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水難の概況が発表 子供の犠牲が増え 大人の生還率も半分のまま どうすればよい?

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
(写真:アフロ)

 令和元年中の水難の概況が警察庁から発表されました。件数は前年対比で減少していますが、水難者は増えて、さらに死者・行方不明者も695人と前年対比で3人増えています。大変残念なことは、中学生以下の子供の死者・行方不明者が30人と、前年対比で8人の大幅増加となったことです。

水難の概況の解釈の仕方

 毎年6月になると発表される警察庁の水難の概況。今年も6月18日付で発表になりました。詳細なデータについては公開データをご覧いただくとして、本ニュースでは、その解釈の仕方について記していきたいと思います。

 「水難事故」と記載されないのは、水難は事件の場合もあるので、事故だと思い込まないために「水難」と表記されているようです。対象となる水難は、屋外で発生した水難のうち、警察官が臨場して調書を作成した事案になります。従いまして、子供が溺れたけれど、自力で陸に上がり、そのまま家に帰ったような事案は含まれません。そのため、本当の意味での水難を網羅しているかというと、そうではないところに注意が必要です。

 令和元年では発生件数が1,298件、うち死者・行方不明者が695人です。平成元年からの推移を図1に示します。30年以上前に比べればだいぶ数が減っていますが、ここのところはあまり数に変化がありません。

図1 平成元年からの水難件数と死者・行方不明者の推移(筆者作成)
図1 平成元年からの水難件数と死者・行方不明者の推移(筆者作成)

 そのうち、中学生以下の子供の水難については、件数と死者・行方不明者数で大きく減っています。昭和54年(1979年)には年間1,044人の子供が命を落としていた(警察庁 昭和54年水難統計)ことを考えると、大きな成果だと思います。ただ、平成30年中には22人の犠牲者に抑えたのに昨年に8人も大幅に増加したことについては、今を生きる我々として重く受け止めなければなりません。

 もう少し詳しく見ていきましょう。水難にあった中学生以下の子供は190人。そのうち、生還した子供は160人です。つまり、生還した子供の割合(生還率)は84.2%です。図2をご覧ください。平成17年からの調査では70%強だった生還率が一昨年は88.6%まで上昇しています。昨年は一昨年から4ポイントほど下がりました。このあたりも死者・行方不明者数を押し上げる要因かと思われます。

図2 平成元年からの生還率の推移(筆者作成)
図2 平成元年からの生還率の推移(筆者作成)

 一方、高校相当年齢以上の人ではどうでしょうか。水難者数は1,348人、そのうち生還者数は683人。生還率は50.7%となりました。図2に同じように平成17年からの推移を示します。ここのところ順調に上がり、平成29年に50%を上回り、一昨年一度50%を割りましたが、また50%を超えてきました。中学生以下の子供の生還率に比べるとだいぶ低いのですが、それでも、ういてまて教室で背浮きを習った世代が続々大人になりつつあり、現場の報告でも浮いて救助を待つ人がそれなりに増えています。

 都道府県別の死者・行方不明者数を見ると、特に中学生以下の子供では特定の県の数が目立ちます。愛知県(3人)、大阪府(3人)、高知県(3人)、福岡県(3人)です。多重水難で一度に複数の子供が溺れた事案のあった県、一人ずつの事案が積み重なってしまった県、様々です。いずれにしても、子供の犠牲の多かった県では、今年は特に重点的な対策を取っていただければと思います。

 水難の発生した場所については、全年齢の総計では海が半分以上(54.4%)を占めますが、子供だけに限れば河川が半分(50%)を占めます。これは年齢によって行動範囲が異なるためです。すなわち、大人は海に向かい、子供は近所の川や池に向かいます。水難の件数は「その場所の危険×出向いた人数」で件数が決まります。

 行為別では、魚とり・釣りが一番多く、続いて水遊び、そして水泳です。水泳は一時、通行中よりも低くなったのですが、昨年は多くなりました。暑い日が続いたせいでしょうか。子供の場合には、水遊びが最も高い割合(46.7%)となります。今年も子供が川や水路で水遊びや釣りをしていて、5月から6月にかけて7人も命を落としています。まだ夏休みも迎えていないのに、この状況、大丈夫でしょうか。

参考  平日の子供の水難事故が多発 お父さんも犠牲に どうすればいい?

今年の対策はどうすればよいか

 新型コロナウイルス感染拡大を抑制するために、今年の夏は多くのプールや海水浴場が開かれないようです。今まで夏休みの子供たちを受け入れていた学校プールも中止ということになれば、子供たちの向かう場所は近所の川や池になります。

1.今年は地域の皆さんの協力で、子供だけの川遊びなどを言葉で注意していく必要があります。

2.川や池に向かわせないため、自宅などに簡易プールを作って、そこで水遊びをさせるという手段もあります。

参考  おうちでプール 外に泳ぎに行けない家族の新しい生活様式 小さなプールで水遊びの巻

参考  おうちでプール 親子で手つなぎラッコを楽しもう 大きなプールで水遊びの巻

3.大きなプールに子供を集めるのが、事故を防ぐ最善の方法です。夏休みの間だけでも、ぜひ学校プールや公共プールを開放してはいかがでしょうか。

4.以上のことが現実的にどうしても難しいということであれば、学校やご家庭で「浮いて救助を待つ方法」を座学でもいいので教えてあげてください。筆者の作製した動画もいくつかあります。

参考  ういてまて 水災害から命を守る教室で、何を学ぶのか

まとめ

 警察庁の水難の概況が発表されると、いよいよ本格的な水難のシーズンに入ります。これから事故の危険性が上がる時期。いろいろと気を付けなければならず、気が重くなりますが、大事な子供の命、そして大人の命を、水の事故から守りつつ、夏を過ごしましょう。

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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