夏の甲子園始まる。酷暑下での対策が弥縫策に止まるなか心配される「最悪の事態」回避を願いつつ
全国高等学校野球選手権大会(通称「夏の甲子園」)が始まりました。酷暑下のもとタイトな日程で18歳以下の男の子を激闘させる「感動」のスタートでもあるわけです。放映するNHKが暑さ指数を示して危険を喚起する短いニュースを流した直後に切り替わる画面に映る「熱戦」というシュールな光景が当たり前のように伝えられる日々でもあります。
主催する日本高等学校野球連盟(高野連)と全日本大学野球連盟で構成する日本学生野球協会の憲章には「基本原理」の1つとして「部員の健康を維持・増進させる施策を奨励・支援し、スポーツ障害予防への取り組みを推進する」を明記。阻害要因を少しでも除く責務があるはずです。
近年および今大会から導入された「クーリングタイム」「ベンチ入りメンバー増」「休養日」「タイブレーク」「球数制限」「継続試合」は負担軽減策とされるもいずれも中途半端。朝夕2部制は見送られ、甲子園球場以外の併用は見向きもされないありさま。起こってほしくない「最悪の事態」なしで無事終えるのを願いつつ逐次言及していきます。
「クーリングタイム」は文字通りの焼け石に水
暑さ対策を考慮するならば「甲子園で夏の大会を開くべきではない」というのが筆者の見解です。詳しくは7月に執筆した「暑さ指数『運動は原則中止』でも強行される高校野球地区大会。甲子園より怖い予選ならではの理由と対策」をご覧下さい。
現在では珍しい南向きでプロ野球の本拠地では唯一の「内野が土」。しかも、すり鉢形で熱がこもりやすい形状と野外球場のなかでも最も暑くなるからです。
酷暑の時間を避けて朝夕に分ける2部制は今年も検討されたものの見送られてしまいました。観客交代時間が確保できないのが最大の理由とか。いやいや最大の課題は選手の体調でしょう。
代わりに取り入れた「クーリングタイム」は5回が終わったら取れる最大10分の休息。そこで身体を冷やしたり水分の補給するのですが文字通りの焼け石に水。暑さ指数28~31(気温31度以上に相当)だと「10~20分おきに休憩をとり水分・塩分の補給を行う」が日本スポーツ協会が定めた「熱中症予防運動指針」だから。主催する高野連が協会未加盟だから構わないという話でもありません。独自の基準を出すべきです。
なぜベンチ入り以外の登録選手を認めないのか
もう1つの対策である「ベンチ入りメンバー2人増」(計20人)も弥縫策といわざるを得ません。甲子園の本大会は20人を開会式前日までに確定しなければならず、期間中(6日?22日)にけが人などが出ても補充できない点は変わらないからです。
高校サッカーやラグビーの全国大会はベンチ入り以外の登録選手を数人認めていて開催中、試合ごとにメンバーを入れ替えられます。
憲章にある「部員の健康を維持」「スポーツ障害予防への取り組み」を鑑みれば同じ措置をなぜ取れないのか不思議でなりません。
甲子園が「聖地」ならば「花園」「国立」「神宮」も同じ
6日から22日までの過密日程(17日で48試合)をたった1つの球場で開催するのも健康への配慮からいかがなものかと。
このレギュレーションだと試合数が多い1・2回戦で1日4試合をこなしても9日間も費やしてしまいます。その分だけ3回戦(16強)以降の日程が窮屈となり、最短で中1日。準々決勝(8強)も休養日の1日のみとなるチームが出てくるのです。準決勝、決勝は休養日のみの中1日で開催。決勝進出チームは8日間で4試合を戦うのです。
仮に1・2回戦を甲子園球場以外で分散させたらずいぶんと楽になります。初日の開会式と3試合は仕方ないとして2日目以降を3会場とすれば9日が4日に、2会場でも5日に短縮できるのです。
甲子園こそ聖地。せっかく予選を勝ち抜いてきたから皆そこでやらせてあげたいという意見は理解できなくもないものの、健康には代えられません。それに聖地というならば高校ラグビーは「花園」でサッカーは「国立」だけど1・2回戦は別会場を使用しているのですから。「神宮」しかあり得ないはずであった全日本大学野球選手権も05年から雨天順延による日程のタイト化を防ぐため東京ドームを併用しています。
NHKから放映権料を取っても商業利用にはならない
ここで問題となるのが1・2回戦の過密化と使用料負担。何しろ甲子園は無料。ただ都道府県予選は使用料を支払っているし、公営ならば1試合(約2時間)数千円程度。大阪ドームを使うと高いとはいえ目をむくような金額でもありません。
