日本人メジャーリーガーがWBCを回避する要因に「NPBの究極としての侍ジャパン」がある?
WBC開幕まであと一か月だ。
今回は、アメリカがいつになくスター選手の招集に熱心な印象があるし、前回優勝のドミニカを筆頭に、プエルトリコ、ベネズエラといった中南米の強豪国からはメジャーリーガー参加の報が続々寄せられている。
しかし、わが侍ジャパンは、結局メジャーリーガーはアストロズの青木宣親のみ。2013年の前大会との合計で一人しか参加しないことになった。
WBCに掛ける熱意は業界、ファンとも明らかに世界一だけに、意外であり残念でもある。どうして、日本人メジャーリーガーはWBCを回避する傾向にあるのだろうか。もちろん、巷で言われているように契約面での思惑や故障のリスクも影響しているのだが、それは他国出身のメジャーリーガーも同じことだ。ここでは、心理面に絞って考察してみたい。
まずは、メジャーリーガーに限らず日本人特有の組織の意向に必要以上に配慮してしまう傾向があるだろう。今回などは、明らかにMLB内に「選手の出場希望を制限するな」という力が作用していると思われるが、球団側が「ぜひ出て欲しい」と思っているわけではないはずだからだ。日本人は「空気を読む」ということだろう。
そして、これまた日本人特有の「右に倣え」もあると思う。前回にせよ、今回ににせよ、例えばダルビッシュ有あたりが早々に参加表明していたら、他の選手の動向も異なったものになったのではないだろうか。中には今回の青木のような選手もおり、彼の意気たるや壮であると賞賛したいが、他の日本人選手に影響を与えるほどの存在ではなかった、ということだろう。
最後は、「出る意義を見出し難い」ということではないか。多くの日本人メジャーリーガーにとって、「侍ジャパン」にはせ参じることは、格下組織に降りて行くことだ。WBCが開催されるごとにナショナルチームを編成するということであれば、たとえ数の上では少数派であっても、メジャーリーガーは間違いなくその編成において中核となる。彼らを中心にチームが成り立つのである。実際、中南米諸国はこのパターンだ。
しかし、2012年に日本代表として常設された「侍ジャパン」は基本的にNPB(と日本のアマ球界)で成り立っている。多くのNPB選手にとって、侍ジャパンに選出されることは野球選手として大きな名誉だし、そこで目覚ましい活躍を見せるとメジャーのスカウトたちからも熱い視線を集めるかもしれない。実際にはメジャーに渡る意向がなかったとしても、明らかに野球選手としての箔が付くことだ。
しかし、「究極の日本代表」としてしっかり認知されればされるほど、そこにメジャーリーガーが参加することは、ある意味高校生がリトルリーグに飛び入り参加するような「大人げない」行為になってしまった部分はあるだろう。いわんや、花のメジャーリーガーが、まかりまちがって、そこでレギュラーポジションや先発ローテなどの役割をNPB選手に奪われるようなことがあっては沽券にかかわる、というものだ。これは、米球界で、球宴での本塁打競争への参加を、多くのスラッガーたちが回避していることと共通点があると思う。すでに、超一流のホームランバッターとしての地位を確立している選手にとっては、「勝って当たり前、あっさり敗戦しては赤っ恥」なのだ。
「侍ジャパン」が定着しビジネス面でもそれなりに成功していることは、大いに評価されるべきだ。しかし、「日本球界の究極」としてこのナショナルチームのアイデンティティがしっかり確立されることにより、メジャーリーガーを遠ざけてしまった側面もあると思う。そもそも、「日本人メジャーリーガー」とは、「日本の枠を超え、海を渡った」人たちなのだから。
彼らとて、「日の丸を背負って戦う」のはとても意味のあることだと思う。しかし、ここに挙げた心理の存在は否定できないのではないか。