【パリ】ここでも日本人建築家が活躍。16年の沈黙から蘇ったデパート「サマリテーヌ」。
セーヌ川のほとり、ポンヌフのたもとにそびえる「サマリテーヌ」といえば、1870年の創業以来パリっ子たちに親しまれてきたデパートです。2005年に休館となり、以来16年もの長きにわたって閉鎖されたままでしたが、このたび6月23日にいよいよリニューアルオープンとなりました。
それに先立つ21日には、マクロン大統領夫妻の臨席でオープニングセレモニーが行われ、現在のオーナーであるLVMHグループの会長、ベルナール・アルノー氏が大統領を迎えました。
筆者は、その数日前のプレス内覧会で新装なったデパートを一足先に巡ることができました。館内の様子はこちらの動画からご覧いただけます。
建築史のパノラマを体感
新生「サマリテーヌ」は、3つの建物から成っています。ポンヌフに面したアール・デコスタイルの建物、その内側のボリュームゾーンであるアール・ヌーヴォー建築。この2つは歴史的建造物の部分で、今回はさらに北側のリヴォリ通り側に新しくガラス張りの建物ができました。この設計を担当したのが、日本のSANAA。妹島和世さんと西沢立衛さん、ふたりの建築家ユニットです。
以前ご紹介した「ブルス・ドゥ・コメルス」では安藤忠雄さん。そしてそこから歩いてすぐのところにある「サマリテーヌ」は妹島さんと西沢さんというように、パリの建築史に日本人の名前が刻まれてゆくのは、同胞としてほんとうに誇らしいことです。
デパートの存在意義
それにしても、16年間の閉鎖というのはなんとも長いことです。
個人的なことですが、筆者は閉鎖前の「サマリテーヌ」の近くに住んでいたので、当時の様子を記憶していますが、屋上のレストランの眺望は素晴らしいものの、デパートの売り場は正直なところ(終わっているな…)という雰囲気で、時代遅れの感は否めませんでした。
「サマリテーヌにはなんでもある」というのが、このデパートの発祥からのスローガンだったといいます。パリっ子たちにとって世代を超えての思い出が詰まっているというくらい愛された場所だったはずなのですが、時代は変わり、客足も次第に遠のいていたのでした。
そして2001年、LVMHグループが買収。改装を意図してのことでした。ところが、安全上の理由から完全に閉鎖しなくてはならず、新規開店まで沈黙すること16年。正直なところ、LVMHグループ会長のアルノー氏もここまで難航することは想定していなかったようですが、行政上の手続きにたいへんな時間とエネルギーを費やし、建築許可が下りたのが2015年のことだったのだとか。ちなみに、新装開店までにかかった費用は7億50万ユーロ(日本円でおよそ990億円)にのぼるそうです。
「サマリテーヌ」全体の床面積は8万平米ほどあるようですが、今回のルネッサンスではそれをまるまるデパートとするのではなく、ホテル、住居もある複合施設としています。
デパート部分の総床面積は2万平米。これはパリの他のデパートに比べると小さいもので、台所用品や家具、寝具などあらゆる分野を網羅したものではありません。むしろファッション、コスメティック、そしてガストロノミーに特化していることが明白で、「サマリテーヌにはなんでもある」というスローガンは今は昔のことになりました。
「デパートとしては最小、コンセプトストアとしては最大」というお店の方の説明は言い得て妙。また、アルノー会長がオープニング当日、テレビニュースのためのインタビューで「ものを買うだけならインターネットでできる」と言っていたのは象徴的で、なんでも揃っているデパートの時代は終わり、商業施設としての新しい方向性を提示しているように見えます。
それはおそらく、場所そのものを五感で体験すること。ファッションを目で見て、触れて、身につけてみる。コスメティックのテクスチャーや香りを比べたり、旬のシェフたちの料理を味わう…。
具体的には、地下のコスメティックフロアは欧州最大規模でスパ施設も併設。最上階がレストランフロアになっているほか館内の随所に開放的なイートインスペースがあるなど、たしかにこれまでとはまったく違う印象です。
9月にはホテルがオープン
セーヌに面したアールデコ建築の部分の大半は、「シュヴァル・ブラン」という名前の超高級ホテルとして9月7日のオープンが発表されました。
客室数72。もっとも小さいサイズの客室でも45平米といいますから、パリの平均からするとかなり広いもので、量より質、リュクスを追求していることがわかります。
宿泊料金は1室1泊1050ユーロ(およそ14万円)からとのこと。サイトではすでに予約がスタートしていますので、ご興味のあるかたはぜひ。