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猛暑でエアコンの電気代が心配 冷凍食品を取り扱う倉庫や物流センターも電気料金高騰で冷や汗の昨今

森田富士夫物流ジャーナリスト
アイスの温度管理は大変(写真:イメージマート)

 今年の梅雨明けは全国的に早かった。そして連日のように猛暑が続く。

 総務省消防庁によると、6月27日から7月3日までの1週間で熱中症によって緊急搬送された人は全国で1万4353人(速報値)にものぼる。昨年の同じ期間は1300人(確定値)だったので、今年は昨年の約11倍にもなっている。

 熱中症予防対策には、こまめな水分補給や、室内では扇風機やエアコンなどによる温度調整が必要。だが、今年は電気料金が高騰しているので、電気料金の支払いが大変という人が多いと思う。

 電気料金の高騰は様々な分野に影響を及ぼしているが、ここでは物流面での影響を見ることにする。電気料金高騰の影響が大きいのは、低(定)温管理が必要な冷凍食品などを取り扱っている倉庫や物流センターだ。

2021年の冷凍食品の国内消費は前年比2.3%増で1人当たり年間消費量は23.1キログラム、これら冷凍食品の品質管理には大きな冷凍機が不可欠

 日本冷凍食品協会によれば、2021年の冷凍食品の国内生産は159万6214トンで、前年比2.9%の増だった。同協会では、冷凍食品国内生産量と冷凍野菜輸入量および調理冷凍食品輸入量の合計を冷凍食品の国内消費量としている。それによると2021年の冷凍食品国内消費量は290万4746トンで、前年比2.3%増。これを国民1人当たりに換算すると23.1キログラムになる。ただし、調理冷凍食品の輸入量は同協会員だけを対象にした調査なので、会員以外の輸入量を加えると290万トンを上回るとしている。さらに今年は猛暑でかき氷系のアイスなどの消費量が昨年より増えるものと予想される。

 これらの冷凍食品を冷凍倉庫で保管したり、物流センターで出荷作業を行い、小売店や外食産業の店舗などに輸配送しているのが冷凍倉庫業者や冷凍輸送事業者だ。商品によって求められる温度に違いがあるが、倉庫や物流センターでは冷凍機で温度を保って品質管理をしている。この冷凍機に使用する電気料金が高騰して事業者の経営に影響を及ぼしている。

 日本冷蔵倉庫協会は6月24日、「電気料金高騰に伴う倉庫料金に関するお願い」という文書をホームページにアップした。それによると「新電力を含む各電力会社が電気料金プランを見直したことにより」電気料金の値上げが相次いでいる。その結果、冷蔵倉庫業界における「支払い電力料金の上昇分は前年比で30%を超えたと推定され」、さらに「中には給配電会社の高額料金を受け入れざるを得ない事業者」もあり、「事業者によっては50%超の値上がりになっている」としている。30%と50%ではかなり開きがあるが、なぜこのような差があるのだろう。

 電気の供給側にはエリア電力会社と新電力会社がある。新電力会社の中でも力のある事業者は電力会社から直接電気を買って需要者に販売しているが、JEPX(日本卸電力取引所)から電気を買って販売している新電力会社もある。これら新電力会社の中には倒産する会社も出てきた。帝国データバンクの調べによれば2021年度に倒産した新電力会社は14社で、過去最高となっている。

 そこで物流事業者間の値上がり幅の差だが、第1には業務用の電力契約は内容が複雑なことだ。電力供給側のエリア電力会社も新電力会社も、契約は基本料金と使用料金が基本で、さらに使用料には燃料調整費(電力会社が調達している燃料価格の変動を反映)や時間帯割引、その他があって複雑である。第2は電力需要側の物流事業者の施設条件(冷凍機使用環境など)が様々なことである。たとえばドアの開閉が少ない純粋な保管と、ドアの開閉が多く荷物の移動も頻繁な条件下では、同じ温度を保つにも冷凍機の設定温度が違う。また、商品によって求められる温度も違う。さらに新しい冷凍機ほど省エネタイプで電力消費量が少ない。

電力会社との様々な契約と電気料金上昇の現状、今秋の契約更新時から「2倍」の値上げ要請をされている事業者も

 冷凍倉庫のコストに占める電気料金の比率はどれぐらいか。あえて目安を示すなら「電気料金が値上がりする以前で、冷蔵倉庫のコストの10%前後が電気料金」(業界関係者)という。だが、これはあくまで目安であり、具体的には各事業者の状況を個別に見なければ実態は分からない。

