「侍ジャパンだけではないWBC」第4回 運営面での課題 - ハタ迷惑?な応援、観客の熱さの温度差
来月のロサンゼルスでの決勝ラウンドで、個人的に注目したいことの一つがスタンドの様子だ。2013年のサンフランシスコでは、「これがアメリカのボールパークか?」と思わせるような光景に出くわしたからだ。
それは、侍ジャパンサポーターによる外野席での統制された鳴り物応援であり、ドミニカやプエルトリコの人々が席の上に立ち歌い踊りまくる姿だ。これらが、「世界の応援スタイル」をスタンドに実現しようとする主催者の意図に基づく計画的なものなのか、自然発生したものなのかは分からない。しかし、WBCが米国内での人気面でやや苦戦を強いられていることを考慮すると、さもありなんだ。
特に印象的だったのが、準決勝の日本対プエルトリコ戦だった。日本応援団が「稲葉ジャンプ」を披露すれば、プエルトリコサポーターはカウベルを鳴らし、ラッパを吹き、プエルトリコの旗を振りかざしながら、サルサを踊っていたのだ。中には日本語も結構操れるファンもいたようで、「オネガイシマスゥー」、「スイマセーン」というような意図不明の野次もぼくの席の周辺では飛び交っていた。
しかし、日本式の応援スタイルは、現地では好意的には捉えられてはいなかった。日本戦翌日の地元紙『サンフランシスコ・クロニクル』は、スポーツ面のトップで、『Party at the ballpark』(球場でのお祭り騒ぎ)というタイトルでシニカルに報じていた。「試合展開に関係なく、決まったコールを送り、飛び跳ねる」とは辛らつだ(事実ではあるが)。
また、中南米スタイルの応援には困惑を隠しきれない地元の観客も多かった。実はぼくも迷惑を感じたのだが、すぐ隣でのべつまくなし大声をがなり立てられるのには閉口したし、始終立ち上がって旗を振り回されては視界が妨げられてどうしようもなかった。ぼくの近くに座っていた地元の上品な老夫婦(見るからにアスレチックスではなくジャイアンツを応援してそう、と言えばわかる方には理解していただけるだろう)は、係りのオジサンに「迷惑だから止めさせてくれ」と頼んでいたが、しっかり断られていた(このことが、主催者が意図的にスタンドを世界応援博覧会にせんとしていたのでは、とぼくが勘ぐる理由だ)。
このこと(係りのオジサンが周囲に迷惑な観客を規制しなかったこと)の特異さを理解していただくためには、アメリカの球場での観戦マナーについて知っていただく必要がある。例えば、日本とは異なり、インプレー中にスタンド内の通路をうろつくことは禁じられているのだ。他の観客の視界を妨げるからだ。たとえば、トイレで用を足し席に戻ろうとしても、インプレー中はコンコースで球場スタッフに制止させられる。そして、プレーが終わるとスタンドの通路に入れてくれるのだ。この点は、いつでもスタンド内を歩き回れるNPBとは決定的に異なる(ちなみにそれが嫌なぼくは、NPBを観戦する際には、なるべく通路から離れた席を求める。たとえオシッコに行くのが一苦労でも)。
また、前回のサンフランシスコでは、球場内にもうひとつWBCの課題を感じさせる様子があった。それは、ファンの熱さの格差だ。侍ジャパン応援団や、中南米チームのサポーターは大興奮で観戦していたのだが、場内には、売れ残ったチケットが主催者によりディスカウント販売されたため、「それならちょっと見に行くべ」という緩~い観客も少なくなかった。彼らは終盤になると、「道が混む前に帰ろうぜ」という感じでどんどん球場を去っていったのだ。すると、ゲームの決着はまだ付いていないにもかかわらずスタンドには空席が目立ち始め、フィールド上の熱戦を少なからずスポイルした感は否定できなかった。
また、この球場は海のそばと言うこともあり、観客が減ってくると大量のカモメが食べ残しを狙い、飛来して来た。ガラガラになったスタンドにカモメが降り立つ様は、それこそヒッチコックの『鳥』ではないが、不気味だった。
「侍ジャパンだけではないWBC」第2回 不人気によるチケットの迷走