台風6号に伴うフェーン現象で石川県・小松で最高気温40度、大台突破は34地点目と新たな名称が必要
増えてきた最高気温40度以上の観測
令和5年(2023年)8月10日は、九州に大雨を降らせた台風6号が朝鮮半島に進み、台風6号に吹き込む暖かい風が山越えとなった日本海側の地方では、フェーン現象が発生して気温が急上昇しました(図1)。
最高気温が一番高かったのは、石川県・小松で40.0度、次いで、新潟県・三条の39.6度、新潟県・糸魚川と青森県・弘前の39.3度など日本海側の地方でした(タイトル画像)。
石川県・小松では、フェーン現象により、夜明け前の3時頃から気温は30度を、11時過ぎに39度を超え、それから4時間近くも同様の高温が続いていましたが、15時5分に40.0度を観測したのです(図2)。
今年に入り、全国で40度に達したのは、8月5日に福島県梁川で40.0度を観測して以来2度目となります。
また、石川県では、令和元年(2019年)8月15日に、志賀で40.1度を観測していますので、それに次ぐ2地点目の40度超えとなります。
最高気温が40度を超した観測地点は、静岡県・浜松の41.1度など、石川県・小松を含めて34地点あります(表)。
また、これまで15都県で最高気温40度以上を観測していますが、東日本から東北南部に集中しています(図3)。
平均気温が高い西日本や沖縄では意外と40度以上の観測をしていません。
40度以上を観測した地点数は34地点ですが、岐阜県・多治見で8回も40度以上を観測しているなど、複数観測していますので、延べ数は73回です。
そして、73回のうち、明治・大正時代は0回、昭和時代は、昭和2年の愛媛県・宇和島、昭和8年(1933年)の山形県・山形、昭和53年(1978年)の山形県・酒田の3回しかありません。
残りの70回は平成・令和時代で、特に平成12年(2000年)以降は急増しています。
気象庁は、最高気温が40度以上の日に特別な名称を付けていませんが、猛暑日や真夏日などのように、特別な名称を付けて警戒を呼び掛ける時期にきているのかもしれません。
ちなみに、日本気象協会では、令和4年(2022年)に、気象予報士130人にアンケート調査を行い、最高気温が40度以上の日を独自に「酷暑日」と呼ぶことにしていますので、酷暑日の名称がちらほら使われだしています。
猛暑日が作られる16年前の候補だった「酷暑日」
平成14年(2002年)ころ、増えてきた35度以上の日に特別な名称を付けようとする動きができています。
猛暑日という名称が使われる前の話です。
その後、30度以上の「真夏日」より暑い日の呼び名はなく、報道機関などによって「酷暑日」「猛暑日」などバラバラな名称が使われていました。
気象庁が天気予報等で用いる用語を改正し、最高気温が35度以上の日を「猛暑日」と呼ぶほか、暑い日には「熱中症」の注意を呼びかけることにしたのは、平成19年(2007年)4月1日からです。以後、35度以上の日を「猛暑日」と呼ぶことが定着しています。
この時、35度以上の日については、「常夏日」、「超暑日」、「激暑日」などいろいろな提案がありましたが、「猛暑日」以外の強い意見は「酷暑日」でした。
「35度未満の日も猛暑と言ってきたので酷暑日にしてほしい」と訴える報道機関もありました。
しかし、「酷」は「残酷」や「過酷」など人体へのダメージや被害のイメージにつながるため気象用語としてはふさわしくないと判断されました。
気温が37度以上と、体温以上に高くなると、人体へのダメージは相当なものになることから、「35度以上の日を酷暑日とすると、将来、体温以上の日が増えてきた時の呼び名に困る」という意見もあったといわれています。
今年の猛暑日と真夏日と夏日
令和5年(2023年)は、7月下旬から太平洋高気圧の強まりによって記録的な暑さとなっています。
8月にはいると、太平洋高気圧が少し弱まってきましたが、西~北日本は太平洋高気圧に覆われて晴れる所が多く、強い日射によって気温が上昇した日が続いています。