どうしてもというならばNHKから放映権料を取ればいい。今は無料です。高校野球に興味がない方や郷土チームの試合しか関心がない者からすれば受信料を使うなどもっての外と反論されるかもしれません。でも、現に無料で全試合を放映している理由は「公共放送の使命」ゆえのはず。ならば若干の負担はあってもいいとの道理が成立しておかしくないわけです。
憲章が高校野球を「教育の一環であり」「商業的に利用しない」とするから放映権料はもらえないという声も散見するも、何もかもタダで運営しているわけでもなし。既に入場料は取っているし受益者からの補助金も高野連は得ています。
予選試合数の違いを勘案する方策
1・2回戦の過密化は49チームという出場校の数と密接に関係するのです。
全部トーナメントだから本当は32チームがやりやすい。でも47都道府県が存在するのはどうしようもない。ならば別段都道府県代表にこだわらなくても、とも思いますが今回はそこはスルーしておきます。
32に収斂するために49チーム中15は初戦が2回戦で残り34が1回戦で17と半減して15+17=32となる格好です。現行だと最も遅い1回戦(5日目)の次戦が中3日。3会場に分散すると中1日となる、といったあたり。
ここは今は単にくじ運の「1回戦スルーの15チーム」を予選の実情に合わせて選べば相当に解決するはず。都道府県単位ゆえ予選の試合数が甚だしく異なる現状があるから。最少の鳥取県(23チーム)予選は4試合に対し最多の愛知県(173チーム)はノーシードからだと8試合。疲労度を勘案した組み合わせがあっていいはずです。
「休養日」消滅はむしろ当然
21年から3回戦終了時点より3日間置かれた休養日も甲子園が野外球場ゆえ雨天順延のあおりを受けて消滅してしまう事態が発生しています。17日で数日雨が降って試合ができなくなるのはむしろ当然。やはり「全試合甲子園」を貫く限り今の日程で特効薬にはなり得ないのです。
わざと創出された大ピンチに対応させられる「タイブレーク」
今大会から10回からに短縮されたタイブレークも地方予選を見る限り、確かにイニング延長は短くなったものの直ちに負担軽減とも言い難い。無死一・二塁の状態を人為的に作り出して点を入りやすくさせる=決着がつきやすいという制度で半ばサッカーのPK戦にも似ています。
接戦のまま6回終了前後から昨年(13回から)にはなかった重圧が明らかに両チームへのしかかり全選手へ焦燥感が立ちこめていたのです。わざと創出された大ピンチに対応しなければならず体力的にも精神的にも大きな負担となります。第一、タイブレーク導入が選手の健康管理の切り札にならないのは広く知られていて「やはり球数制限」の声は大きい。
「1週間の球数500球」は実質投げ放題
そこで20年から「1週間に投げられる総数が500球以内」と変わっています。問題はこの「500球」。
大いに注目される3回戦(10・11日目)から決勝(17日目)までがちょうど1週間。4試合あります。1人の投手が1試合120球投げても480球。これで負担が軽減されるでしょうか。
また1回戦から最もタイトな日程をくじ引きしてしまった場合、1週間以内に3試合をこなします。決して「決勝まで進む名門チームだけの措置」ではないのです。
実質投げ放題の「500球」について自ら甲子園で投げまくった経験を持つ桑田真澄氏も「まったく意味がない」と切り捨てています。
反対に1試合ならば500球投げていい、2試合でも250球までOKとも解釈される難も抱えているのです。
継続試合も場合によっては負担増
22年から導入された継続試合制度も場合によっては選手の負担増になり得ます。
延長引き分け再試合や降雨によるノーゲームならば継続試合は負担減となりましょう。ただ引き分け再試合はタイブレーク導入で実質的に消滅。
半面で7回終了時点で成立していた降雨コールドはなくなって別日に最後までやり切る必要が出てきてしまうのです。
そもそも何で甲子園では点差によるコールド試合がないのでしょうか。どうやら「とことん試合させてあげたい」という球児への思いとされています。でもこの「とことん」こそ炎天下で過酷な環境を強いる動機の最たるものではないでしょうか。
点差によるコールドは都道府県予選では当たり前のように行われています。予選は「とことん試合させて」もらえない制度で甲子園は別とする理由が知りたい。甲子園出場チームは49で予選は約3500。大半が「とことん」させてもらえない制度下に置かれているのです。高校球児には変わりがないのに。