大企業のトップの考えが変わらなければ、日本の少子化は止まらない
1年間で和歌山県が消滅するインパクト
国立社会保障・人口問題研究所による人口推計によれば、1年間の人口減少数は早くも東京オリンピックから2年後の2022年には50万人台に達するとされています。その後も人口減少のペースは加速していき、2023年に60万人台、2026年に70万人台、2031年に80万人台、2037年には90万人台、そして2065年になってとうとう100万人の大台に突入するというのです。
死亡者数が天井に達する2040年から2060年までの20年間で、日本の総人口は1808万人減ると推計されていますが、単純平均すると年間の減少数は90万人超となります。2017年時点で和歌山県の人口が94万4000人、香川県の人口が96万7000人ですから、これらの県が毎年一つずつ消滅するほどのインパクトがあるわけです。
おそらくは日本の歴史はおろか、世界の歴史において、これほどまでに人口が減り続ける事態ははじめてのことです。その意味では、私たち日本人は極めて特異な時代を生きているといえますし、また、世界が日本社会の動向に大きな関心を寄せているのです。
最大の原因は東京一極集中にある
人口減少の要因は、少子化をおいて他はありません。少子化が非常に深刻なレベルにまで進んでしまったのは、女性の生き方の多様化や高学歴化、経済的な制約、子育て環境の未整備、子育て費用の増大など、さまざまな要因が複雑に絡み合った結果でありますが、何といっても最大の要因は、経済活動の東京への一極集中にあると、私は確信しています。
多くの地方では若者が高校を卒業すると、その半数は大都市圏に流出するといわれています。大学を卒業しても地元に帰ってくるケースは少ないようです。その副作用として、地方では若者が少なくなり少子化が着実に進むと同時に、高齢者の死亡数が増え続け、人口減少が加速度的に進みつつあります。
その一方で、大都市圏では若者の流入により人口が増えましたが、企業活動が活発なために結婚率の低下と晩婚化率の上昇が併行して進み、若者が多いにもかかわらず少子化が広がってきています。すなわち、地方と大都市圏では次元が違う少子化が二重で進行しているのです。
近年では、東京圏・大阪圏・名古屋圏の三大都市圏のなかでも、東京圏への人口の一極集中が少子化をいっそう深刻なものにしています。地方の若者を東京圏が吸い上げるだけでなく、東京圏では働き方が忙しいうえに生活コストが群を抜いて高いため、結婚率の低下や晩婚化・晩産化の進行、ひいては出生率の低下が悪循環のなかで進んでいるというわけです。
大企業の結婚率の恐ろしい低さ
結婚率の低さについては、やはり東京はトップを走っています。都道府県別の2015年の生涯未婚率(50歳まで一度も結婚したことのない人の割合:5年毎に行われる統計)をみてみると、男性の全国平均が23.4%であるのに対して東京は26.1%、女性の全国平均が14.1%であるのに対して東京が19.2%となっています。
ここで大いに気にかかるのは、男性よりも女性のほうが全国との差が広がっているということです。子どもを産むことができる女性の生涯未婚率が突出して高いというのは、人口減少の問題を考える時に大元の要因として捉える必要があるからです。
私が大企業の経営者や役員の方々と話をするたびにいつも実感しているのが、東京圏の大企業に勤める女性のなかでも、出産の中核となる20~39歳の女性の結婚率が恐ろしく低いということです。企業によっては50%を割り込むところも珍しくはなく、大企業に勤める女性が東京圏全体の結婚率、ひいては出生率を大幅に引き下げているという事実もわかってきました。
おそらくは東京圏の中小企業に勤める女性の結婚率も、大企業ほど低くはないにしても、地方の企業を大幅に下回る結婚率であるというのは容易に想像することができます。企業の規模にかかわらず、サービス業を中心に長時間労働が常態化しており、たとえ結婚しても子どもを産み育てる費用を考えると、今より生活が豊かになる見込みが薄いからです。
若者を飲み込む東京ブラックホール
晩婚化・晩産化の進行についても、東京がトップであり続けています。都道府県別で見た2016年の平均初婚年齢によれば、男性の全国平均が31.1歳であるのに比べて東京が32.3歳、女性の全国平均が29.4歳であるのに比べて東京が30.5歳となっています。当然のことながら、 第一子を産む女性の平均年齢も平均初婚年齢と連動するように、全国平均の30.7歳に対して、32.3歳ともっとも高くなっているのです。
おまけに、東京圏では夫婦共働きでないと生活が厳しい家庭が多く、子どもを保育施設に預けられないなど仕事と育児を両立しにくいという負の側面もあります。そういった悪循環の渦に巻き込まれながら、東京の出生率は1.21(2017年)と全国でも突出して低い数字になっているというわけです。
経済活動が活発で雇用が多い東京圏は、ブラックホールのように地方から若者を吸い上げ続けることで、都市としての高齢化を何とか防いでくることができました。他方で、東京圏に吸い上げられたがゆえに、諸事情から「結婚できない」「結婚が遅い」「子どもをつくらない」という若者が増え続けています。
その結果、東京圏の出生率は大阪圏や名古屋圏と比べても著しく低くなっており、日本全体の出生率の低下に拍車をかけ続けているのです。現実に、日本の2017年の出生率1.43と比べても、全国で最も低い東京が1.21、神奈川と千葉が1.34、埼玉が1.36と軒並み低く、東京圏への一極集中が少子化の元凶といっても差し支えない状況をつくりだしているというわけです。
経済成長率は1.0%未満がノーマルな状態に
改めて申し上げると、出生率の低下に起因する少子化の最大の要因は、東京圏へ経済活動や人口が一極集中することによって、日本全体で結婚する男女が減少し続けているのに加えて、たとえ結婚しても子どもをつくらない、つくっても1人か2人しかつくらないという現状が当たり前のようになっているからです。
しかしその当たり前のことが、そう遠くない将来には通用しなくなるということが露わになるでしょう。東京圏はこれまで地方から若者を思う存分に吸い上げてきましたが、多くの地方では東京圏に先行して少子化が深刻になっているため、これまでと同じペースで若者を供給するのは限界に近づいてきているのです。地方から若い人材の供給が足りなくなり東京圏が若さを保てなくなった時、東京圏の少子高齢化や人口減少が今の東北地方のように猛烈に進んでいくようになるのは、もはや避けられないことでしょう。
この先、2030年には現役世代1.9人で高齢者1人を、さらに2060年には1.4人で1人を支えるという社会が訪れようとしています。その結果として、国内での投資や消費に回るお金は縮小の一途を辿り、日本の経済成長率は1.0%未満が標準となる経済構造が固定化しようとしているのです。
政府は少子高齢化を乗り越えるための経済政策を推し進めようとするでしょうが、なかなか効果を発揮しにくい状況が続いていくでしょう。やはり大企業のトップが「東京一極集中を改めなければならない」という考えに変わらなければ、日本の少子化は緩和できないし、経済的な成長を追い求めるのは難しくならざるをえないのです。