ローカル局がWEBメディアを持ちはじめた
キー局で盛んになってきたネットでの情報発信
このところ、あらためて「若者のテレビ離れ」の加速を伝えるデータが発表され話題になった。
そのためか、テレビ局はTVerに代表される見逃し配信サービスに力を入れ、ネットを通じた若者の視聴獲得に力を注いでいる。その一方で、ネット上での独自の情報発信にも力を入れてきた。そこでは、番組映像だけでなく、テキストと写真を駆使した「記事」形式で情報が展開される。つまりテレビ局はいま、WEB上で「メディア」としての形を整えはじめているのだ。
在京キー局は、会社としてのWEBサイトと別にWEBメディアを展開しいる。
日本テレビ「日テレTOPICS」
テレビ朝日「テレ朝POST」
TBS「TBS Topics」
テレビ東京「テレ東プラス」
フジテレビ「フジテレビュー」
これらはよくよく見ると少しずつ編集方針が違う。番組の宣伝的な情報を置いているだけのところもあるし、独自の記事も含めて番宣にとどまらないまさに「メディア」を目指すものもある。比べてみると姿勢の違いがわかるだろう。
在京キー局はこうしたWEBメディアを持つことで、テレビ離れが加速する若い世代とのネットでの接点をつくろうとしているのだ。ネットではテレビ番組発の情報が拡散されることも多く、その発信源を自ら持つことでなんとかテレビ番組への興味を盛り上げたいのだろう。
この動きは在阪キー局でも見られる。
読売テレビ「読みテレ」
毎日放送「MBSコラム」
関西テレビ「カンテレTIMES」
在阪キー局も自社制作でゴールデン・プライム枠で放送する番組、深夜のオリジナル番組を持ち、「ネタ」は豊富だ。在京・在阪キー局がWEBでもメディアを持とうとするのは自然な流れと言えるだろう。これからますます見逃し配信の収益化が求められるからこそ、ネットでの情報発信は会社としての経営課題にもなるはずだ。
ローカル局でもWEBメディアの事例が生まれている
一方ローカル局では自社制作番組の数が少ない。「ネタ」が少ない分キー局のようなネットでの情報発信は難しいのだが、果敢にWEBメディアに取り組むローカル局が出てきている。「sodane」のサイト名で情報発信を続けている。
「水曜どうでしょう」関係のコンテンツもあるのだが、それは一部だ。番組関連の記事がある一方で、独自の記事も様々に展開している。
人気シリーズの一つが、編集長の阿久津友紀氏が書いている乳がんについての記事だ。阿久津氏は乳がんについて追っていたところ自らも乳がんを患い、自身の経験も含めて長期的シリーズ記事を書いている。
ニュースの中のコーナーで伝えたり、ドキュメンタリー番組になったりしており、放送やYouTubeとも連動した記事だ。日本中の乳がん患者が読んでくれているようで、感謝たちへの福音の役割を果たしている。
「sodane」には他にもサウナ好きのサウナー社員の連載もあるなど、コミュニティの集合体のような構造だ。北海道の情報も含めて放送エリアを超えて人々との接点となっているようだ。
「sodane」のコンセプトは「北海道の地域と世界を結ぶ種になる」。ロゴの中の「d」の文字から芽が生えているのは、まさに「種」を表現している。「sodane」の記事とYouTubeの動画を連動させたコミュニケーションにも取り組んでおり、そこには新たな広告手法も見えてきている。
テレビ局がWEBメディアとなることで、人々とのコミュニケーションも、広告ビジネスも、幅が広がる可能性がありそうだ。
ローカル局のWEBメディアの事例は北海道テレビだけではない。
福岡のRKB毎日放送は「RKBオンライン」を昨年スタートさせた。
YouTubeチャンネル「RKBオンライン」と連動させ、トップページにチャンネルのコンテンツを配置しつつニュースの見出しも配信している。報道とエンタメが混在する「テレビ」らしさの表現だろう。
同局は昨年の70周年を機に「Be colorful」という企業スローガンを展開しているが、「RKBオンライン」もそのコンセプトに則っていると考えて良さそうだ。
やはり昨年WEBメディア「ひろしまリード」を立ち上げたのが広島県の広島ホームテレビだ。
こちらは逆にニュース記事は置かずにエンタメ情報に徹している。「広島をもっと楽しもう!エンタメウェブマガジン」のタグラインでコンセプトを表明している。
地域の一次情報を発信するローカル局の役割は、東京発が多いネットメディアの世界でも重要になるはず。毎日放送するニュースや情報を、放送で終わらせず多くの人に届けることで地域メディアの使命を果たしたいとの発想でWEBでのコミュニケーションを整理。元々の企業サイトではニュースメディアの機能を再強化した一方、それと併せてエンタメ情報に特化して生まれたのが「ひろしまリード」だった。
名古屋にあるCBCテレビもこの春、WEBメディアを立ち上げている。既存の企業サイトを「CBC web」の名でリニューアル。こちらはニュース・スポーツ・エンタメと様々な分野の同局のコンテンツが渾然一体となって置かれている。
愛知県だけでなく、岐阜県、三重県も含む放送エリアのニュースポータル的な側面と、名古屋局の中でも力を入れている中日ドラゴンズの情報や今やほぼ全国区となった午後の情報番組「ゴゴスマ」、そしてアイドルやアニメも含むエンタメ関連など、玉手箱のように多様に詰まったメディアとなっている。
これらのローカル局のWEBメディアはいずれもまだ始まったばかり。スタッフも兼務が多く、”走りながら考え”て運営している最中のようだ。もちろん、収益面では試行錯誤の段階で、激減するCM売上をカバーするレベルではないだろう。
だが地域の人々のための情報インフラとして、そして地域の企業と人々を結ぶ新たなエコシステムとして、これから必要欠くべからざる存在になるはずだ。音楽や出版の分野ではいつの間にかデジタルの成長が収益全体の柱になりつつある。テレビ局にとっても同じような局面はいずれやってくるにちがいない。
その日のために、ローカル局はいまから走り始めるべきではないだろうか。放送エリアのために、放送とは違う伝達経路でも頑張るのは、公共性の意味でも必要な努力だと思う。
〜「テレビ局のWEBメディア」をテーマにしたウェビナー(6/29)