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ういてまて 水災害から命を守る教室で、何を学ぶのか

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
小学校等で実施される、ういてまて教室での背浮きイラスト(筆者作成)

 今年の秋の災害では、洪水に巻き込まれたりして多くの方が亡くなりました。その一方で、洪水の水面にて背浮きで2時間も漂流した後、助けられた方もいました。この背浮き、全国の小学校等で実施されるういてまて教室の主たる実技です。

 11月9日に新潟県長岡市の長岡技術科学大学にて、その指導を担う者を養成する講習会が開催されました。ういてまて教室のオフシーズンとなる9月から翌年3月に全国各地で行われている講習会の一つです。

 参加者は、スポーツインストラクターや消防士などで、来年の夏休み前から地元の小学校等でういてまて教室を担当する意気込みで受講にきました。

 図1 に学科講習の様子を示します。学科では、小学校等で教室を担当する際の安全管理法について、2時間半にわたり重点的に学ぶことができます。

図1 学科講習の様子(筆者撮影)
図1 学科講習の様子(筆者撮影)

 ここから動画で実技の説明に入ります。動画を見様見真似しないようにご理解をお願いします。概要をつまんだだけで、すべてを動画にしているわけではありません。安全管理ができていないと実技練習から大きな事故に発展する恐れがあります。また、動画につきましては、すべて水難学会で撮影されています。それぞれ10秒から1分30秒ほどの長さです。

着衣状態での実技講習

・入水  溺れるきっかけは、水の深さを確かめずに水に入ってしまった時です。正しい水への入り方があります。プール(水)に背中を向けて両手を陸に置いて、足からゆっくりと入ります。

・ウエイディング  歩いて避難中、思わぬ深みがないように水底を足裏で確認しながら歩くようにします。ウエイディングとは、足のつく深さで水底を歩く動作です。着衣のため、歩くと水の抵抗がかなりあることに気がつきます。実技練習では反対側のプールサイドに向かって歩き、前向き、横向き、後向きなどで身のこなしを体感します。

動画1 入水とウエイディング (Entry and wading)

・プール洗濯機  流れの中では流れにのるしかありません。逆らうとものすごい水圧に襲われます。皆さん、走ろうとしていますが、水の抵抗が強くて走れません。

動画2 プール洗濯機 (Washing pool)

・災害対応実技1  リュックサックを抱えたまま深みにはまったら、浮き上がります。沈水後、リュックサックの浮力で浮き上がり、背浮きをして、バタ足などを使って元にもどります。

動画3 沈水とリカバリ (Disaster response drill)

・災害対応実技2  浮くものがない状態で深みにはまったら、自力で浮き上がります。水中で両手を羽ばたくように動かし、その浮力で浮き上がり、背浮きをして、バタ足などを使って元にもどります。

動画4 沈水とリカバリ 浮力なし (Disaster response drill)

・災害対応実技3  背浮きで浮いていて、大きな浮きもの(浮力体)に近づいたら這い上がります。まず安定した背浮きで浮力体に近づきます。次に浮力体に片手をかけて保持します。確保した手の方向に体を回転してうつ伏せになります。上半身の力とバタ足で浮力体の上に上体を乗せます。倒れ込むように上体を乗せます。浮力体の高さが水面から10cmまでなら、このように這い上がることができます。 

動画5 這い上がり (Disaster response drill)

・複合演習  今年の水災害では、洪水の中浮いている人を助けたというニュースがありました。ペットボトルも浮力に使えます。入水前、バディでプールサイドに整列し、指さし確認をしながら「水面よし」と確認します。そして落水者は一歩踏み出して落水します。落水したら、うつ伏せの状態から体を反転し背浮きになります。安定した背浮きになったら、方向転換してプールサイドに移動します。 

動画6 複合演習 (Comprehensive drill)   

参考 沖に流されたら、どうして大人が犠牲になる?そうなるのが水難事故だ

水着状態での基本実技講習

 ういてまて教室で指導する人は、水着の状態です。そのため、水着でもきれいに実技展示ができるように指導員養成講習会で訓練します。原理原則に興味のある方は、ここから先を特にお読みください。

・入水  水かけは心臓から遠いほうから順にかけます。プールサイドの方向に身体を回転させます。そして、入水します。つま先がプールの底に届くまで、腕の力を抜きません。

動画7 入水 (Entry)   

・退水   足が届かなかったり、プールから上がったりする時の這い上がり方です。水着では楽々上がれますが、着衣での基本は這い上がり退水になります。

動画8 退水 (Exit)  

・立ち方  手を下方に押し下げながら膝を胸に近づけます。足が水底についたら顔を上げます。また、背浮きから立ち上がる時には、両手で水をかき上げ膝を胸に近づけ、体が垂直になったら足を水底につけ、顔を上げます。

動画9 立ち方 (How to stand up)

・ウエイディング  1回目は正面を向いて歩きます。2回目は横向き、後ろ向きに体の向きを変えて歩きます。着衣状態よりかなり楽に歩くことができます。

動画10 ウエイディング (Wading)

・プール洗濯機  オーバーフローに沿って並びます。一斉に走りある程度回ったら笛の合図で逆回りします。列の先頭は体格が大きく体力のある人とします。反転した直後の反応に注目してみてください。

動画11 プール洗濯機 (Washing pool)

・潜水  呼吸法で人の体は浮いたり、沈んだりします。軽くジャンプして上半身を水面上に出します。反動で沈み、全身が水中に没したら息を吐き出します。体が沈んだら体を大の字にし、5秒水底にへばりつきます。浮き上がる時には、手で水底を押してゆっくり浮上します。

動画12 潜水 (Submersion)

・ペットボトルと靴で浮く背浮き  ペットボトルの中心がへその辺りにくるように持ちます。ペットボトルを持った手が水面から出ないようにします。肩まで沈み息を十分に吸い、ゆっくり後ろに倒れ耳が水についてから足を離して背浮きをします。

動画13 ペットボトルと靴で浮く背浮き (Back float with bottle and shoes)     

・靴で浮く背浮き  プールサイドの端から手を離すと同時に両足で壁を蹴ります。両足が水面に出て安定したら基本姿勢とします。

動画14 靴で浮く背浮き (Back float with shoes)

・スカーリング  靴を履いて行うことに特徴があります。手を使って浮力を得ます。ういてまて教室では、移動手段ではなくて、背浮き補助動作として活用します。

動画15 スカーリング (Float position assist)

・エレメンタリーバックストローク  靴を履いて行うことに特徴があります。基本の背浮きから始めます。手を上げていくのと同時に足の引き付け動作を行います。足を蹴り出しながら少し遅れて手をかきます。安全に移動ができる場合や移動しないと危険な状況の時に行います。

動画16 エレメンタリーバックストロール (Elementary backstroke)  

・浮き具使用の立泳ぎ  2本のペットボトルを持って背浮きになります。腰を引くようにしてゆっくり上体を起こします。上体が垂直になったらペットボトルを両脇に挟み込みます。

動画17 浮き具使用の立泳ぎ (Face up with bottles)  

まとめ

 動画を中心に、ういてまての実技をまとめました。たまたま今回は男性ばかりの参加者でしたが、女性消防団、女性教員、主婦などの指導員も夏休み前に関係する学校で活躍しています。指導員になるのに、浮くだけですから泳げる必要はありません。ぜひ多くの方に関心を持っていただき、一人でも多くの子供や大人を水難事故から生還させたいと思います。

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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