Yahoo!ニュース

700系ラストラン中止、利用減、定期券払い戻し 新型コロナウイルスで鉄道はどうなる?

小林拓矢フリーライター
ラストランが中止になった東海道新幹線700系(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

 混雑しているはずの電車も、余裕で座れる。さすがに通勤ラッシュ時には難しいものの、それでもいつもより人が少ない。新型コロナウイルスの影響は、鉄道にもさまざまなダメージを与えている。ダイヤ改正前の700系ラストラン中止など、事態は大きな局面をむかえている。

すでに利用減がおこっている

 JR東海は2月20日、東海道新幹線の2月に入ってからの利用者数が前年同期比で8%減少したと発表した。JR東日本新潟支社は、2月25日までの上越新幹線と特急列車の利用者数が前年同期比10%減と発表。29日に行われた安倍首相による「全校休校」の記者会見以前から、新型コロナウイルスに対する多くの人の不安は高まり、それが多くの人が移動しない、つまり鉄道を利用しないという行動に直結してしまった。

 多くの企業では、通勤ラッシュ時の感染を避けるため、あるいは事業所内での感染を避けるため、テレワークを推奨し始めた。出張なども行われないようになった。そういう状況の中で、鉄道の利用者自体が減少していった。

 感染拡大の防止という面では、効果的だろう。ただし、鉄道事業者は通勤ラッシュに備えて多くの人を運べるようにダイヤを組んでおり、そのぶんは輸送力を過剰にしてしまう。またダイヤもかんたんに変えられるものではなく、組み直すということは困難だ。

鉄道で働く人にも影響が

 JR東日本で働く駅員が新型コロナウイルスに感染したというニュースもあった。鉄道事業者では、消毒液の使用やマスクの着用など、平常通りの運行のために対策が行われている。しかし事業者によっては、運転士の間で新型コロナウイルスが広まった際にどのような対策を取るかを検討しているところもある。『東京新聞』2月22日夕刊によると、西武鉄道・東武鉄道・京王電鉄・相模鉄道が人員不足に備え、運行本数の削減を検討しているとのことだ。欠員の状況によっては、その状況にあわせた運行となるという。その場合は、おそらく現行のダイヤから列車を一部運休させるという形で運転を行うことになるだろう。

 多くの鉄道事業者では、ぎりぎりの人員で鉄道を動かしている。万が一鉄道事業者の中で感染が広がった場合、鉄道を動かせなくなるということもありえるのだ。

 鉄道現場の業務用スペースは狭く、人と人との距離が近い。とくに運転士や車両の詰所などは、駅舎やホームの一部に設置されており、外から見ても窮屈そうだ。こういった環境は感染の原因となりやすく、特定の事業者から感染が一気に広まるということも予想できる。そうならないための対策を立てているものの、前例のない新型コロナウイルスのため、どうなるかは未知の領域である。

700系ラストランなどの鉄道イベントも中止

 2月の終わりころには、各鉄道事業者からイベント中止のプレスリリースが出され、鉄道博物館などの施設も休館し始めた。

 JR東日本は、伊豆急下田駅で行う251系「スーパービュー踊り子」の引退記念撮影会を中止した。

 JR東海は、3月8日の臨時列車のぞみ315号「ありがとう東海道新幹線700系」を運休、東京駅と新大阪駅での記念式典も中止した。700系のラストランは行われないことになり、記念品は後日引き渡しとなった。

 今後予定されているイベントも中止・延期になる可能性が高い。高輪ゲートウェイ駅開業を記念した「Takanawa Gateway Fest」は、開催延期だ。3月14日のダイヤ改正により、常磐線の全線復旧や新駅開業などが行われるものの、式典などが行われるか、あるいは縮小するかということはまだわからない。

 クルーズトレインにも影響が出ている。JR九州では、「ななつ星in九州」が3月は運休する。JR西日本では、「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」を2月29日より3月16日発のものまで運休とする。

通学定期券の払い戻しの影響は?

 安倍首相の方針により、日本全国の小中高がいきなり休校になったため、鉄道事業者はその対応に追われた。3月2日から全国の学校がいっせいに休校するため、各事業者は2月の26日~29日まで(事業者によって異なる)定期券を利用したものとして払い戻しを行うという発表をしている。どの定期券が払い戻しになるのかということは事業者によって異なるものの、いきなりの「全校休校」により多くの事業者がそれ以降のぶんを払い戻しの方針を打ち出している。

 とくに早かったのがJR北海道だ。鈴木直道北海道知事が2月27日からの全道休校を打ち出してから28日には方針を示した。一方その28日には鈴木知事は「緊急事態宣言」を行い、外出を控えるよう呼びかけた。

 ローカル区間での通学定期券の利用者が多いJR北海道は払い戻しを行わなければならない。かつ外出が減ると特急などの鉄道利用も少なくなるため、運賃や料金の収入が減る。そうなると鉄道維持のために必要な資金の心配も出てくる。

 上場している大きな事業者の株価も急落する状況の中、中小私鉄や第三セクターは通学利用が主であるためか、払い戻しによる影響も大きい。JR北海道も似たような状況に置かれ、今回の新型コロナウイルスによるダメージは大きいと考えられる。資金が流出し、一方で収入が得られにくいという状態は事業者にとっては厳しい。資金が回っているから事業が維持できているという側面もある。

 利用減、人手不足、資金難という鉄道事業者には厳しい影響が新型コロナウイルスにより起こると考えられる。未知の領域のことも多い。春のダイヤ改正を晴れやかな気分でむかえる状況にはなく、静かな、あるいは不穏な空気の中でむかえることになりそうだ。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

小林拓矢の最近の記事