代から最前線で活躍し、革命的な大発見をたくさんもたらしてきたハッブル宇宙望遠鏡ですが、現在でも現役で新発見をもたらし続けてくれています。
そんな偉大なハッブル宇宙望遠鏡の後継機として今注目されているのが、ジェイムズウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)です。
JWSTは既に打ち上げから観測地点への移動、さらに鏡の調整作業などが順調に進んでおり、今年夏には本格的な科学的観測が開始される予定です。
JWSTは調整のため、これまでに何枚かの宇宙の画像を地球に送ってきました。
まだ調整段階とはいえ、中には既にとてつもない解像度を誇る画像も公開されています。
それらの画像やJWSTのこれまでの活動について以下の動画で詳細に解説しているので、あわせてご覧になってください。