8月10日に全国で最高気温35度以上の猛暑日を観測したのが163地点(全国で気温を観測している914地点の約18パーセント)、最高気温30度以上の真夏日を観測したのが705地点(約77パーセント)、最高気温25度以上の夏日を観測したのが881地点(約96パーセント)でした(図4)。
8月11日も、新潟県・長岡、兵庫県・豊岡、鳥取県・鳥取で最高気温の予想が39度となるなど、日本海側の地方を中心に高くなっています。
また、全国で猛暑日は215地点程度、真夏日は790地点程度、夏日は890地点程度を観測すると予想されています。
ちなみに、今年、一番多くの猛暑日を観測したのが8月3日の290地点(約32パーセント)、一番多くの真夏日を観測したのが7月29日の847地点(約93パーセント)、一番多くの夏日を観測したのが7月28日の911地点(約100パーセント)です。
一頃に比べれば猛暑日、真夏日、夏日を観測した地点数は減っていますが、高い数値であることには変わりがありません。
熱中症警戒アラート
熱中症は暑さだけでなく、湿度などとも関係しています。
このため、熱中症対策に使われているのは、「暑さ指数(WBGT:wet-bulb globe temperature)」です。
「暑さ指数」は、気温だけでなく、湿度、日射・建物や地面からの照り返し(輻射)などの熱も取り入れた数値であり、湿度7:輻射熱2:気温1の割合で算出されるように、湿度の高さが重要な要素となっています。
具体的には、次の式で表されます。
屋外:「暑さ指数(WBGT)」=0.7×湿球温度+0.2×黒球温度+0.1×乾球温度(気温)
屋内:「暑さ指数(WBGT)」=0.7×湿球温度+0.3×黒球温度
ここで、感部を布でおおって湿らせた湿球温度計で求めた温度が湿球温度です。
空気が乾いていればいるほど蒸発熱を奪われて気温(乾球温度計で求めた温度)との差が大きくなります。
黒球温度は、輻射熱を測るため、黒色に塗装された薄い銅板の球の中心に温度センサーを入れた黒球温度計で測る温度です。
「暑さ指数」の利用上の目安として、33以上:極めて危険、31以上~33未満:危険、28以上~31未満:厳重警戒、25以上~28未満:警戒、25未満:注意となっています。
環境省と気象庁が、熱中症で救急搬送される人を減らそうと令和2年(2020年)7月から関東甲信で始めたのが「熱中症警戒アラート」で、令和3年(2021年)から全国で広がりました。
「熱中症警戒アラート」が発表されたら、基本的に運動は行わないようにすると共に、身近な場所での「暑さ指数」を確認し、熱中症予防のための行動をとる必要があります。
「熱中症警戒アラート」の発表基準となっているのは、暑さ指数33以上の「極めて危険」であるときで、前日17時と当日5時に発表となります。
8月11日の前日予報では、25地域に発表となっていますが、当日発表では、さらに増えると思われます。
熱中症警戒アラートの発表地域(8月11日の前日予報)
【東北】秋田、山形
【関東・甲信】千葉
【東海】静岡、愛知、三重
【北陸】新潟、富山、石川、福井
【近畿】滋賀、京都、大阪、兵庫、和歌山
【中国】島根、鳥取
【四国】徳島、香川
【九州北部(山口県を含む)】山口、福岡、大分、長崎、熊本
【九州南部・奄美】鹿児島(奄美地方を除く)
令和5年(2023年)の熱中症警戒アラートの発表件数(前日17時と当日5時の発表をまとめて1回として集計)は、7月27日に対する前日予報の28地域で、累計が270地域となり、前年同月同日の266地域を抜いています(図5)。
そして、以後は差を広げています。
熱中症が問題となった去年以上のペースで熱中症警戒アラートが発表となっています。
タイトル画像、図1、図2の出典:ウェザーマップ提供。
図3の出典:気象庁ホームページと、ウェザーマップ提供資料をもとに筆者作成。
図4の出典:ウェザーマップ提供資料をもとに筆者作成。
図5の出典:環境省ホームページをもとに筆者作成。
表の出典:気象庁ホームページをもとに筆者作成。