 各事業者の契約内容と電気料金高騰の現状を見よう。冷凍冷蔵倉庫業だけではなく、物流センターの運営や輸配送もトータルで行っている大手事業者の実態だ。

 ある事業者は「全体平均で昨年6月と今年6月では36.9%のアップになっている。昨年度の第1四半期(4~6月)と今年度の第1四半期で見ると40.7%アップ」という。なお、同社では売上対比の電気料金の構成比が「昨年6月単月が4.8%、今年6月単月は6.0%まで上昇している」。

 「現在の電気料コストは保管料の20%を占めている。1年前には12%から13%だったので大幅アップ」という事業者もいる。この事業者は自動倉庫も多い。自動倉庫ではスタッカークレーンなどを使うので、冷凍機以外にも電気を多量に使用する。「一般倉庫より自動倉庫では1割から2割ぐらい電気使用量が多い」。

 さらに、電力会社との契約更新が迫っている事業者にとっては大幅値上げになることが予想される。「電気料金は2年ないしは3年契約なので、契約更新を迎えるのは2、3年前に契約したもの。当時、新電力会社は新規契約を増やそうと勢いがあった。他方のエリア電力会社も従来のテリトリーを超えて積極的に拡大しようと価格競争が激しく買い手市場だった。だが、現在は状況が一変して売り手市場になり、割引を撤廃して使用料も上げてくる」といった状況。

 そのような中で、今年4月から契約改定した事業者がいる。同社は2年前に全国の電気料金を一括契約にした。「一括契約にして割引率を大幅に変えた。また、この間は燃料調整費(3カ月スパンで変動)がずっとマイナスだったが現在はプラスに転じた」。その契約を4月から改定し「全体的に見ると前年5月と今年5月では55%のアップになっている」。さらに同社は難問を抱えている。2年前に全国一括契約にする際、あるエリア電力会社だけ価格が折り合わず、そのエリアだけは新電力会社と契約した。その契約期限が9月に迫っていて、「すでに基本料金、使用料金とも2倍ぐらいの金額を提示してきている」というのだ。

冷凍物流事業者たちの電気コスト削減努力とその限界、今年度下期ないしは来年度から電気料金高騰の価格転嫁が必須の課題に

 契約形態は様々で複雑だが事業者たちはその契約内でコストダウンの努力をしている。たとえば、消費電力量を計画的にコントロールし、30分単位で消費平均値を出して最大電気消費量(上限)で料金が違ってくるデマンドコントロール契約をしている事業者は、電力量の監視や調整を通して料金節約に努めている。

 また、ある事業者は「電気料金の安い夜間に電気を使うようにしている。定期的に冷凍機の霜取りをするが、そのための加温に多量の電気を消費するので、霜取りは夜間にする」。

 保管温度を低温にするほど電力消費が多くなる。たとえば「200坪の冷凍倉庫で摂氏(以下同)-20度から-25度に温度を下げると、電気料金が月30万円から50万円違ってくる」という。夏場と冬場では外気温が違うので同じ温度を保つにも冷凍機の電気使用量が違うため金額差も大きい。

 このように温度を何度に保つかで電気使用量に差があり、また時間帯で割引率が違う。ある事業者は「電気使用料が安い夜間に冷やし込んでおく」。たとえば-25度の商品の場合、電気料金の安い時間帯に-26度や-27度ぐらいまで、品質に問題のない範囲内で冷やしておき、電気料金の高い時間帯に冷凍機の温度設定を緩めても-25度を保つようにしている、というのだ。

 このように商品の品質保持と電気料金高騰の狭間でコスト削減の工夫・努力をしている。だが、コスト削減にも限度がある。商品の品質管理が第一だからである。

 たとえば、コンビニなどで売っている袋に入ったぶっかき氷は-30度で管理しているので電力がたくさん必要だ。しかし「商品の販売価格が安いので物流コスト負担力が弱く、-20度の冷凍食品などと比べて収益性が低い」のが実態だ。そのため電気料金が高騰するほど収受する料金とコストとのギャップが拡大している。

 このように事業者のコスト削減努力にも限界があり、ある事業者は「今年度下期の10月から料金改定をするために、これから荷主と交渉を開始する予定」という。その他の事業者も、保管料は電気料金高騰のコスト転嫁として、荷役作業料は人手確保のための人件費上昇で、輸配送料は軽油価格高騰に対する燃料サーチャージで交渉していかなければならない、としている。

物流ジャーナリスト

茨城県常総市(旧水海道市)生まれ 物流分野を専門に取材・執筆・講演などを行う。会員制情報誌『M Report』を1997年から毎月発行。物流業界向け各種媒体(新聞・雑誌・Web)に連載し、著書も多数。日本物流学会会員。

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