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危険な溺水トラップ 冠水時の徒歩避難では注意したい 川に落ちることも

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
道路が冠水すると家の周囲のトラップが見えない(画像制作:Yahoo!JAPAN)

 道路が冠水して泥水などで覆われると、道路やその周辺にある危険性が全く見えなくなります。フタのあいたマンホール、増水した河川、側溝、田畑などがあるからです。こういった危険性を溺水トラップと呼んでいます。

 大雨が去って、天候が良くなり危険性が感じられなくなっても、冠水した道路に出るのは要注意。思わぬ危険が待っています。油断大敵です。

マンホールのトラップ

 カバーイメージで示した通り、道路には下水につながるマンホールがあります。普段は鉄のフタで口が閉じられています。洪水の時、水は河川から溢れるばかりでなく、河川に流れ込むことができない雨水が下水路を逆流して、マンホールから吹き出します。その威力でしばしばマンホールのフタが飛び上がり、外れて口があいていることがあります。

 避難途中にマンホールのトラップにはまった事故が過去にありました。マンホールに体がすっぽりと入ってしまうと、脱出はほぼ不可能です。体が垂直になり、例えば背浮きになるように体を動かすことすらできなくなります。万が一このような状態に陥ったら、背負っているリュックサック(避難袋)の浮力か、図1のように手に持っている空のペットボトルの浮力を使って浮き上がります。

図1 マンホールに落ちたら、避難袋やペットボトルなどの浮力体で浮く(筆者作成)
図1 マンホールに落ちたら、避難袋やペットボトルなどの浮力体で浮く(筆者作成)

川や側溝のトラップ

 図2を見てください。東京都足立区の荒川で過去に撮影された写真です。中央を流れるのが荒川です。その下に樹木の列が写っています。ここから上方が本来の川の流れでしょう。ところが洪水で樹木の列とその下の河川敷通路との間の境界がわからなくなっています。

 こういうところを歩かないようにします。どこからが川の流れか全く判別できません。通路から見て川の方に向かい平坦に土地が続くように見えますが、樹木の高さを見てわかるように、通路から川に向かってかなり傾斜になっているはずです。昼間でも、夜間でも、普通の状態でも、酩酊状態でも、徒歩でここに近づくだけで斜面に足を取られ、川に水没し流されて行方不明になってしまいます。

図2 河川敷まで迫った河川の水。河川敷通路と川の境界はわからない
図2 河川敷まで迫った河川の水。河川敷通路と川の境界はわからない写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート

 図3を見てください。ある地方都市の小学校の通学路にあたる道路と、その横にある側溝の写真です。この場所は周囲より土地が低くなっていて、大雨の水がこの側溝に流れ込んできます。側溝と道路の境界には反射板ポールが等間隔に設置されていて、しかもポールとポールの間にはロープが張られています。

 ここでは過去、ポールが設置されてなかった頃、大雨の時に歩行者が側溝に落ちました。道路が冠水した際に、車道を走る車を避けようと必要以上に側溝側に寄ったためです。冠水のため道路と側溝の境界の区別がつかず、ひとつは歩行者自身が側溝に気が付かなかったこと、もうひとつは自動車の運転手が「歩行者には横にまだ歩けるスペースがある」と勘違いしたことが原因として挙げられます。

図3 道路わきの側溝。冠水時に設置されているポールがなかったら、道路と側溝の境界がわからなくなる。(筆者撮影)
図3 道路わきの側溝。冠水時に設置されているポールがなかったら、道路と側溝の境界がわからなくなる。(筆者撮影)

 どんなに歩行者が気を付けていても、事故が起こる時には他の要因が重なるもの。そういった想定外があるので、やはり冠水してからの屋外避難は避けたいものです。

田畑のトラップ

 河川敷でも田畑に接する道路でも、このような場所が冠水した時、川や田畑側に落ちてもすぐに上がってこられません。それはまるでため池に転落したかのようです。斜面には草が生えていて、その斜面に水がかぶると人は滑って上がれなくなります。

 一歩一歩上がっていっても、腰が水面に出たくらいの所で足が滑って、それ以上は上がれなくなります。傾斜でいうと分度器の20度くらいよりきつくなるとこの現象が発生します。大雨で田畑の様子を見に行き、流された時に見られる事故原因です。大雨では田畑の様子を見に行かないことにつきます。

 どうしても上がれない時には、背浮きになって水面を漂い、救助がくるのを待つしかありません。近くで背浮きで浮いている人を見かけたら助けに行かずに、すぐに119番通報して、消防の救助隊を呼び、救助してもらいます。

おわりに

 冠水の中、生徒の保護者を迎えのために呼ぶと、学校を目指して急いできます。学校しか目に入らないので、いつもなら「ここに排水路がある」とわかっていても、そういったトラップにはまります。現在、多くの学校では児童や生徒に「水が引くまで安全な校舎で待機」と保護者共々に伝えます。台風・秋雨前線大雨シーズンを迎え、覚えておきたいことです。

【参考】緊急安全確保の方法 洪水から命を守る

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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