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「ノンアル1杯の女性が長時間滞在」で「無料の水だけ」は入店拒否! 飲食店でワインを注文しないとダメ?

東龍グルメジャーナリスト
(写真:イメージマート)

ワインの注文

飲食店へ訪れた際にワインを注文しますか。

スレッズで投稿された、香川県高松市にあるスペイン料理店の主張が話題となっています。

ものすごい数で、ドリンク注文論争が流れてきて、それに対して『値段上げたらええやん』とか、『自由に注文させろ』って意見もスレッズにあがってきてますね……。
うちが過去に実際に経験してきた事を書いてみます。
15年前、開業してすぐはもちろんお客様なんか来ませんでした。その後、徐々に認知されるようになって、来客数も増えてきてからの話です。(ちなみにスペイン料理店です)
その頃、お客様の総支払額も安く満足してもらえるよう原価率も高めに設定してメニュー構成を考えていました。(お一人あたり3000円台の設定)
しかし、より安く済まそうと定食のようにパエリアだけと無料の水を注文するお客さんがそれなりの割合で出てきました。ドリンクの注文をお願いすると一番安いエスプレッソのシングルを最初から頼もうとする方も割と多かったです。(そもそもこれの何がダメなのかわからない人も多いんです……)
ワインは安いながらも『これならいける』というものを探して、料理に合わせて楽しんでいただけるように提供していました。ワインの価格設定も仕入原価に合わせて細かく設定していました。

以上の投稿で始まり、この後に4つのスレッドが続きます。

その後のポイントは次の通りです。

・料理やシチュエーションに合わせてワインを選択するのではなく、50円でも安いワインを頼もうとする客が圧倒的に多くなった(その当時、ボトルは2500円程度から)
・飲酒できない客も多いのでノンアルコールも充実させた結果、週末にはノンアルコール1杯で何時間も滞在する女性客が大半
・満席だが利益は上がらず、やりたかった事も理解してもらえず、ターゲット層が入店できない場合も多々あった

店のルール

さらには、店と客のミスマッチはどちらにとっても最大の不幸であるとし、次のように同店のルールを述べます。

・ノンアルコールの客は入店可能
・ただし、無料のお水は提供しない
・無料の水のみの客は入店拒否

そして、ワインを飲んでもらえるのがコンセプト的には一番嬉しいと結んでいます。SNSでの反応を見てみると、ややネガティブなレスポンスが多いようです。

飲食店の定番である“アルコール問題”について説明していきましょう。

ドリンクオーダーの現状

カフェや喫茶店、バーなど、ドリンクが主体の飲食店であれば、ドリンクの注文が必須となります。フードは注文しなくてもよいですが、フードを注文したとしても、ドリンクを注文しなくてはならないケースがほとんど。そのため、待ち合わせなどで、後から遅れて到着すると、サービススタッフにメニューを渡されて、ドリンクの注文を訊かれます。

ブラッスリーやバル、居酒屋やワインダイニングなど、酒場を想起させる業態であれば、アルコールドリンクの注文が求められるでしょう。ファインダイニングでも、アルコールドリンクを勧められることが多いです。お酒が飲めない、もしくは、お酒を飲まないと伝えると、ノンアルコールワインやモクテル=ノンアルコールカクテル、お茶などのソフトドリンクが提案されます。水は有料のミネラルウォーターが標準になっていることが多いです。

飲食店の経営におけるドリンク

売上に占めるドリンクの割合はだいたい、レストランが20%、居酒屋が40%、カフェが80%、バーが85%となっています。カフェや喫茶店、バーといった業態では、ドリンクが売上の中で高い割合を占めることを前提に設計されているので、ドリンクを注文してもらわなければ経営できません。

料理は注文できる数や食べられるボリュームに限界がありますが、ドリンク、それもアルコールドリンクであれば何杯でも飲めます。アルコールドリンクでは、ビールのように利益率が低いものから、ハイボールやサワーなどのように利益率が高いものまであり、ソフトドリンクであれば、手の込んだモクテルやブランドのコーヒーや高級茶でない限り、原価率が低くて利益が多いです。

ドリンクはものによって幅はあるものの、平均的にフードよりも利益率が高い上にすぐ提供できるので、優秀な商品といえます。全体的に利益率が高い上に何杯も飲んでもらえるアルコールドリンクは、飲食店にとってかなり貴重な商品です。

料理とドリンクのマリアージュ

飲食店で食べ物だけを食べたいという考え方は理解できます。お金を節約したかったり、飲みたいものがなかったりして、ドリンクのオーダーに気乗りしない場合もあるでしょう。

ただ、飲食店であれば、シェフがお酒に造詣が深かったり、ソムリエが料理とお酒のマリアージュを考えていたりするものです。プロフェッショナルが考えた組み合わせの妙味を味わってみるのは、価値ある食体験になります。アルコールドリンクだけではなく、ノンアルコールドリンクであっても同様です。

お酒をはじめとしたドリンクを組み合わせれば、食べ物はよりおいしく感じられたりします。アラカルトであれば、注文する料理に、どのドリンクが合うかを考えるのも楽しいです。白ワインか赤ワイン、日本酒か紹興酒かなど、何を選ぶかによっても、料理の印象はだいぶ違います。何がよいか思い浮かばなければ、スタッフに訊いて、人気のドリンクや料理によさそうなものをチョイスしてもらうのがよいでしょう。

アルコールドリンクであればもちろんのこと、ノンアルコールドリンクであったとしても、少しでも安い1杯ではなく、その料理と相性のよいドリンクを楽しんでもらえることをお勧めします。

テーブルウェアやコミュニケーション

アルコールドリンクを飲む際に、自宅で取り揃えられないワイングラスなどの酒器が使えるのも、貴重な体験です。オーストリアのロブマイヤーやリーデル、ザルト、ドイツのツヴィーゼル、フランスのバカラといったグラス、江戸切子や有田焼などの酒器で、お酒を飲めるのは優雅なひと時であるといえます。

同席者と、料理だけではなくアルコールドリンクでも感想を共有できるのも、また一興です。コミュニケーションの幅も広がり、絆もより深まります。

ポジティブに捉えてみる

こだわりがある飲食店であればあるほど、アルコールドリンクはもちろんのこと、ノンアルコールドリンクにも力が入れられているものです。もしも、アルコールドリンクが飲めなかったり、ノンアルコールドリンクをできるだけ飲みたくなければ、フォーマット化されたチェーン店やカジュアルな飲食店に訪れればよいだけです。

ただ、ここまで述べてきたように、ドリンクを注文することによって、よりよい食体験を紡ぐことができます。アルコールドリンクかノンアルコールドリンクにかかわらず、ポジティブに捉えてみて、飲食店のこだわりのドリンクを色々と試してみていただきたいです。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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